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【社説】

中間選挙とトランプ氏 国民統合の価値を悟れ

 トランプ大統領に厳しい審判である。中間選挙は排他的なトランプ流の限界を示した。万人のための大統領に変身し、社会融和を図るべきだ。

 南部ジョージア州で高校の総代に選ばれた黒人女生徒が、知事公邸での祝賀会に招かれた。車を持っていないので、女生徒と付き添いの親はバスで公邸を訪れた。それを見て警備員は「あなたたちが来るところではない」と門前払いしようとした。女生徒が語る一九九〇年代初めのエピソードだ。

◆女性らがうねり起こす

 そんな差別と偏見を味わった女生徒が、連邦議会選と同時に行われたジョージア州知事選で大接戦を演じた。民主党のステイシー・エイブラムスさん(44)だ。ジョージア州は共和党の地盤、いわゆる「レッドステート(赤い州)」。六〇年代は人種差別撤廃を求める公民権運動が燃え盛った地だ。当選すれば米国史上初の黒人女性知事の誕生である。

 エイブラムスさんは共和党支持層に訴えることはしなかった。それよりも従来の民主党支持票を掘り起こすとともに、黒人やヒスパニック(中南米系)のマイノリティー(少数派)票の開拓に努めた。民主党支持の多いマイノリティーだが投票率が低い。投票に必要な有権者登録をしていない人も多い。投票に行ってもらえたら勝算は生まれる、と懸けた。

 過去の中間選挙の投票率は平均で40%前後だが、今回は大幅に増えるのは確実だ。

 マイノリティーと若者が投票に行くかどうかが、中間選挙の大きな焦点だった。民主党が下院で多数を占めたのは、この二者の投票行動によるところも大きい。

 政治の担い手になろうと立候補した女性も急増した。米ラトガース大学の「米国女性と政治センター」によると、上院選には二十二人、下院選には二百三十五人の女性が出馬し、ともに過去最多。民主党が両院で七割以上を占めた。トランプ政治への危機感がばねになった。

 前向きな面ばかりではない。より鮮明になったのは、社会分断の底知れない深さである。

 共和党はより保守化し、民主党は一層リベラルに傾いた。両極化につれて、考え方や価値観の異なる者を理解しようともしない傾向が強まった。

 エイブラムスさんのように、対立する政党の支持者の取り込みを、はなから期待しない選挙戦術の背後にはこんな現実がある。

◆あおられる憎悪と対立

 だが、政治は本来、立場の違う者を説得して幅広い合意形成を目指すのが望ましい。聞く耳持たない姿勢では、激しい党派対立に明け暮れるだけになってしまう。

 分断はイデオロギーだけではない。信仰や人種などにも及ぶ。対立や憎悪をあおり、偏見を解き放ったのはトランプ氏である。

 十月にペンシルベニア州のユダヤ教会堂で起きた銃乱射事件は、憎悪犯罪(ヘイトクライム)の疑いが濃厚だ。地元のユダヤ教指導者はトランプ氏に公開書簡を送り「犯行はあなたの直接的な影響が頂点に達したものだ」と断罪。差別をやめない限り、現地への弔問は控えてほしいと求めた。書簡には八万を超える人が署名した。

 ところで、議会に「ねじれ」が起きることは、トランプ氏へのブレーキになる。立法権を持つ議会の権限は強い。予算も大統領は予算教書として方針を議会に示すが、編成権を握る議会がこれに従う義務はない。トランプ氏に必要なのは議会との対話である。

 トランプ氏が最も神経をとがらせるのは、下院が過半数の賛成で大統領を弾劾訴追できることだろう。大統領選へのロシアの介入にトランプ陣営も結託していたという「ロシアゲート疑惑」の捜査は続いている。

 大統領就任以来、支持者受けする政策を繰り出し、支持固めを図ってきたのがトランプ氏だ。おかげで支持率は四割ほどと低いものの安定はしている。だが、今回のように投票率が高くなれば、支持層だけでは追いつけない可能性がでてくる。

 分断は社会の緊張を強め、エネルギーをいたずらに消耗する。悪くすると国は自壊に至る。指導者は国民統合の先導者であるはずだ。トランプ氏は異なる意見に耳を傾けなくてはならない。

◆米第一主義の旗降ろせ

 一方、日本を含む国際社会は中間選挙を機に、米国第一主義の旗を降ろして責任ある行動をとるよう、トランプ氏に働き掛けを強めるべきだ。

 不毛な貿易戦争をやめ、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」や環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を再考することが、米国ばかりかトランプ氏自身のためになることを粘り強く説いてほしい。

 

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