ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
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「あけますか あけませんか」という謎の言葉
豪華客船ローゼンメイデン号に集められた着飾った六人の乙女と一人の少年
突然開催を宣言されるアリンスゲーム
果たして美少女探偵ありんすちゃんは勝ち残る事が出来るだろうか?
──ようこそ ありんす探偵社へ 番外編 豪華客船ローゼンメイデン号への招待状 ~アリンスゲーム~ ──
城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』の穏やかな午後、美少女探偵のありんすちゃんは助手のキーノを相手にチェスに興じていました。探偵たるもの優秀な頭脳が資本ですからありんすちゃんが負けるはずがありません。……ですが今日に限ってはありんすちゃんの方が圧倒的に劣勢みたいですね。
「もう降参しても構わないぞ。どうせもうあと数手でチェックメイトだからな」
助手のキーノが余裕を見せますが、ありんすちゃんは一言も返せずにただ唸っているばかりです。と、扉の鈴がチリンチリンと鳴って声が聞こえてきました。
「すみませーん。ありんす探偵社宛にお荷物です」
チェス盤からありんすちゃんが顔の上げようとしない為、キーノが荷物を受けとりに行きました。配達人から大きなトランクを受けとり、戻って来ると何故かありんすちゃんが涼しげな顔をしていました。
「あー! 卑怯だぞ! ズルしたな?」
チェス盤を一瞥してキーノは声を上げました。でもありんすちゃんは全く悪びれる様子がありません。
「勝負は非情なんでありんちゅ。……ところで随分大きな荷物でありんちゅね?」
旅行に使う大きなトランクには紙が貼られていて『あけますか あけませんか』と書かれていました。
「うむ。こういう得体の知れない贈り物は慎重に──ってありんすちゃん!」
キーノを振り切ってありんすちゃんがいきなりトランクを開けてしまいました。
「開けるにきまっているでありんちゅ」
おそるおそるキーノが中を覗いてみると二枚の豪華客船ローゼンメイデン号の乗船券とありんす様 キーノ様とそれぞれ宛名が付けられた大きな箱が入っていました。ありんすちゃんはすぐさま二つの箱を開けます。中からはそれぞれ綺麗なドレスや帽子等──ありんすちゃん宛には黒のドレスとカチューシャ、キーノ宛には赤のドレスに赤の帽子、犬のぬいぐるみ──が入っていました。
「ありんちゅちゃはこっち!赤はありんちゅちゃの色でありんちゅ」
ありんすちゃんはキーノ宛に届いた赤のドレスを着て大満足です。キーノは仕方ないので黒のドレスを着ました。
「さあ行くでありんちゅ。事件が起きる予感がしゅるでありんちゅ!」
かくて美少女探偵ありんすちゃんと助手のキーノは豪華客船ローゼンメイデン号が停泊する港に向かうのでした。
※ ※ ※
「乗船券を拝見致します。ありんす様、キーノ様、お待ち致しておりました。お二方が最後の乗船となります」
上品な初老の執事に案内されてありんすちゃんとキーノはタラップをのぼりました。
「主宰ちゃはどんな方でありんちゅか? それに他のお客ちゃんはどんな方々でありんちゅ?」
ありんすちゃんは執事に問いかけましたが答えは無く、ただただ『後でわかります』と頬笑むだけでした。
「なかなか食わせものでありんちゅね」
おそらくは一等客室とおぼしき豪華な内装の船室に案内されたありんすちゃんは早速キーノに愚痴を言いました。
「うちゃんくちゃい執事でありんちゅ」
と、ありんすちゃんの呟きに答えるかのように扉がノックされました。
「ありんす様、キーノ様。主人より皆様にホールにお集まり頂くようにとの事です」
「わかったでありんちゅ。支度しちゃらすぐ行くでありんちゅ」
ありんすちゃんは少しばかり気不味い思いをしながら答えました。
※ ※ ※
甲板に面した多目的ホールに行くと、ありんすちゃん達と同様に綺麗にドレスアップした人達がいました。ありんすちゃんとキーノがそれぞれ赤と黒が基調なようにそれぞれ黄色、紫色、ピンク、青、緑といった色鮮やかな色彩がそこにはありました。
突然、ホールの照明が消え、同時に甲板に立つ一人の男がスポットライトに照らされました。
