ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫
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プレアデス連続殺人事件~犯人はイビルアイ?~

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝はコーヒーで始まります。

 

「……苦いでありんちゅ……でも、大人の味でありんちゅ」

 

 探偵助手のキーノは「いや、普段角砂糖四つ入れるのを三つにしただけだろ?」と心の中で突っこみます。

 

 ありんすちゃんは苦みばしった表情で窓の外を見下ろしました。今日のエ・ランテルはシトシトと雨が降っています。

 

「……雨の日にはいやなこちょ、思い出すでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは小さくため息をつきました。

 

 数々の難事件を解決してきたありんすちゃんですが、未だに未解決の忘れられない事件があります。それがプレアデス連続殺人事件です。

 

 ──それはこんな雨の日に起こりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 最初の被害者はナーベラル・ガンマという人物でした。

 

「……うん? ナーベ……うーん……」

 

「キーノは邪魔でありんちゅ」

 

 ナーベラルの前で首を傾げる助手のキーノを押し退けてありんすちゃんが死体を調べます。

 

「……鑑識はいまちゅか?」

 

 ありんすちゃんが振り返ると鑑識作業をしていた修道女が答えました。

 

「……えーと……死因はショック死っすね。犯人は被害者を驚かせて殺害したようっす。更にとどめに何か大きな十字架みたいな物で被害者の頭を叩いたみたいっす」

 

 テキパキと答える修道女を見ながらキーノは「……それは私の役目なんだが」と思いました。

 

「……うむ。では、私は目撃者がいないか聞き込みをしてこよう」

 

 キーノが立ち上がると修道女が止めました。

 

「──あ、たぶん無理っす。犯人は完全不可視化していましたし、それに誰もいなかったっすよ?」

 

「──な!」

 

 ──何故そんな事を言い切れるんだ? とキーノは心の中で突っこみましたが黙っています。ありんすちゃんはじっと腕組みをしたまま何やら考え込んでいましたが、突然宣言しました。

 

「──これは連続殺人事件でありんちゅ! これからちゅぎちゅぎと事件が起きるでありんちゅ!」

 

 誰もが驚いてありんすちゃんを見ました。ありんすちゃんは得意そうに胸を張ります。と、そこに──

 

「──ちょっと待った! その事件はあたし達が解決するんだけど?」

 

 二人のダークエルフが現れました。

 

「あたし達は『アウラ&マーレ探偵社』よ。この事件はあたし達が解決するからあんた達はどいてくんない?」

 

 アウラとマーレと名乗る二人はエヘンと咳払いをしました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……なんだと? エ・ランテルで探偵社を始めたい、だと? うーむ……」

 

 数日前のナザリック地下大墳墓の第十階層の玉座の間ではアインズが頭を抱えていました。アウラとマーレは恐る恐るアインズの顔色を伺います。

 

「アインズ様。恐れながらこの度のアウラとマーレの要望は是非とも前向きにご検討頂きますよう、伏して願い奉ります」

 

 神妙そうにアルベドが平伏しました。

 

(……アウラをエ・ランテルの探偵社に閉じ込めてしまえばアインズ様はこのわたくしをより重宝される筈。そうすればいずれは……くっふっふっふ……)

 

 アインズは暫く考え込んでいましたが、アウラとマーレの期待に満ちた瞳を見ているうちに心を決めました。

 

「……よかろう。アウラとマーレの要望を実行する許可を与えよう」

 

 アウラの表情はパァーッと明るくなります。

 

「ありがとうございますアインズ様。つきましては、あの、プレアデスにも協力して欲しい事がありまして……」

 

 マーレは上目使いで言葉を続けます。

 

「……あの、ぼ、僕達のデビューを飾る、事件を……あの、演出しようと思うんです」

 

 アウラとマーレはエ・ランテルを舞台にプレアデス連続殺人事件の演出をする事をアインズに提案するのでした。

 

「……そうね。それならばいっそのこと有力な人間に罪を被せてナザリックに引き込んでしまう、なんていうのはどうかしら? 確か蒼の薔薇にナーベラルからなかなか手強い相手がいるとか……」

 

 アインズは記憶を呼び起こします。確か変な仮面を被ったマジックキャスターが──

 

「……うむ。チビルダイ、とか言ったな。よかろう。アウラとマーレはアルベドと作戦を立てよ」

 

 かくしてエ・ランテルを舞台にしたプレアデス連続殺人事件は幕を上げる事になったのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

「……あの……えっと、被害者はナーベラル・ガンマさん。魔導国の戦闘メイドの、あの、プレアデスの一員です。同僚の方に、あの、聞き込みをしてみました」

 

 マーレが説明すると、アウラは証言を記録したメモを皆に配ります。そこには──

 

『……ナーちゃんなら最近、冒険者の仕事が忙しいらしいっす。毎日のように出かけているっすね。それに引き換えユリ姉ってば、暇ばかりで……(一時間程暇なユリ姉の話が続く)……実は、私、最近じゃカルネ村のアイドルみたいな存在になったっすよ? ……まあ、これだけの美貌でかつプロポーションが良いから(二時間程自慢話が続く)……で、ああ。ナーちゃんの話っすね。ナーちゃんに恨みがありそうな人物っていえば……確か、ビビルアイとかいうのが……冒険者仲間をめぐって三角関係とか聞いた事があるっす』

 

「──な! こ、これはー!」

 

 突然探偵助手のキーノが顔を真っ赤にして叫びました。ありんすちゃんはキーノの頭にチョップをして黙らせます。なにしろライバル探偵の前です。動揺を見せる事は避けなくてはなりません。ありんすちゃんは何事もなかったかのように口を開きました。

 

