ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫
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ランポッサⅢ世の依頼 ~消えた第一王子の行方~

 美少女探偵ありんすちゃんと助手のキーノはリ・エスティーゼ王国のロ・レンテ城に来ていました。数々の難事件をことごとく解決してきた手腕が評判となり、リ・エスティーゼ王国のランポッサⅢ世じきじきに依頼をしたいと呼ばれた為です。

 

「これはよくおいで頂きました。私がランポッサⅢ世です。まずは長旅の疲れを取って頂きたい」

 

「ちょれには及ばないでありんちゅ。しゅぐに依頼を話ちゅでありんちゅよ」

 

 慇懃に出迎えた国王に対して、ありんすちゃんは即座に用件を訊ねました。

 

「実は……ありんす殿に調査して頂きたいのは我が不肖の息子、第一王子のバルブロの行方についてじゃ」

 

 ランポッサⅢ世は苦しそうにポツリポツリと話し始めました。

 

「かのカッツェ平野での合戦は知っておろうな?」

 

 ありんすちゃんは黙って頷きました。帝国と王国との毎年の合戦に魔導国が加わった今回の合戦──王国が壊滅的な被害を被っただけでなく帝国の全兵士の心胆を潰してしまう程の蹂躙劇──は誰もが知っています。

 

「……あの戦場にはバルブロは居なかった。私は良かれと思い、あれを戦場ではなくカルネ村に向かわせた。……しかし、どうした事かバルブロはおろか付き従った兵士一人として行方が知れぬのだ」

 

 国王はそこまで話すと疲れきったかのようにソファーに身体を沈めました。そして弱々しくありんすちゃんの手を取ると言いました。

 

「もしかしたらバルブロは既にこの世のものではないのかも知れぬ。頼む。是非とも消息を掴んで欲しい」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「で、どうする? やはりカルネ村に向かうか?」

 

 王都のカフェでジェラートを楽しむありんすちゃんに助手のキーノが訊ねました。ありんすちゃんは可愛らしく小首を傾けて答えます。

 

「ちょれちか無さそうでありんちゅよね……」

 

 二人はかくしてバルブロ王子が向かったというカルネ村へ出発するのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「ここがカルネ村か……普通の開拓の村かと思っていたが、何だかものものしいな」

 

 キーノが思わず呟くようにカルネ村はぐるりと周囲を頑丈な柵で覆われていて、ちょっとした城砦のようでした。

 

 村の入り口まで来ると周りから大勢のゴブリンが姿を現しました。

 

「そこで止まれ。二人共なかなかの強さのようだな。ここはカルネ村だ。一体なんの用だ?」

 

 キーノがありんすちゃんの前に立って答えました。

 

「私達は知り合いを訊ねて来た。エンリかンフィーレアという人物が住んでいる筈なんだが?」

 

「な、何だって? ……あんた達は将軍のお知り合いでしたか。失礼しました。今、将軍にお知らせします」

 

 ありんすちゃんとキーノは顔を見合せました。二人供、狐につままれた気分で将軍の到着を待つのでした。

 

「あ、お久しぶりです。先日はお世話になりました。ありんすちゃんと助手さんですね」

 

 声がする方を見ると、赤い帽子を被ったゴブリンに囲まれたエンリが息を弾ませながらやって来る所でした。

 

「……うん? このゴブリン……難度は百を越えているみたいだな……」

 

 兇悪そうな表情をした赤い帽子のゴブリンに身構えるキーノの頭をありんすちゃんはポカリと叩きます。こういう風にやたらと敵意を表していてはとてもクライアントに好かれる事は出来ません。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「第一王子なら確かにカルネ村に来ました。……ちょっと色々あって、結局王子達はカッツェ平野に向かいましたよ」

 

 カルネ村の中央にある集会所にありんすちゃん達を迎え入れたエンリとンフィーレアはありんすちゃんの質問に答えました。

 

「ちょうでありんちたか。ちょれではカッツェ平野に向かうとしゅるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんと助手のキーノはカルネ村を後にするのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「二人共なんか探し物っすか? 良かったらこの美人のお姉さんに話してみるっす」

 

 ありんすちゃん達がバルブロ王子の足取りを探しに郊外を歩いていると、通りすがりの修道女(クレリック)が声をかけてきました。ニコニコと人懐こそうな彼女にありんすちゃんは答えました。

 

「……ああ、あの王子なら知っているっすよ。レッドキャップさん達にボコボコにされて……せっかく何度も回復魔法をかけて治療してあげたんすっけど、残念ながらお亡くなりになったっすよ」

 

 ありんすちゃんはこの通りすがりの修道女の行いに感動しました。彼女は見ず知らずの王子に回復魔法を何度もかけてあげたというのですから。

 

「うーん……こうなったら犯人をちゅかまえるでありんちゅ」

 

「しかし犯人がわからないぞ? どうする?」

 

 ありんすちゃんにキーノが聞きました。ありんすちゃんは前を向いたまま、自信ありげに答えました。

 

「キーノ、カルネ村に戻るでありんちゅ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……そうか。バルブロはもう……」

 

 リ・エスティーゼの王城に戻って来たありんすちゃん達から報告を受けたランポッサⅢ世は肩を落としました。

 

「……しかし、ありがとう。消息をこうして届けてくれたのだ。きちんと謝礼はする。……そうだ、かの回復魔法をかけてくれたという心優しき修道女にもなにか礼をしなくてはな。……それにしてもさぞかし無念であったろう」

 

 国王の嘆く姿を見て、ありんすちゃんが前に出ます。

 

「国王、仇はありんちゅちゃがとってきたでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはそう言うとポケットから赤い帽子を取り出しました。

 

「この帽子が犯人でありんちゅ! ……レッドキャップ──赤いぼうちでありんちゅ!」

 

 

 得意げに胸を張るありんすちゃんの周囲の時間が一瞬だけ凍り付くのでした。

 

 尚、ありんすちゃんはレッドキャップと間違えて同じくポケットに入れていたレッドソックスを取り出していましたが誰も突っ込まなかったそうです。








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