ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫
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そして誰もいなくなった

 とある孤島に招かれた八人の客と二人の使用人。館の主、謎の人物──U・N・オーエン。

 

 嵐となり、絶海の孤島に閉じ込められる十人。童謡『十人のメイドさん』になぞられて一つ、また一つと姿を消していくメイド人形。

 

 招待客として居合わせた美少女探偵ありんすちゃんはこの謎が解けるだろうか?

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「おお! なかなか立派な館だな! ありんすちゃん、このオーエンとかいう人物はなかなかの人物みたいだぞ」

 

 ありんす探偵社助手のキーノは上気した面持ちでありんすちゃんを振り返りました。

 

「当然でありんちゅ。オーメンはきっとどこかの王族でありんちゅよ」

 

 うーん……ありんすちゃん、オーメンでなくてオーエンです。

 

 ありんすちゃんが扉のノッカーをカツンカツンと鳴らすと白髪の執事が扉を開けました。

 

「ようこそ。私は主のオーエン様から皆様をもてなすよう、言いつかりました執事のセバス、そして──」

 

「使用人のツアレと申します」

 

 セバスの後ろからメイド服を来た女性が続けて挨拶しました。

 

「ありんちゅ探偵ちゃのありんちゅちゃでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんが名乗るとセバスの顔が曇りました。

 

「……恐れ入りますが……ありんすちゃんなるお名前は承っておりません。失礼ではありますが、主、オーエンからの招待状をお見せ下さいませんでしょうか?」

 

 ありんすちゃんはポケットからクシャクシャになった招待状を取り出しました。宛名はシャルティア・ブラッドフォールンと書かれた上を二本線で消して『ありんすちゃん』と書かれていました。

 

「……結構です。お二人で客人八名が全員そろいます。他の方々は既にラウンジでお待ち頂いております」

 

 ありんすちゃんと助手のキーノはセバスとツアレの後に続いて館に入っていきました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ラウンジで思い思いにくつろいでいた客は六人共メイドの格好をしていました。

 

「……こんな事ならありんちゅちゃもメイド服を着てきちゃら良かったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはため息をつきました。

 

 そこにセバスが現れて皆に伝えます。

 

「皆様、我が主、オーエン様からのメッセージがございます」

 

 セバスの隣でツアレが蓄音機を回しました。

 

「わたくしはオーエン。ここに集まった者達の罪を明らかにする。セバスチャン。お前はアインズ様をないがしろにし、報告を怠った。その罪は許されるものではない」

 

 セバスの顔がたちまち真っ青になりました。

 

「ツアレーニニャ。お前は人間の身でありながらアインズ様の庇護を受けた。これは許されざる罪である」

 

 ツアレは真っ青になり、思わず蓄音機から手を放しうずくまります。セバスが優しく肩を抱き、二人で蓄音機を回しました。

 

「ユリ・アルファ。アインズ様の命に背き慈悲深い死を子供達に与えなかった。これも許されざる罪である」

 

 夜会巻きの髪型の眼鏡をかけたメイドがワナワナと震え出しました。

 

「ルプスレギナ・ベータ。あろうことかアインズ様のお怒りを受けたお前は万死に価する」

 

 赤茶けた髪に浅黒い顔のメイドがガックリと俯きました。

 

「ナーベラル・ガンマ。アインズ様と一緒に冒険者の真似などうらやまし──ゴホン。許されざる罪である」

 

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。恐怖公の眷族が恐れをなしてアインズ様のおわす第九階層に避難する騒ぎを起こしたのは許されざる罪である」

 

 和風のメイド服を着たメイドが目をバチクリさせました。

 

「シズ・デルタ。アインズ様のヌルヌル君に一円シールを貼った事で、手違いからヌルヌル君が売られてしまった原因となった事は決して許されない事である」

 

 眼帯をしたメイドがやれやれと首をすくめました。

 

「ソリュシャン・イプシロン。アインズ様の三吉君を隠した罪は許されざるものであり、重罪である」

 

 金髪のメイドが震え出しました。

 

「シャルティア・ブラッドフォールン。事もあろうにアインズ様に反逆した罪は椅子程度では許されるものではない」

 

 ありんすちゃんは周りをキョロキョロしましたが、誰も反応しませんでした。

 

「最後にアルベド。守護者統括としてアインズ様を支える立場ながらアインズ様の正妻にならないのは罪である。アインズ様の御子を残す事は……ゴホンゴホン……ナザリックの総意である」

 

 ラウンジにいた全員が顔を見合わせましたが、誰も心当たりがありませんでした。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……どうやら終わりの様です」

 

 まだ青ざめた顔色のセバスが口を開きました。

 

 ありんすちゃんとキーノの他は誰もが青ざめて立ち竦んでいるようでした。静まりかえったラウンジでありんすちゃんが勢いよく立ちあがりました。

 

