死の超越者は夢を見る   作:はのじ
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G様、誤字報告ありがとうございます。

タグ確認下さい。



おっと。更新日付一日間違えてますね。
誤字チェックと推敲できてにゃーです。わぁまずい。 ーー;

とりあえずこのままにしときますが、こっそり推敲しときます。



さようなら

 勝敗は一瞬で決まる。持久戦など以ての外。当たり前だが正攻法の真っ向勝負はシャルティアに通じない。自力が違いすぎる。

 

 八本の脚を小さく折り畳み、膝を枕に静かに眠る蜘蛛人(アラクノイド)。余程疲れていたのだろう、眠りに落ちてから一度も目を覚まさない。彼女も貴重な戦力の一人だ。何度も固辞する彼女に、疲れていては戦えないからと強引に眠らせた。

 

 手の平には三本の使用済みのポーションの瓶があった。現地産ではなくもちろんユグドラシル製だ。現地のポーションは効果が薄すぎて使い物にならない。眠るエントマに使用したのだ。起きていれば絶対に断っただろう。残りはない。最後のポーションだった。怪我をした女性に使うのは当然の事だ。ここで使わないという選択肢は男としてあり得ない。創造主の意に沿う行為であると確信もしている。

 

 轟々と恐怖公の眷属達が燃えている音が聞こえる。シャルティアの魔法だ。外は灼熱の地獄と化している。想定していた展開の一つだ。事前に分かっていれば対策は容易い。

 

「恐怖公……」

 

 恐怖公が心配だが今出ていってしまえばこれまでの彼の努力を無にしてしまう。それどころか二人してシャルティアに倒される可能性が高い。

 

 この戦いの敗北はナザリックの下僕の壊滅を意味する。だがそれは想定する最悪のシナリオではない。本当の最悪はモモンガの前にシャルティアが姿を見せてしまう事だ。

 

 聡明なモモンガの事だ。全てを察してしまうだろう。自らを犠牲にしてまで救った下僕達が既にこの世にいないことを知ったモモンガの悲しみはいかほどだろうか。主が悲しむ姿を想像するだけで胸が張り裂けそうになる。決してシャルティアをモモンガに会わせてはいけない。

 

 下僕は大事だ。だが優先順位を間違えてはいけない。最優先はモモンガだ。最早全員揃ってモモンガの前で膝を折ることは出来ないだろう。ならば次善を目指すべきだ。被害を最小限に。例え死者の列の中に自分が入っていようと。

 

 願わくば。

 

 願わくば自分の死でモモンガが悲しむ事がありませぬよう。

 

 種族特有の形状を持つ掌の中で、ポーションの瓶がからりと音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪魔の諸相:おぞましき肉体強化」

 

 シャルティアはふふん、と鼻を鳴らした。出来もしない肉弾戦でもするのかと。肉体強化をいくらしようとデミウルゴスの基礎能力ではシャルティアに対抗出来ない。無意味だ。

 

魔力の精髄(マナ・エッセンス)

 

生命の精髄(ライフ・エッセンス)

 

生命力持続回復(リジェネート)

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)」 

 

自己時間加速(タイム・アクセラレーター)

 

魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)

 

 シャルティアは肉弾戦を得意とする信仰系魔法詠唱者のクラスを複数修めている。強化魔法の豊富さはデミウルゴスでは比較にならない。魔力の精髄は魔力の質と量を、生命の精髄は体力量を見る事が出来る。デミウルゴスの魔力残量は三割、体力量に至っては二割を切っていた。

 

 一方シャルティアの魔力量は七割、体力量は一〇割を維持している。恐怖公との戦いは魔力量より精神力をすり減らされた。

 

「先手は頂きますよ。獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)

 

 背後から熱波が叩きつけられた。思わず振り返ると夜を連想する黒い炎が立ち上っていた。それだけだ。痛くも痒くもない。少々熱いだけでダメージは一切通らない。

 

