1942年1月6日、クルップ社は陸軍兵器局に対し8.8cmPAK43へ機動力を付与すべく 装甲自走砲Ⅳc2型の共同設計図を提示した。 このとき検討された他の車体は ・Ⅲ/Ⅳ号車体:装甲配分に無理がありオープントップになる見込みで却下 ・Pティーガー車体:信頼性に欠けるという点で却下 最終的に稼働率や装甲のバランス、スペース的な問題で装甲自走砲Ⅳ型ベースに決定。 兵器局は車両概念について了解し、主に下記の点に留意し詳細設計をまとめることになった。 ・マイバッハ・エンジンHL90の搭載 ・重量は30t ・装甲は正面80mm/側面40mm ・最高速度は40km 最終的に装甲自走砲Ⅳd型が3両新造されることになり、1942年6月9日にクルップ社砲兵事務局に3両の製造が委任され6月29日には子会社のフリードリヒ・クルップ・クルゾン製造所に直接委任される。 しかしこの段階で問題が発生することになる。 クルゾン社でこれらの試作を進めていくと既に量産されていたⅣ号戦車の生産を阻害することが確実であることが判明した為、試作はデュイスブルクのドイツ製鋼所に変更された。 生産遅延に難色を示した陸軍兵器局は1942年8月3日、パンター偵察戦車型の試作向け車体に8.8cmPaK43L/71を組み合わせ、同車体を流用するように通知し、同年10月15日、開発作業はベルリンのダイムラー・ベンツ社に移管が決定され本格的な開発がスタートする。 パンター駆逐戦車の誕生の瞬間である。 1942年9月9日の会議で、クルップ・クルゾンは最終的にパンターではなくパンター駆逐戦車を製造することに決まり、プロトタイプは1943年6月、7月の量産開始を目標と掲げられた。 この席上で新型駆逐戦車の要求項目は決まり生産に向けて動き出すことになる。 しかし試作を進めていく上で解決しないといけない問題は山積みであり1942年10月15日の会議の段階では量産は1943年夏とぼかされ1943年1月5日の会議では量産開始は1943年12月と更に遅れることになる。 遅延した中で致命的なのは、ヤクトパンターは製造見込みであったパンターⅡ型車体をベースに設計されていたため、量産に進まなかったパンターⅡ型車体から既存のパンター型車体への設計の修正が必要となった上、生産性の効率化まで織り込まれたことである。 最終的な仕様が決まったのは皮肉なことにプロトタイプ完成目標であった1943年6月の9日であった。 その後は順調に進み1943年12月プロトタイプが完成。1944年1月からはMIAG社で量産が開始され、同12月1にはNHM、MBA社も量産に加わり終戦までに計415両が生産された。 構造は車体後部に機関室、車体中央部に避弾経始に優れる戦闘室、車体前部に変速機、操向変速機と88mm主砲を配する。 搭乗員は5名であり、車体前部、後方からみて左側にドライバーが搭乗し、変速機を挟んで右側には前方機銃手兼無線手が搭乗した。戦闘室中央部、後方からみて主砲の左側には砲手が搭乗し、砲を操作するほか、装填手と車長が搭乗した。 乗車用ハッチは指揮官の真上、装填手の左側、戦闘室後部の三箇所に設けられた。 主砲に取り付けられた照準器はペリスコープ式のSfl.ZF1型であり、天井から照準器の頂部が突出し、視界を得ていた。主砲と連動して照準器が左右に動くため、天井には作動部分を確保するために穴が開かれた。 この開口部分に沿ってレールが設けられ、スライド式の装甲板がつけられている。 車長用の偵察装置にはカニ目型の砲隊鏡のほか、ペリスコープが用意され、天井部分には硝煙を換気するためのベンチレーターが付けられた。 III号突撃砲のような司令塔が設けられておらず、代わりに回転式のペリスコープ、側方に固定されたペリスコープが設けられている。 ヤークトパンターは生産中も細部の改良が続けられており、例えば操縦席前面のペリスコープ部分など、12種類もの形状の違いが確認できる。 低い姿勢の固定式戦闘室に強力な主砲の組み合わせの駆逐戦車というコンセプトは 戦後の西ドイツのKJPz.4-5カノーネや、ソビエト連邦のSU-122-54などに受け継がれている。 主砲である8.8cm KwK43/L71は、被帽徹甲弾(8.8cmPzGr39/43)、合成硬核徹甲弾(8.8cmPzGr40/43)、榴弾(8.8cmSprGr43)、対戦車榴弾(8.8cmHlGr39)を使用できた。弾頭重量10.16kgの被帽徹甲弾は初速1000m/sで射出された。 垂直鋼板に対する貫通性能は2,000mで154mm、1,500mで170mm、1,000mで186mm、500mで205mmである。 余談だがヒトラーはこの車両に一目ぼれしたらしく、試作車段階の時で既に同等の主砲を搭載する後のティーガーIIより優れていると熱弁を振るい即量産を指示。 1944年2月にはヤクトパンターと直接命名、ティーガーⅡ戦車数両の価値があると再度熱弁したほどである。 ヤークトパンターがけたたましいエンジン音を轟かせて前進し、半周旋回する映像 https://www.youtube.com/watch?v=QCCCKiQWMRM |