ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
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城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝はコーヒーで始まります。
「モキュモキュ。朝のコーヒーキャラメルは最高でありんちゅ」
ありんすちゃんは両頬をふくらませたままモゴモゴしています。
「ありんすちゃん。お菓子ばかり食べていないでちゃんと食事しないと大きくなれないぞ」
探偵助手のキーノが苦言を述べます。
「……キーノはうるちゃいでありんちゅね。キーノは食事してるでありんちゅがじぇんじぇんおっき、なんないでありんちゅ」
「──な!」
ありんすちゃんの冷たい視線を胸もとに感じながらキーノは思わず叫びました。
ありんすちゃんには内緒にしていますが、キーノの正体はアンデッドの吸血姫なので14歳位の外見から成長出来ないのでした。
「ツルペタキーノはナーベに勝てっこないでありんちゅよ」
「──言うな! うわーーーー!」
容赦ないありんすちゃんの言葉にキーノは思わずうずくまります。と、入り口の鈴がチリンチリンと来客を知らせました。
「──いらっしゃい……ま、せ……? うえ?」
依頼者には頭がありませんでした。
※ ※ ※
凍りついた助手に蹴りをいれながらありんすちゃんがにこやかに来客を迎えます。
「ありんちゅちゃ探偵にようこちょ。むじゅかちい事件、なんでも解決しるでありんちゅよ」
頭のないメイド姿の女性はお辞儀をすると答えました。
「……ボク……私の名前はユリ・アルファと申します。是非、私の頭を捜して下さい」
※ ※ ※
「はい。ボク……私の種族はデュラハンでしてもともと頭が胴体から離れているのです。普段は首の繋ぎ目をチョーカーで隠しているのですが……」
依頼者のユリの言葉を聞きながらありんすちゃんはノートにメモをとります。キーノが自由帳と書かれた表紙のノートを覗き込むとユリを描いたような落書きがあるだけでした。
「……頭を奪った犯人は見ませんでした。袋か布をいきなり被せられたと思ったら、フワリと空に浮かび上がって空を飛ぶような感覚が……」
「……空でありんちゅか。なるほど、でありんちゅ」
ありんすちゃんは頷きながらメモをとります。しかしキーノの方からはユリの絵の胸にグリグリと丸を描いていただけなのが見えました。
「……その晩、なにやら暗いフカフカした中に入れられました。目隠しみたいなものをされていたみたいでした。口の中に何か入れられたような……私の頭はそのままフカフカした中に入れられているみたいです……」
ありんすちゃんは顔を上げました。
「……お菓子でありんちゅか?」
「……いや、食べ物ではなかったような……うーん……ボクにはそれ以上わかりません……」
「ありんちゅちゃにまかちぇるでありんちゅ」
かくてユリの頭部の捜索依頼をありんす探偵社で受ける事になりました。
※ ※ ※
事件はある日、呆気なく解決しました。
ユリの頭部は犯人と一緒に探偵社につき出されたのでした。
「ほら、弟。頭を下げる!」
「……全くボクの娘になんて事を……」
ピンク色のスライムと巨大なガントレットをはめたゴーレムが弱々しいバードマンの頭を下げさせます。
「──これは至高のお方がた──」
ユリの唇にゴーレムの指が当てられつぐませます。
「──この馬鹿弟がまさかユリの頭をオナホ──」
「───わーー! わーー!」
ピンク色のスライムの言葉をなぜかゴーレムが遮りました。
「……なにはともあれ解決したでありんちゅ」
キーノは胸のなかで『今回何もしていないじゃん』と突っこみを入れながらも黙っていました。
罪を後悔するバードマンの嘆きはいつまでもいつまでも続くのでした。