 先手は譲った。あとは一方的にシャルティアのターンだ。スポイトランスを握る手に力が入る。蹂躙を開始しんしょう。

 

 意気揚々と振り返ったシャルティアの視界は黒い影に遮られた。蟲だ。小さな蟲の集団だ。昨夜の記憶が蘇り嫌悪感に襲われるがそれはほんの僅かな時間だった。恐怖公の眷属は夜明けと共に死滅している。復活も追加もない。

 

「エントマ!!」

 

ぐぎぃぃ(シャルティア様)ぎぎぎぃぃ(昨夜ぶりですわぁ)ぎぃ(もきゅ)

 

 ぶすぶすと黒い煙をあげる建築物の屋上に蜘蛛人(エントマ)がいた。エントマは口から大量の蝿を吐き出していた。

 

 蝿吐き。

 

 恐怖公の眷属召喚に並ぶ、触媒なしでも劣化しないモンスター召喚スキルだ。蝿はエントマの口からだけでなく、周囲の焼け死んだ大量の焼死体からも次から次へと湧き出ている。いつの間にか卵を産み付けていたのだ。

 

 密度を増した幾層もの蝿が渦巻き視界を埋めていく。蝿の向こうでデミウルゴスの姿が薄れて消えた。

 

 蝿ならばシャルティアも召喚で呼べる。恐ろしくもなんともない。高い授業料は昨晩一〇〇〇年分は支払っている。

 

力場爆裂!(フォース・エクスプロージョン)

 

 不可視の衝撃波がシャルティアを中心に蝿の集団を薙ぎ払い視界が一気に開けた。デミウルゴスは目と鼻の先にいた。

 

「悪魔の諸相:豪魔の巨腕」

 

 デミウルゴスの両腕が数倍以上に膨れ、グロテスクに長さと重量を増した左腕が振り落とされた。両足は大地をしっかりと掴み、最大の効率でシャルティアを押し潰そうとする。

 

 見た目だけで言えば小さな少女が奇形のモンスターに襲われる悪夢の絵面だ。シャルティアは慌てず迎撃した。すなわちスポイトランスを持ったままの右腕を軽く振り上げただけ。

 

 アイザック・ニュートンとアントワーヌ・ラヴォアジエが研究成果を否定せざるを得ない刹那の攻防はあっさりとシャルティアに軍配があがった。巨腕は止まるどころか跳ね上げられ、デミウルゴスの左肩から、ごぎん! とご機嫌な音が鳴った。

 

 追撃の左拳でデミウルゴスは縦に高速回転しながら宙に舞った。

 

 シャルティアは足元に転がった瓶を踏み潰した。使用済みポーションの空瓶だ。シャルティアの視界から逃れた隙に怪我を回復し、力任せの神風特攻(バンザイアタック)

 

 舐められたものだ。デミウルゴスの作戦はただの奇襲。これがナザリックで一、二を争う知恵者の正体か? 追い詰められ正気を失ったとしか思えない。

 

「聞いていたより堅いですね! 悪魔の諸相:触腕の翼」

 

 太陽を背に中空で翼を広げ、体勢を立て直したデミウルゴスは巨大化させた翼から鋭利な羽を何本も撃ち出した。

 

 手の内は知れた。必要以上に警戒する必要はない。シャルティアはデミウルゴスを攻撃しやすい位置取りを考えながら、するりするりと羽を避けていく。羽は大地に吸い込まれ、虚しく砂煙を上げた。

 

「そこは私の手の内ですよっ! 深淵の彼方より来たれ! 忌まわしき者共を統べる地獄の王よ!」

 

「シャルティア様! おさらばです!」

 

 デミウルゴスに意識を向けて存在を忘れていた。

 

 地面に隠れていた恐怖公が白日の下に姿を現した。恐怖公の真価は闇に蠢いてこそ。これではただ気持ち悪いだけだ。

 

