ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
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城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』で最高の探偵ともてはやされている美少女探偵ありんすちゃんは朝のティータイムを楽しんでいました。砂糖を沢山入れたアップルティーと大好きなモンブランケーキを頬ばっています。あらあら、口の回りにクリームが……と、突然助手のキーノが駆け込んで来ました。
キーノは冒険者組合からの呼び出しがあったので、要件を聞きに行かせていたのです。
「ありんすちゃん、大変だ。事件だ。すぐに現場に行こう!」
ありんすちゃんは露骨に嫌そうな顔をしました。何しろありんすちゃんは大好きなモンブランケーキをまだ食べている途中でしたから。モンブランケーキより優先させるべき事なんてありんすちゃんには考えられません。
「実は、この間あったアンデッド襲撃事件の犯人、ズーラーノーンの幹部だったんだが、その死体が消えたんだ」
ありんすちゃんはモンブランケーキのてっぺんのマロングラッセを食べながら生返事で答えました。
「そこで冒険者組合から我がありんす探偵社に捜査の依頼をしたいそうだ。これを解決したらきっと評判になるに違いない」
キーノは妙に興奮していましたが、ありんすちゃんにはお見通しです。きっと捜査にかこつけて“漆黒”のモモンに近づこうという魂胆に決まっています。それでもありんす探偵社の評判が上がるならば依頼を受けても良いかもしれません。
「じゃあ行くでありんちゅ」
モンブランケーキを食べ終えたありんすちゃんは立ちあがりました。
死体が消えたとされる場所はエ・ランテルの冒険者組合に程近い水の神殿の礼拝堂でした。そこに二つの柩にそれぞれ納められた死体が翌朝には綺麗になくなっていたとの事でした。
「うむ、ズーラーノーンだから死体をアンデッドにしたのかも知れないな」
助手のキーノが勝手に推理を始めました。ありんすちゃんはなんだか面白くありません。何しろ『ありんす探偵社』は美少女探偵ありんすちゃんあってのものですから、やはりありんすちゃんが最初に推理を披露するべきですよね?
ありんすちゃんは現場を丹念に調べます。きっとどこかに手掛かりがきっとある筈です。
片方の柩を調べていたありんすちゃんはある事に気が付きました。その柩からは芳ばしい、焼肉の匂いがしたのです。当時死体を柩に入れた人間に話を聞くと、二人の内一人は焼け焦げた死体だったとの事でした。
…………グゥゥーー……
香ばしい焼き肉の匂いに思わずありんすちゃんのお腹が鳴りました。ありんすちゃんは口笛を吹いて素知らぬ振りをします。うーん……皆にばれていますよ、たぶん。
「謎はしゅべて解けたでありんちゅ!」
ありんすちゃんは胸を張りました。流石は美少女探偵ありんすちゃんです。事件を解決するのはお手のものですね。
「何故、犯人の死体が無くなったのかでありんちゅが…………それは犯人が犯人の死体を食べちゃったからでありんちゅ! ……焼け焦げた死体が美味しそうな匂いだったから食べちゃったのでありんちゅ」
かくして事件の謎を解いたありんすちゃんの名声は周辺諸国にまで広まるのでした。