「……なるほど。そのチビルアイが第一容疑ちゃでありんちゅね? しゅぐに手配しるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはテキパキと警官に指示を出しました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 皆が引き上げてしまい、死体だけが残された現場にやって来た一人の人物がいました。その人物は横たわる死体の耳もとで囁きました。

 

「……ナーちゃん。もう大丈夫っす。みんないなくなったっすよ」

 

 と、次の瞬間、死体がムクリと起き上がりました。

 

「……あー疲れた。死体の役もなかなか大変ね」

 

「──シッ! ナーちゃん、誰か来たっす。また、死んだふりするっすよ」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 容疑者のチビルアイならぬビビルアイの行方はいっこうにつかめませんでした。

 

(……まずい。これは非常にまずい。このままではイビルアイが犯人とされて私に罪を着せられてしまう。なんとしても犯人を見つけ出さなくては……そうだ。いっそのことありんすちゃんに私の正体を明かしてしまうのはどうだろうか? ……いいや、ダメだ。ありんすちゃんの事だ。『イビルアイ、ありんちゅちゃがちゅかまえたでありんちゅ!』とか言って突き出しかねないぞ? 困った。困った)

 

 キーノは頭を抱え込むのでした。ちなみにキーノの正体はかつて十三英雄に滅ぼされたといわれる吸血鬼『国墜とし』であり、リ・エスティーゼ王国のアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』の仮面のマジックキャスター『イビルアイ』だったりします。

 

 と、突然、ありんす探偵社に警官が飛び込んできました。

 

「大変です! 二人目の犠牲者が出ました!」

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんと助手のキーノが現場に駆け付けると、そこには既にアウラとマーレ、そして鑑識作業をしている修道女の姿がありました。

 

「……これは……やっぱりありんちゅちゃの予想通りに連続殺人事件でありんちゅ!」

 

 現場を一瞥しただけでありんすちゃんは断言しました。確かに今回の被害者も前回と様々な共通点がありました。

 

「……えっと、被害者はエントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。ナーちゃんと同じくナザ……魔導国の戦闘メイド『プレアデス』の一員っすね。やっぱり驚かせてからデカい聖印みたいな十字架みたいな物で頭を一撃みたいっす」

 

 ありんすちゃんは死体に近寄って、思わず小さく悲鳴を上げました。なんとエントマの懐のスナック菓子の袋から大量のゴキブリが出てきたからでした。

 

 ありんすちゃん達は慌てて逃げ出すのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……ひどい目にあったでありんちゅ」

 

 ありんすちゃん達はありんす探偵社に戻って来ました。アウラとマーレも一緒です。

 

「……さてと……あたし達が調査した結果、やはり今回の事件の犯人もビビルアイ──違った、イビルアイと判明したんだ。あのアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のマジックキャスターだね」

 

 アウラの推理でキーノの顔が真っ青になりました。

 

「イビルアイとエントマには何やら遺恨があったらしい、って同僚のメイドから話を聞いたんだから間違いないよ」

 

 しかし、ありんすちゃんは難しい顔をしていました。そして、急に飛び出すと何処かに行ってしまいました。

 

 事件はイビルアイが犯人で解決するかと思われたある日、急転直下の出来事が起きました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「──なんだと? ナーベラルとエントマが本当に死んだだと? どういう事だ?」

 

 ナザリック地下大墳墓の玉座の間にアインズの叫び声が響き渡りました。

 

「恐れながらわたくしにも何が何やらわかりませぬ」

 

 守護者統括のアルベドが震えながら平伏します。

 

「……直ぐにも二人の遺体を玉座の間に運べ。復活の儀を執り行う。更にエ・ランテルでのアウラ・マーレの活動は中止させろ。詳しい状況がわからぬと危険だ。良いな? それにルプスレギナも呼べ。いろいろと聞きたい事がある」

 

「はっ!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 アインズの呼び出しを受けたルプスレギナは青くなりました。しかもナーベラルとエントマが死んでしまったというのです。

 

 ルプスレギナはギュッと聖印を握り締めました。もしかしたら少しばかり力の加減を間違ってしまったのかも知れません。

 

 ナザリック地下大墳墓のアインズの執務室に入ると、丁度アインズが復活したナーベラルとエントマの二人から事情を聞いている所でした。

 

「……うむ。すると二人共、犯人を見ていないのだな? それにルプスレギナが加減を間違えたのでもない。そうだな?」

 

 ナーベラルとエントマの二人が深く頷くのを見て、アインズとルプスレギナは胸を撫で下ろします。二人の話では計画通りに死んだふりをしていた所、何ものかに何か大きな物で頭を殴られて死んでしまったらしい、という事でした。

 

(……しかし、レベルが低いとはいえナーベラルもエントマもこの世界では簡単には倒される筈はない。この世界にもプレーヤーもしくは百レベルの強者がいる、という事か?)

 

 かくてプレアデス連続殺人事件は闇に葬り去られる事になったのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 尻切れとんぼ状態での終局を迎えたありんす探偵社の空気は重いものになっていました。考えにふけるありんすちゃんとは対称的に助手のキーノの表情は明るくなっていました。

 

(あと少し……あと少しで犯人がわかったでありんちゅ……残念でありんちゅ……)

 

 ありんすちゃんは皆がいなくなった後で事件現場に戻り、凶器を特定する為にいろんな武器で実際に死体に傷を付けて調べてみたのでした。その結果、出来た傷の具合からありんすちゃんのスポイトランスやハンマーではなく、巨大な聖印──十字架により出来た傷が一番可能性が高いと判明したのでした。

 

 あと一歩でルプスレギナが犯人とわかったのに、残念でしたね。……いや、もしかしたらありんすちゃんが二人を──ゲフンゲフン。いやいや、さすがは迷宮入りとなった難事件です。真犯人はいったい誰だったのでしょう?

 

 








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