 スポイトランスを構え、止めた。踵を突き出す前蹴りで充分だ。当たる直前、同じく地面に隠れていた銀色のゴーレムが飛び出して恐怖公を庇った。

 

「見事なりシルバー! 泉下で再び(まみ)えようぞ!」

 

 体表に申し訳程度の希少金属のコーティングを残しただけのシルバーゴーレム・コックローチは、たった一撃の蹴りで粉々に砕け散った。

 

「とう!」

 

 恐怖公が跳んだ。翅は燃え尽きて無い。残った二本の後脚だけで跳んだ。

 

 キチン質の体表が艶やかに太陽の光を照り返し、七対ある腹部の節が恐怖公が雄である事を教えてくれた。肛門がくいくいと動いていた。まるでシャルティアに卵を産みつけようとする動きにも見えた。

 

 恐ろしくも何ともない。気持ち悪い。ただただ気持ち悪い。やっぱり怖い。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 とっさの手刀で迎撃された恐怖公の体は、腹部を中心にして真っ二つに別れた。黄色い体液がシャルティアの鎧を汚し、執念の如く伸びた後脚の先端がシャルティアの頬をそっと撫で、後方に飛んでいった。

 

「あば、あばば、あばばばば」

 

 最大の恐怖は消えた。やっと消えた。消えてくれた。もう何も怖くない。残るは平静を失った自称知恵者のデミウルゴスとエントマのみ。

 

「デーミィーウールゥーゴォースゥゥ! 死ねぇ! 清浄投擲槍ぃ!!」

 

 太陽を背にしたデミウルゴスに清浄投擲槍を放った。魔力を追加した必中の効果付きだ。この時ばかりは憤怒が殺意を上回っていた。

 

 三メートルを超える戦神槍はぐんぐんと伸び太陽に影を作るそれに命中した。

 

「ぐはぁぁ!! 何をするシャルティア!」

 

「え?」

 

 後から思い出すと勝負の分かれ目、分水嶺はここだったのかも知れない。

 

 シャルティアは忘れない。シャルティアだけは絶対に忘れない。神々しく、力強く艶があり、洒脱で軽快で、声を聞くだけで幸せになれた。懐かしくて出ない涙が零れそうになる。スポイトランスがカランと地に転がった。

 

 太陽を背に輪郭はぼやけているが見間違えるはずがない。猛禽の翼を雄大に広げるバードマン。ナザリックの至高の一柱にしてシャルティアの創造主。爆撃の翼王の異名を持ち、謎に満ちた最高のクラス『エロゲーマスター』を持つ唯一の至高。

 

「ペロロンチーノ様ぁ!!」

 

 ペロロンチーノは大空からシャルティアを見下ろす。ぞんざいな扱いに背筋がぞくぞくする。本当は近くに行きたい。それが許されるには許可を頂くしかない。

 

「うむ。ペロロンチーノである」

 

「はえ?」

 

「戻ってみればナザリックはなく、我が盟主モモンガもいない。この地に跳んでみればいきなり射撃される。どういう事だ。説明せよシャルティア」

 

「え? ちがっ、ペロロンチーノ様はそんな話し方……」

 

 シャルティアは思い出す。『エロゲマスター』として『エロゲ』の事を話すペロロンチーノの事を。時に楽しそうに、時に落ち込み、立ち直る姿を何度も見た。最高峰のクラスであるため『エロゲ』の話は難しく理解できなかったが、『フラグ管理』スキルを至高の存在達に説明するペロロンチーノの姿に、流石は我が創造主とアウラに何度も自慢した。

 

 ペロロンチーノは至高の存在にも、下僕に対しても尊大な話し方をした事がない。ただの一度もだ。

 

「そうでしたか。宝物殿にずっといたので存じ上げませんでした」

 

 ペロロンチーノの姿がぐにゃりと歪んだ。

 

 デミウルゴスはパンドラズ・アクターが間に合わないと言った。いつから入れ替わったのかも分からない。そんな事はどうでもいい。シャルティアのどす黒い殺意は混じりっけなしの漆黒に塗り替わった。頭が沸騰し憤怒は有頂天となった。

