ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
<< 前の話 次の話 >>
城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝はモンブランケーキとのにらめっこから始まります。いつもだとてっぺんのマロングラッセから頬張るのがありんすちゃんの食べ方なのですが、今日はマロングラッセを最後に食べようと周りのマロンクリームから食べていました。そろそろてっぺんのマロングラッセを食べようとフォークを伸ばした瞬間、入口の扉が勢い良く開いて助手のキーノが呼びました。
「ありんすちゃん、事件だ。今すぐ出発しよう」
ありんすちゃんはキーノの頭をポカポカ叩きましたが、結局連れ出されてしまうのでした。
※ ※ ※
「ここが事件の現場でありんちゅね」
美少女探偵ありんすちゃんと助手のキーノはカルネ村にやって来ました。ありんすちゃんはいささかご機嫌斜めのようです。
「被害者の名前はグ。東の森の巨人と呼ばれるウォー・トロールだな」
助手のキーノが手帳を見ながら説明します。ありんすちゃんはグの遺体──それは焼け焦げた巨大なハンバーグにしか見えませんでしたが──に近づいて観察します。すぐに何やら気がついたみたいでしたが、黙ったまま、キーノに説明を続けさせました。
「容疑者が何人かいる。まずは村娘のエンリ。そしてその友人のンフィーレア、その祖母のリジィー。ンフィーレアは第二位階、リジィーは第三位階までの魔法が使えるそうだ」
ありんすちゃんは静かにエンリ、ンフィーレア、リジィーそして最後にキーノをじっと眺めました。
「そして西の魔蛇ことリュラリュース。被害者とは抗争中だったそうだ。動機は充分ある。そしてゴブリンのジュゲム。彼が持っていた剣はもともと被害者のものだったらしい」
キーノの説明を聞きながらありんすちゃんは静かにリュラリュース、ジュゲム、そして最後にまたもやキーノをじっと眺めました。
ありんすちゃんはしばらく腕を組んで考えていましたが、顔を上げると口笛を吹きました。すると何処からか大きな犬がやってきました。
「この犬は名犬ルプーでありんちゅ。今回の助っ人でありんちゅ」
賢そうな名犬ルプーは遺体の匂いを嗅ぐとグルグル辺りを周りだしました。そうしてキーノの周りに座り込むと一声ワンと吠えました。
「犯人はこの中にいるでありんちゅ!」
ありんすちゃんは断言しました。そしてゆっくりと自らの推理を語り始めました。
「最初に遺体を見た時に変だと思ったでありんちゅ。グはアンデッドだったでありんちゅ。ちかも、これだけの勢いで焼くにはちょれなりの魔法だったでありんちゅね」
ありんすちゃんは犯人の前に立ちました。
「犯人はキーノでありんちゅ!」
名犬ルプーが『そうだ』と言うようにワンワンと吠えました。キーノは思わず叫びます。
「んなわけあるかーー!」
※ ※ ※
寒々しい風が吹く中で、ありんすちゃんは追い詰められていました。なにしろありんすちゃんの推理では犯人はキーノ以外に考えられなかったからです。ありんすちゃんは悩み、やがて一つの結論に至りました。
「〈ヴァーミリオンノヴァあ!〉」
ありんすちゃんの攻撃魔法〈ヴァーミリオンノヴァ〉──朱の新星──によってグの遺体は影形も残らず消えてしまいました。
「これで解決でありんちゅ」
美少女探偵ありんすちゃんの活躍により、グ殺人事件はなかった事になったそうです。そして、ありんす探偵社に戻ったありんすちゃんはモンブランケーキのマロングラッセを美味しく頂きましたとさ。めでたしめでたし。