「皆さん、ようこそローゼンメイデン号へ。私は今回のゲームの主催者、ヤルダバオトと申します。あなた方に私から贈りました衣装、これがゲームの参加の証となります。これより皆さんには互いに闘って頂きます。とはいえ、殺し会うのではなく、相手が降参するか衣装を脱ぐかをすれば勝ちとします。このアリンスゲームの最後の一人勝ち残った者には『何でもひとつ願いを叶える』権利が与えられます。──それではアリンスゲームのスタートです!」
スポットライトが消えてすぐに周囲で人が動く気配がしました。ありんすちゃんはキーノと背中合わせになり、警戒します。
「ありんすちゃん! 来るぞ!」
暗闇の中でピンクのドレスを着て可愛らしいリボンをつけた熊のような巨体がキーノに襲いかかります。
「チッ! ガカーランか! ありんすちゃん、こいつの相手は任せろ!」
キーノはガカーランの一撃をかわすと魔法を発動させました。
「これでも食らえ! 〈クリスタル・ウォール!〉」
キーノに第二撃を浴びせようとしたガカーランの目の前に水晶の壁が現れます。しかし、ガカーランの怪力の前ではすぐに割られてしまいそうでした。
「……こ、これは!」
ガカーランの動きが封じられています。なんとガカーランは水晶の壁に映ったピンクのドレスを着た自らの姿に見とれています。
「こっちはなんとかなりそうだ。ありんすちゃんは大丈夫か?」
※ ※ ※
ありんすちゃんは片目に眼帯をした紫色のドレスを着た女と対峙していました。ドレスには一円とあるシールが貼ってありました。
「かかってくるでありんちゅ」
ありんすちゃんはとりあえず手に持っていた犬のぬいぐるみを構えました。相手はじっとぬいぐるみを見つめています。ありんすちゃんがぬいぐるみを右に動かすと相手も右を見ます。
「……可愛い。それ。くんくん」
「欲ちいでありんちゅか?」
試しにありんすちゃんが尋ねると相手は頷きました。そこでありんすちゃんは取引して犬のぬいぐるみをあげる代わりに勝負に勝たせてもらいました。
※ ※ ※
一方、助手のキーノは黄色いドレスの女と闘っていました。何故か互いに敵同士に出会ったかのようにし烈な闘いを繰り広げていました。
「〈ヴァーミンペイン!〉」
「〈爆散符!〉」
やがて二人共相討ちとなり、アリンスゲームから退場となりました。
※ ※ ※
「どうやら残ったのはあたし達とありんすちゃんだけみたいだね?」
緑のドレスを着たダークエルフがジョウロを構えます。
「……二対一じゃ勝ち目は無いと思う……降参した方がいいと、あの、思います」
青い上下を着たダークエルフの少年がハサミを構えます。ありんすちゃんはさっき犬のぬいぐるみをあげてしまったので何も持っていません。
実はこのダークエルフの二人はそれぞれアウラとマーレで、ナザリック地下大墳墓の第六階層の階層守護者だったりします。一対一ならともかく、二対一ではありんすちゃんに勝ち目はありません。
しかしありんすちゃんはゆっくりとアウラとマーレに向き合いました。そして高らかに勝利を宣言します。
「チェックメイトでありんちゅ。この勝負はありんちゅちゃの勝ちでありんちゅ!」
「は? ありんすちゃん、なに言ってるの? あたしとマーレとを相手に本気で勝てると思ってるわけ?」
「アウアウはドレスを着ているでありんちゅ。マーレはズボンをはいているでありんちゅ。これはぶくぶく茶釜ちゃまの意志に反ちているでありんちゅ!」
みるみるうちにアウラとマーレの顔が真っ青になっていきました。彼らの創造主であるぶくぶく茶釜様が二人にだけ許した特別──異性の衣装を着る事──をアリンスゲームで反古にしてしまうとは。
「マーレ! 早く脱ぎなさい! 早く!」
「アウラ、マーレは衣装を自ら脱いだので残念ながら失格。勝者はありんすちゃん! 見事アリンスゲームを勝ち抜いた! 見事です!」
会場にヤルダバオトの声が響き渡りました。ありんすちゃんは得意そうに胸を張ってヤルダバオトの元に進みます。
「では、約束通りありんすちゃんの願いごとをひとつ──おや?」
ヤルダバオトが不意に口を閉じました。いったいどうしたのでしょうか? ありんすちゃんは少しドキドキしてきました。
「ざーんねーん! ありんすちゃんは失格です! ありんすちゃんには水銀燈の衣装を贈りましたが今着ているのは真紅です。よって失格です! 」
※ ※ ※
ありんすちゃん達はエ・ランテルに帰って来ました。それから一週間、キーノの小言が続いたそうです。