 

「よくもよくもよくも!!」

 

 地団駄を何度も踏み、地面がえぐれる。なんど土砂を跳ね上げても怒りのエネルギーは収まらない。

 

「よくもペロロンチーノ様を下僕同士の殺し合いに利用してくれたな!!」

 

 至高の存在は下僕にとって絶対不可侵だ。いと高き場所から引きずり下ろすことはあってはならない。にも関わらず明確な意思を持って自らの創造主に狙って変身し、下僕同士の不毛な殺し合いに、例え姿だけであろうと利用したのだ。絶対に許せる事ではない。

 

「許さない! 絶対にだ! 殺す! パンドラズ・アクター! お前を今すぐ殺してやあがっ!!」

 

 唐突に何の脈絡もなく体の中心に雷が落ちたような衝撃を感じた。鎧越しに体を触ると何かに触れた。見えない何か。それは鎧から飛び出していた。違う。これは鎧を貫いているのだ。

 

「な、何が……」

 

 何かがすぅっと透明度を減らし浮かび上がった。四肢の内、右腕だけを残した蛙面の悪魔だった。悪魔の右手には飾り気のない簡素な槍が握られ、その槍がシャルティア自慢の真紅の鎧を腹部から背中まで貫いていた。

 

「終わりです」

 

「……デ……ミウル……ゴス……」

 

 死神だ。デミウルゴスが死をシャルティアに宣言した。

 

 死神と化した悪魔に応える様に反射的に手が動いた。デミウルゴスの首が胴体から離れ飛んで行くのをぼんやりと視線だけで追いかけた。

 

「あっ、あっ」

 

 不随意に漏れる嗚咽と同時にシャルティアの瞳に晴天の空が移った。夜が明けて空に雲一つ無いことに初めて気がつき、仰向けに倒れたのだと理解した。

 

 全身の力がどんどん抜けていく。立ち上がる事すら出来ない。同時に黒一色の殺意と有頂天に突き抜けた憤怒も霧が晴れるように消えていく。あれだけ濃く渦巻いていた殺意は、シャルティアの中のどこを探しても見つからない。反対に心は悲哀の感情に満ちていた。

 

 罰があたったのだ。下僕を皆殺しにしようなどと馬鹿な考えに染まった罰だ。恐怖公に、デミウルゴスに、エントマに、パンドラズ・アクターに、下僕に決して許されないことをしてしまった。

 

 そして何よりモモンガの慈悲を踏みにじってしまった。死しても顔向けは出来ない。出来るはずがない。

 

 それでも。

 

 それでも。

 

「……モモン……ガ……さま……おあ……いした……いで……」

 

「シャルティア」

 

 パンドラズ・アクターの気配がした。直ぐ側だ。視界は黒く狭まりもう殆ど見えない。

 

「……一〇〇年後、モモンガ様に復活をお願いします。その時までさようならです」

 

 不思議によく通る声だ。だけどもう誰の声かも分からない。

 

 そうだ。一〇〇年なんて直ぐだ。たった一〇〇年でまたモモンガ様に会えるんだ。モモンガ様の勅命をシャルティアは……全部は覚えてませんがモモンガ様が言った勅命の意味をちゃんと覚えています。モモンガ様にお会いした時、シャルティアは、シャルティアは。

 

 ――えぇと、シャルティアの設定はどうだったっけ……うっ頭が……思い出せない……思い出さない方がいい気がする……。それにしてもペロロンチーノさん、凄く可愛く作ったなぁ。……結婚したらこんな可愛い子供が欲しいなぁ……はぁ……結婚なんて俺には無理かもなぁ……あっ、そうか! 家族になったって事にして娘にしてしまえば! そうすればずっと一緒にいれるじゃないか! ……でもペロロンチーノさん許してくれるかなぁ……うん、最後だしいいよね。ね? ペロロンチーノさん。うほんっ! という事だ。シャルティアよ。これから私とお前は家族も同然だ。シャルティアがいつか嫁に行く日まで私から離れないでくれ。

