マーケティングの世界では急速にデジタルシフトが進んでいる。そして、テクノロジー事業者やメディアが、このトレンドをあおり立てる。「マス広告は時代遅れ」「デジタルチャネルでないと、消費者とコミュニケーションできない」とでも言わんばかりに。
だが、本当にデジタル「だけ」を偏重した施策が、マーケティングにおいて正解になるのだろうか。2018年4月26日に開催されたデジタルマーケティングカンファレンス「Adobe Digital Experience Insights 2018」において、ドミノ・ピザ ジャパン 執行役員 CMO 富永朋信氏とアドビ システムズ STAACコンサルティング部 部長 櫻井秀一氏が、「デジタルはアナログを殺すのか」という刺激的なテーマを掲げ、今日におけるマーケティング分野の変化と今後の展望について語り合った。
富永氏は、コダックや日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などで経験を積んできたブランディングやマーケティングのスペシャリストとして知られる。デジタルにも造詣が深く、クロスチャネルキャンペーン管理の「Adobe Campaign」などを使いこなしながら施策の最適化を図ってきた実績がある。
そんな富永氏は昨今のデジタルマーケティングについて、どう見ているのか。櫻井氏は「マーケティングの“究極”とは、最終的に販売プロセスそのものがなくなってしまうこと」というピーター・ドラッカーの言葉を引用しつつ、今後のマーケティングがそうなっていくのか、また、マーケティングが進化する中で消費者はどのように変化しているのかと、2つの疑問を投げかけた。
前者の疑問に対し、富永氏は「モノが売れるというというプロセスは、最終的に売ったチャネルだけで完結するのではなく、実は売れるまでにいろいろなポイントが関わる。どこで購入したのか、誰から買ったのか、そういうチャネルが全て作用し、最終的に売れることにつながるので、マーケティングだけで販売まで完結させることは非常に難しい」と答えた。
また、後者については、そもそも消費者が変化しているとは思っていないという。人間の本質や欲求は、根本的に変わることはないからだ。それでは何が変化しているのか。富永氏は、「変化しているのは消費者を取り巻く環境」と述べる。
環境に合わせて消費者行動が変化するのであれば、結局は企業側もそれに合わせた施策が必要になる。例えば「テレビCMは、かつてほど認知度訴求効果がなくなった」といわれている。とすると、膨大な費用がかかるテレビCMではなく、「デジタルに移行した方がいいのではないか」と考えるマーケターがいても不思議ではない。だからこそ、いまマーケティング分野では、「アナログからデジタルへ」という流れが加速しているという状況もある。
こうした状況に対する富永氏の見解は「デジタルマーケティングとは、マーケティングの中にデジタルという手段が入っているものであって、決してマーケティング全てをデジタル化するということでない」というものだ。前述したテレビCMを例にとると、確かにかつてのような強力な訴求効果は減少しているかもしれないが、だからといってテレビをゼロにしてしまったら、リーチの絶対数をデジタルだけでカバーするのは容易なことではない。冷静に考えれば「補完としてデジタルチャネルを使うべきで、0か100かで置き換えるものではない」(富永氏)という結論に至らざるを得ない。
「そもそも、『モノを売る』ためのマーケティング活動は、マーケティング部だけでできるものではなく、社内の他部門の協力がないとなし得ません。デジタルかアナログかということではなく、消費者の態度変容を促すため、しっかりとした訴求を行い、『売る』までのプロセスを他の部門と一緒に進めなくてはなりません」(富永氏)
こうした事実を踏まえ、これからのマーケティングに必要なのは「統合マーケティング」という考え方だという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.