「ここは名探偵ありんちゅちゃにまかしぇるありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは改めて自分がエ・ランテルで名高い美少女探偵ありんすちゃんであると明かすと皆に安堵の空気が広がりました。ありんすちゃんは早速捜査を開始します。

 

 まずはセバスとツアレの二人に聞き込みをしました。その結果、二人は雇い主のオーエン氏とは一切面識が無く、今回この館に派遣されただけという事、更にオーエン氏からの指示は手紙やメモによるものだという事、蓄音機ににはあらかじめオーエン氏がレコードが用意されていて、皆に聞かせる様にとの指示に従っただけで内容を知らなかった事、等がわかりました。

 

 次にありんすちゃんは客のメイド達から聞き取りをしました。すると、彼女達は互いに初対面だという事、レコードの内容にはそれぞれ心当たりがあるという事、名前のあったシャルティアとアルベドという人物には心当たりがない事、等がわかりました。

 

「……ずいぶん珍しくありんすちゃんが探偵らしい仕事をしているな。いつもこうだったら良いのにな……うん? 何だろうこれは? 童謡かなにかの歌詞かな?」

 

 キーノは壁のタペストリーに目を止めました。極彩色の糸で織られたタペストリーには可愛らしいメイドの絵と童謡の歌詞が描かれていました。それは──

 

『十人のかわいいメイドさん 食事に出かけた

 

一人がたくさん食べ過ぎて 九人になった

 

九人のかわいいメイドさん 夜更かししてゲーム

 

一人が徹夜になって 八人になった

 

八人のかわいいメイドさん 王国へ出かけた

 

一人が道に迷って 七人になった

 

七人のかわいいメイドさん 張り切って薪を割る

 

一人が熱中し過ぎて 六人になった

 

六人のかわいいメイドさん 蜂蜜大好き

 

一人が蜂に追われて 五人になった

 

五人のかわいいメイドさん 裁判ゴッコをした

 

一人が罰を受けて 四人になった

 

四人のかわいいメイドさん 海に出かけた

 

一人がヤツメウナギに呑まれて 三人になった

 

三人のかわいいメイドさん 動物園にいった

 

一人がゴリラに抱きつかれて 二人になった

 

二人のかわいいメイドさん 日光浴をした

 

一人がこんがり小麦色 一人になった

 

一人のかわいいメイドさん 独りぼっち

 

最後の一人がお嫁にいって そして誰もいなくなった』

 

「……ありんすちゃん! ……これって……」

 

 思わずキーノはありんすちゃんを振り向きました。しかし、ありんすちゃんの興味はタペストリーの下のサイドテーブルの上に置かれた十体の小さなメイド人形にあったのでした。

 

「可愛らしいでありんちゅ」

 

 ありんすちゃん達の捜査が一段落した頃を見計らってセバスが皆に提案しました。

 

「……それでは皆様。食事の仕度をしましょう。こう見えてこのツアレはなかなか料理が得意なんですよ」

 

 セバスの言葉にありんすちゃんのお腹が思わずグウーと鳴り、皆は食堂に移動するのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……もうお腹が一杯でありんちゅ」

 

「……ほら、口の周りがシチューだらけだぞ?」

 

 満足そうなありんすちゃんの口の周りの汚れをキーノがナプキンで綺麗にします。ツアレの料理はなかなかの美味でした。田舎の家庭料理みたいな素朴なものでしたが、とても美味しかったのでありんすちゃんは三杯もお代わりしちゃったんですって。

 

「……お腹がポンポンでありんちゅ」

 

 キーノはふと、先程の童謡の歌詞が頭をよぎりましたが、すぐに首を振りました。

 

 ──まさかな。考えすぎだ。

 

 しかし、キーノは気が付きませんでしたが、この時に小さなメイド人形は九体になっていたのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……わあ! テレビゲームがあるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんが大喜びで駆け寄ります。

 

「──ありんす様、ちょっとお待ちください。実は主より皆様に楽しんで頂く趣向が色々御座いまして……えー、ゴホン。一番目。まずは皆様にご馳走で満腹になって頂く──これは済みましたね。えー、二番目。皆様に朝までゲームを楽しんで頂く。成る程。これも主が用意したものでしたか。では、存分にお楽しみ下さい」

 

 ゲームが大好きなありんすちゃんは大喜びです。結局、朝まで徹夜をしてしまったそうです。

 

 そして……誰も気が付かなかったみたいでしたが、朝にはメイド人形の数が八体に減っていました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 朝になりました。ありんすちゃんは一睡もしていませんが元気一杯です。それもそのはず、ありんすちゃんは実はアンデッドの吸血鬼、真祖だったりします。ちなみに助手のキーノも吸血姫だったりしますが、これはオバロファンの一部が知らない秘密だったりします。

 

 食堂で朝食を済ませるとセバスが言いました。

 

「今日は三番目。王国クイズ大会です。どうやら書斎に準備されているようです」

 

 セバスを先頭に皆は書斎に向かいました。

 

 書斎には八つの席が用意されていました。頭にはボタンを押すと光るシルクハットを被ります。ありんすちゃんとキーノ、客のメイドの八人がクイズに挑戦する事になりました。

 

「第一問。王国の正式名称は何でしょう?」

 

 ──ピンポーン!