 

 ……モ……モン……ガ……さ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりましたね……」

 

「……ええ」

 

 パンドラズ・アクターは手に持つデミウルゴスの生首に声をかけた。デミウルゴスは何を思うのか、瞳を閉じたままだ。

 

 シャルティアは無数の小さな光の泡となって弾けて消えた。

 

「恐怖公」

 

「シャルティア様……申し訳ありません……」

 

 恐怖公の潰れた複眼からさめざめと滂沱の涙が流れている。気持ちは分かるとは軽々に慰めることは出来ない。パンドラズ・アクターは察するのみで本当の意味で恐怖公の悔恨は理解できないからだ。

 

 二つに別れた恐怖公の下半身は、精髄反射で今は、わしゃわしゃと動いている。それも直ぐに止まるだろう。恐怖公はパンドラズ・アクターの回復を事前に拒否している。シャルティアに殉じてこのまま死ぬ。パンドラズ・アクターに恐怖公の考えを改めさせる言葉は見つからなかった。

 

「デミウルゴス殿。吾輩が死んだのち、ワールドアイテムの回収をお願いします。それと……図々しいお願いですが、モモンガ様ご降臨の際に……シルバーの復活を……陳情して頂きたい……シルバーには誉しか……ありませぬ故…………罪は……全て我……輩に……」

 

 デミウルゴスの動きを感じたパンドラズ・アクターは黙って頷いた。

 

「分かりました。必ず伝えましょう(・・・・・・・・)

 

「……デミ……ウルゴス……どの……あなたに……つみは……ありませ……ぬ……ぞ…………おぉ……ン……ガさ……こ……きょ……まつ……まれ……で……ぞ……」

 

 パンドラズ・アクターは急速に命の灯火を失う恐怖公の最期を静かに見守った。そして意味を成さぬうわ言をいくつか口にして恐怖公は逝った。

 

「……よかったのですか?」

 

「……えぇ」

 

 一言に込められた意味は多岐に渡る。その全てをデミウルゴスは肯定したのだ。恐怖公はデミウルゴスの避けられぬ死を知らぬままに死んだ。

 

「友よ……」

 

 デミウルゴスは瞳を開いてぽつりと呟いた。一言に込められた哀惜の想い。それはデミウルゴスにしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルティアは強すぎた。パンドラズ・アクターであっても勝ち筋が見えない程に。出来るのはせいぜい時間稼ぎのみ。まともに立ち向かえば死。逃げても死。それでも機会は転移を封鎖した今しかなかった。

 

 至高の存在に変身したパンドラズ・アクターは、無数の魔法とスキルを組み合わせ、超超高速移動で昨夜の内に偽神都に到着しデミウルゴスと合流していた。最悪を想定し魔力を温存、最後のポーションでエントマを回復させた。

 

 勝負の鍵はデミウルゴスがモモンガから預かったアイテム、聖者殺しの槍(ロンギヌス)にあった。対象を使用者ごと復活不可能なまでにこの世から消し去る凶悪な効果を持つワールドアイテムだ。効果を知っているのはデミウルゴスとパンドラズ・アクターの二人のみ。デミウルゴスは躊躇わずに使用した。

 

 使用にあたり解決すべき懸案事項がいくつかあった。貴重な透明化(インヴィジビリティ)のスクロールを使用してシャルティアに近づけないであろう事だ。シャルティアの戦闘に於ける勘は鋭い。近接戦闘に不向きなデミウルゴスでは接近に高確率で気づかれてしまっただろう。

 

 デミウルゴスに向いたヘイトを自然に剥がした上で、我を忘れ怒り狂ったシャルティアのヘイトを受けて一定時間を凌げる者が必要だった。ヘイトは稼げても瞬殺されるだろう恐怖公。そもそもヘイトが向きにくいエントマ。パンドラズ・アクターしかおらず、パンドラズ・アクターが最も適任だった。

