ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
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エ・ランテルの街中にありんす探偵社助手のキーノが愛車、自転車のヘルメス号で走る姿がありました。
今日はヘルメスに話しかける事なく、なにやら真剣な面持ちです。おや? どうやら何事かブツブツ呟きながら走っているみたいですね。
──ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、豚肉──
どうやらキーノはお使いに行く途中のようですね。どうしてこんな事になったのかというと……
※ ※ ※
城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝はハムエッグとコーヒーで始まります。
まず、ハムエッグをナイフとフォークでハムとエッグに切り分けます。そしてハムからフォークで口に運びます。そんなありんすちゃんを見ながらキーノは最初からハムと目玉焼きにすれば良いのに、と思いますが黙っています。
ハムエッグを食べ終わるとコーヒーを飲みます。
「今晩はかれーらいすが食べたいでありんちゅね」
唐突にありんすちゃんが言い出しました。キーノは聞こえないふりをします。
「かーれーらーいーすーがーたーべーたーいーでありんちゅ」
ありんすちゃんは今度はキーノの耳もとで大声を出しました。
「わかった。わかった。……しかし、かれーらいすなんて私は知らないぞ? どうするつもりなんだ?」
キーノが尋ねるとありんすちゃんは胸を張りました。
「ありんちゅちゃがちゅくるでありんちゅ」
うーん。大丈夫でしょうか? 個人的にはありんすちゃんの『まかせるでありんちゅ』というような発言ってろくな事にならない気が……ゲフンゲフン。
ありんすちゃんは何処からか『かれーるー』を取り出してテーブルに置きます。どうやらナザリックの料理長から手に入れたみたいですね。
「キーノはすぐにニンジン、ジャガイモ、タマネギ、豚肉を買ってくるでありんちゅ」
かくてキーノはかれーらいすの材料を買いに出かけた、というわけです。
※ ※ ※
キーノはヘルメス号のペダルを力強く踏みます。ヘルメス号はそれに合わせてグイグイと進みます。
「……ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、豚肉、ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、豚肉……」
と、小さな段差でヘルメス号が跳ねました。
「……にくにん、じんじゃが、いもたま、ねぎぶた……」
そしてキーノは食料品店に到着しました。
「いらっしゃい。何をお求めかな?」
店の主人がニコニコしながら声をかけます。
「うむ。まずは……にくにん、だな」
店の主人は困った顔になりました。
「……それはニンニクの事ではないのかね? ニンニクなら良いのがあるよ」
キーノはニンニクを見て一瞬嫌な顔をしました。しかし心の中で思います。──参ったな。ありんすちゃんは私がヴァンパイアだと知らないんだよな。ええい。仕方あるまい。
「……では、それを貰おう。で、次はじんじゃがだ。じんじゃがをくれ」
店の主人はまた困った顔になりました。
「……うーん。ジンジャーならあるよ。いわゆる生姜だ。こいつで良いかい?」
キーノは頷きます。
「よし。で、次はいもたま、だ。いもたまはあるか?」
またしても店の主人の顔が曇ります。
「うーん。猪の玉、睾丸ならあるが……精力剤としての効果がある。高いがな」
「では、それを貰おう。で、いよいよ最後だ。ねぎぶたはあるか?」
店の主人はホッとしました。
「ああ、ネギブタなら……モンスターのブタモドキビートルだな。ネギを食べてばかりいて豚みたいな形だからネギブタと呼ぶ者もいるからな。しかし、あまり食用には向いていないが良いのかい?」
「ああ。結構だ。では代金だ」
キーノは店の主人に礼を言うと探偵社に戻りました。
※ ※ ※
「──これはなんでありんちゅ?」
ありんすちゃんはキーノが買ってきた品物を見て呆れてしまいました。仕方ないので今度はメモに書いてキーノに渡します。
これならいくらキーノでもちゃんと買い物が出来る筈です。
今度はキーノも注文通りに買い物をしてきました。
そして夕食──残念な事に二人はかれーらいすを食べる事が出来ませんでした。
ありんすちゃんは張り切って料理に挑戦してみましたが、出来上がったのはただの真っ黒な炭の固まりになってしまうのでした。
うーん。ありんすちゃんには料理スキルが無かったんでしたね。残念。