ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫
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美姫の覚醒

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』──美少女探偵ありんすちゃんは朝から大いなる謎にいどんでいました。鉛筆を片手にしばらく考え込んでいましたが、答えを思い付いたみたいで早速ます目に書き込んでいきます。

 

「バハルス帝国の首都は……アーウィンタールっと。これでクロスワードパジュル完成でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは嬉しそうに万歳をします。

 

「……クロスワードは良いが、この所依頼が少ないな。このままだとまたもや貧乏暮らしに戻ってしまうぞ」

 

 助手のキーノがありんすちゃんの喜ぶ気持ちに水を差します。ありんすちゃんが頬を膨らませて抗議しようとした時、扉の鈴がチリンチリンと鳴って来客の訪れを告げました。

 

「──ナーベ!」

 

 来客が名乗るより先にキーノが叫びました。

 

「ようこそ。ありんちゅ探偵ちゃでありんちゅ。依頼はなんでありんちゅか?」

 

 ありんすちゃんの問いかけに対してナーベはモジモジしてなかなか話そうとしません。しばらくしてからようやくポツリポツリと話し始めました。

 

「……実は……私は覚醒したいのだ……です。その……2ちゃんねるという所で千番目に『1000ならナーベ覚醒』と書き込むと私は覚醒出来るらしい……です」

 

 ありんすちゃんはあまり乗り気なさそうにナーベの話を聞いていました。

 

「ふーん。ちょうでありんちゅか。ちょれでナーベはかくちぇいするとどうなるんでありんちゅ?」

 

「……はっ。んーん、その……」

 

 ナーベは顔を真っ赤にして言葉に詰まりました。

 

「恋でありんちゅね。まあ(パンドラ)モモンは同じ種族でありんちゅからお似合い──」

 

「──なんだと! ──」

 

「──いや、それはあり得ない──」

 

 ありんすちゃんの発言に畳み掛けるかのようにキーノとナーベの言葉が重なりました。

 

「どうちたものでありんちゅ……この依頼は……」

 

「──この依頼、私が受ける!」

 

 ありんすちゃんの言葉を遮って助手のキーノが叫びました。ありんすちゃんは自分のセリフを遮られた為、少しムッとしましたが、キーノに任せる事にしました。

 

(よし。これでナーベに恩を売ればモモン殿との距離を近づける好材料となるに違いない。2ちゃんねるとやらは全く知らないが、かつては国墜としとまで呼ばれた私に不可能な事は無いだろう)

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 あれだけ大見得をきったキーノでしたが、依頼を受けて早々につまづいてしまいました。2ちゃんねるがわかり、ナーベ覚醒の舞台である『オーバーロードスレ』まではたどり着く事が出来たものの、どうしたら覚醒するのか良くわかりませんでした。仕方ないので『ナーベ覚醒はどうしたら良いか教えて欲しい』と書き込んでみましたが、全く反応がありませんでした。よくよく見ると一番最近の書き込みが一週間前で、あらためてよく探すと書き込みが盛んな他の『ワッチョイあり』オーバーロードスレがあったので『ナーベ覚醒はどうしたら良い?』と書き込んでみると早速返事がありました。

 

『まず服を脱ぎます』

 

 キーノは言われた通りにしてまた書込みをしました。

 

『服を脱いだ。次はどうしたら良い?』

 

 すぐに返事がありました。

 

『スレッド終了の1000レス目の書き込みで“1000でナーベ覚醒”と書き込む事が出来たらナーベが覚醒します』とありました。

 

「──惜しい! 『1000でナーベ覚醒』と書き込んだのに『このスレッドは1000を超えました。もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。』になった……」

 

 キーノは驚きました。なんと1000番目の書き込みに『イビルアイちゃん覚醒』とあったのでした。

 

(この私が覚醒だと? ……しかし覚醒とは一体?)

 

 キーノはまたもや書込みました。

 

『イビルアイが覚醒したらどうなるか教えて?』

 

 すぐに返事が書き込まれます。

 

『まず服を脱ぎます』

 

(ふむ。どうやら服を脱ぐのが2ちゃんねるの作法らしいな。仕方ない)

 

『服を脱いだ。教えてくれ』

 

 更に相手からの書き込みがありました。

 

『全裸になりましょう』

 

 キーノもさすがに躊躇しましたが、意を決して下着も脱ぎました。

 

『これで良いか? 教えてくれ』

 

 すぐに返事が書き込まれました。

 

『イビルアイが覚醒したらモモンから好意を持たれます』

 

「マジ! …………やったー」

 

 その日からキーノはひたすら『1000ならイビルアイ覚醒』に挑戦しますがうまくいきません。必ず他の誰かの書き込みが1000レス目をとってしまうのでした。背に腹は替えられず、キーノはまたしても書き込みをするのでした。

 

『どうしたら1000レス目をとれるか教えて下さい』

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ──カルネ村

 

「ウヒャヒャヒャ。またあのアウアウが乞食レスしているっすね。また『まず服を脱ぎます』っと。……馬鹿っすね。ホントに脱いでいたら面白いっすけど。……さて、ゴブリンさん達、そろそろ1000レスっすからよろしく。絶対にナーちゃんの覚醒を阻止するっすよ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんす探偵社にアダマンタイト級冒険者 漆黒のモモンとナーベが訪れていました。美少女探偵のありんすちゃんが応対します。

 

「ナーベからの依頼は奥の部屋で助手のキーノが取り組んでいるでありんちゅよ。案内するでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんが漆黒の二人を伴って部屋の扉を開けると──

 

「!!!!!!」

 

「うわわわーモ、モ、モモン殿!」

 

 部屋の中には全裸でスマホの前に正座しているキーノの姿がありました。

 








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