 

 最初からデミウルゴスとして登場した場合、魔力の質で気づかれてしまう可能性が高かった。入れ替わる必要がある。そしてそこにはデミウルゴスの四肢の欠損を解決する必要があったが、死を前提にした作戦を前にデミウルゴスは回復を拒否した。

 

 負けない為に、心の空隙を突き、シャルティアが大切にしている想いを踏みにじった。

 

 

 数々の小細工を弄した。言葉を騙り、騙し、誘導し、挑発した。心に土足で踏入りシャルティアが大切にしている想いを踏みにじった。ここれまでくれば作戦などとは言えない。ただのギャンブルだ。だが元々シャルティアとの戦闘自体がギャンブルだった。

 

 そして戦闘が終わった時、勝者は一人としていなかった。

 

「パンドラズ・アクター」

 

「なんでしょうか」

 

 別れが近い。首と胴が離れた事で一時的に消滅が伸びたのか。それももう終わる。

 

「アルベドは壊れます」

 

「えぇ、そうなるでしょう」

 

 デミウルゴスが何を言わんとしているか既に理解していた。そしてパンドラズ・アクターの回答もデミウルゴスは知っているだろう。

 

「貴方は私やアルベドとは違う。勅命を別に持っている事は分かっています。それでもお願いしたい」

 

 パンドラズ・アクターはコートを脱ぐと片手で器用に折りたたみ地面に敷いた。その上にデミウルゴスの生首を丁寧に置いた。

 

 大地を踏みしめ踵を合わせコツンと鳴らした。右手を振り上げ、指先を丁寧に延ばした。

 

「おっ任せあれ! 後の事は心配ご無用! 安んじてお眠り下され!」

 

 パンドラズ・アクター渾身の大芝居だ。

 

「……ははは。最期の最期でモモンガ様も失敗なさることを知りましたよ」

 

「はて。何の事でしょう」

 

 デミウルゴスはナザリックの下僕をパンドラズ・アクターに託したかった。パンドラズ・アクターは嘘をついてデミウルゴスに見破られた。それだけの事だ。

 

「さようなら。友よ」

 

 デミウルゴスは無数の小さな光の泡となって、弾けて消えた。

 

「……えぇ。さようなら……友よ……」

 

 

 




【捏造】
パンドラズ・アクターはシャルティアにガチの勝負は勝てない。
ドリームマッチですが、勝てないだろうと。


スキルの組み合わせ
スクロールを騙して使用したり、魔法効果範囲拡大化で魔法効果を拡大したりと自由度が高すぎるユグドラシル。無数の魔法、スキルの組み合わせは世界転移で更に自由度を増やしたという原作の世界観を概ね踏襲した捏造。



以下
ネタバレ含む中書きのようなものです。
見なくても支障なしですしたいした事書いてません。

































■中書きのようなもの

ここまで鬱い話にお付き合いくださりありがとうございます。
皆様には精神耐性スキルでもついているのではと巷は噂でもちきりです。
どう考えても一般受けしませんね。

ここまでで当初書きたかったイベントの八割ほどを消化しました。

途中でルート分岐し、この話はパンドラズ・アクタールートに入ってます。
他にはデミウルゴスルート、アルベドルートがあり、デミルートはペスと寝たりセバスと対立・激突したり。アルベドルートはナザリックの下僕が半壊と、どう転がっても鬱。

伏線いくつか張りましたが放棄したのもあり、これ意味有るの?ってのは分岐で投げた伏線です。


あと二話程で終わる予定です。
納得していただけるかわかりませんが、叶うならば最後までお付き合いいただければ幸いです。

あと面白くないところ、わかりにくいところ、気になるところなど駄目出ししてもらえるとありがたく。

ということで今から誤字確認と文章推敲作業に入ります。

ありがとうございました。

ノシ






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