ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
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城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』今日は一日中雨が降っていて、美少女探偵のありんすちゃんも助手のキーノも暇をもて余していました。
「暇だな。いっその事内職でもするか」
キーノは自嘲気味に呟きました。ありんすちゃんが最近新しい服を沢山新調した為、沢山あった蓄えもいささか心もとなくなってきていました。
「こんな事なら赤毛組合のバイトしておけば良かったでありんちゅ」
ありんすちゃんが思わず呟きました。ちなみに赤毛組合とは以前ありんすちゃんが解決した難事件の舞台です。
ありんすちゃんの呟きに(赤毛組合の謎は結局何だったんだよ)とキーノが心の中でツッコミを入れた時、入り口の扉の鈴がチリンチリンと鳴って来客を知らせました。
「いらっちゃいませでありんちゅ。ありんちゅ探偵社でありんちゅ」
暇だったありんすちゃんが来客を迎えます。中に入ってきたのはウェーブがかった黒い髪の男でした。
「ああ。依頼をしたいんだが……人を探していてな」
「くわちく話しゅでありんちゅ」
ありんすちゃんは男を座らせて話しを聞きます。
「まず名乗っておこう。俺の名前はブレイン・アングラウス。ブレインと呼んでくれ。……探して欲しい人物は名前をセバスチャン。何処かの大貴族の執事らしいのだが……とても強い男だ。もしかしたらアダマンタイト級冒険者のモモンより強いかもしれない」
「ふざけるな! モモン殿の方がうぐっ!──」
ありんすちゃんはいきなり騒ぎだしたキーノの頭を殴って黙らせます。本当にこの助手にはいつもいつも手を焼かされます。
「わかりまちたでありんちゅ。その依頼受けるでありんちゅ。……依頼料金は……」
ありんすちゃんはブレインから依頼料として金貨三枚をせしめてほくほくです。
※ ※ ※
「で、どうする? また魔法の棒を使うのか?」
依頼者が帰ると助手のキーノが尋ねてきました。
「捜査は足で稼ぐものでありんちゅ。キーノはおバカちゃんでありんちゅね」
翌日、キーノはリ・エスティーゼに向かいました。セバスチャンという執事についての情報を集める為です。一方でありんすちゃんはエ・ランテルに残って調査する事にしました。
ありんすちゃんがエ・ランテルで最高級の宿屋『黄金の輝き亭』で聞き込みをしているとバルドという商人から有力な情報を得る事が出来ました。大分前に縦ロールの金髪の令嬢の執事でセバスという人物が王都に向かったという話でした。
「うーん……惜しいでありんちゅね。名前は似ていまちゅが……」
ありんすちゃんはセバスチャンでなくセバスだったら丁度良い人物に心当たりがあるのに、と残念に思うのでした。
※ ※ ※
捜査開始から三日後、リ・エスティーゼ王国王都に行っていた助手のキーノからメッセージが届きました。彼女の昔の友人にマンーガという資料を集めている人物がいて、その人物から有力な情報が手に入ったという事でした。
「……ふーん。わかったでありんちゅ。セバスチャンという執事は悪魔で、イギリチュという国のロンロンにいるんでありんちゅね。……女王の番犬という伯爵の執事でありんちゅか。ブレインは今王都らしいから報告するでありんちゅ。…………謝礼金をちゃんと受け取るでありんちゅよ」
ありんすちゃんは優雅に紅茶を飲みながら助手のキーノの成長を喜ぶのでした。
「ちょれにしてもロンロンとは何処でありんちゅかね? 悪魔で執事ならデミオルゴチュが知ってるかもしれないでありんちゅね」
ありんすちゃんは物思いに耽りながら窓から見える雨のエ・ランテルの街並みを眺めるのでした。