 

「リ・エスティーゼ王国!」

 

「正解! ソリュシャンさんクリアです」

 

 ソリュシャンが優雅に席を立ちます。

 

「第二問。黄金の異名があるお姫様とは誰?」

 

 ──ピンポーン!

 

 おお! ありんすちゃんが答えます。

 

「ありんちゅちゃ!」

 

「残念! ラナー王女でした。不正解のありんす様は罰ゲームです」

 

 次の瞬間、ありんすちゃんの席の床が抜けて下に落ちてしまいました。ありんすちゃんは真っ暗な迷宮に落とされてしまったのでした。

 

 残された九人がラウンジに移動すると、そこにはありんすちゃんがニコニコしながら待っていました。

 

「ちゅごいしゅべり台でありんちゅ。ありんちゅちゃはテレポーテーショで戻ってきちゃでありんちゅ」

 

 サイドテーブルの上のメイド人形は七体に減っていました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「四番目。次は薪割りをして頂きます。斧はこちらをお使い下さい」

 

 セバスは皆を中庭に連れ出しました。

 

「ありんちゅちゃがやるでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんはセバスが手にした斧を無視して自分の爪で次々に薪を割っていきます。あっという間に全ての薪割りが終わってしまいました。

 

 皆がラウンジに戻るとメイド人形が六体に減っていましたが、誰も気づきませんでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ゴホン。次は五番目ですね。おやつを召し上がって頂きます。蜂蜜たっぷりのパンケーキをどうぞ」

 

 ありんすちゃんは大喜びです。あっという間に平らげて、まだ足りなくてキーノの分まで食べてしまいました。その時に口の中でチクッとしましたが、気にしませんでした。

 

 そしてサイドテーブルの上のメイド人形は五体に減っていました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「いよいよ六番目です。裁判官に扮して裁判の真似を楽しんで頂く、という趣向です」

 

 セバスに連れられて客間の一つにやって来ると、そこには裁判官の顔はめパネルがありました。

 

「ありんちゅちゃがやりたいでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは背伸びをしましたが顔が届きません。顔はめ用の穴から頭のリボンが見えるだけでした。

 

 と、パアアン! と乾いた音がして、ありんすちゃんのリボンに穴が空いてしまいました。

 

 

 皆がラウンジに戻るとメイド人形が四体に減っていましたが、またしても誰も気が付きませんでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「次は七番目です。主からの指示は皆様に海でお楽しみ頂くとの事です」

 

 皆は岩場にある船着き場にやって来ました。いつもは真っ先に行動するありんすちゃんが大人しくしています。

 

 波はまだ荒く、用意されたボートは今にもひっくり返りそうです。

 

 実は吸血鬼は波が苦手なんですよね。

 

 あらあら、大変です。ありんすちゃんとキーノの二人がボートに乗せられてしまいました。折しも大きな波が……なんと二人が乗ったボートはひっくり返って沈んでしまいました。

 

 サイドテーブルの上のメイド人形は三体に減っていました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 ラウンジに戻るとありんすちゃんは口を尖らせて怒っていました。ボートが転覆する瞬間に〈フライ〉で飛んだので二人共無事ではありましたが……無茶をさせられたので怒って当然ですよね。

 

「えー、次は八番目ですが──」

 

「ちょっとまちゅでありんちゅ! 今日は何曜日でありんちゅか?」

 

 セバスの言葉をありんすちゃんが遮りました。ありんすちゃんの勢いに飲まれてセバスが答えます。

 

「……火曜日、ですが」

 

「大変でありんちゅ。オーバーロードⅡがやるでありんちゅ! キーノ、しゅぐ帰るでありんちゅ! 〈ゲート!〉」

 

 ありんすちゃんは〈ゲート〉を発動しました。

 

「あの……私達もご一緒しても宜しいですか?」

 

 結局、セバスとツアレも含めた全員が〈ゲート〉でエ・ランテルに戻る事になりました。

 

 

 皆は〈ゲート〉を次々と通っていきます。

 

 最後になったキーノは館を振り返りました。

 

 ──結局最初の犯行予告めいたのってなんだったんだ? まあ、楽しめたからいいか……

 

 キーノの姿が〈ゲート〉を越えて──そして誰もいなくなりました。

 

 

 

 

     ──そして誰もいなくなった

解決編に続く──

 

 

 








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