ありんす探偵社へようこそ 作:善太夫
<< 前の話 次の話 >>
城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』の朝は早い。しかしながら探偵社所長の美少女探偵ありんすちゃんの出勤は遅い。
助手のキーノは事務所の奥の寝室ですやすや眠るありんすちゃんに声をかけました。
「ありんすちゃん、いい加減起きろ。今日は来客があるはずだろ?」
ありんすちゃんは仕方なしに起きました。寝ぼけ眼をこすりながら服を着終えると、丁度来客を知らせる扉の鈴がチリンチリンと鳴りました。
「先日手紙を出した者だが、依頼を受けてくれるのかな?」
背が高くスーツを着て顔に仮面をかぶった男が入って来ました。──と──
「き、貴様はヤルダバオト!!」
突然キーノが叫んで身構えました。
「ふむ。確かに私の名前はヤルダバオトだが? どうも貴女とはお会いした記憶がありませんね。何か勘違いされているのでは?」
「見間違う筈はない。私はイビ──」
ありんすちゃんは騒ぐ助手の頭をゴチンと叩きます。せっかくの依頼をふいにしたくありませんから。キーノは本当にいつになったら同じ過ちをしなくなるのでしょうか? ありんすちゃんはやれやれと肩をすくめるのでした。
「ちつれいしちゃいまちたでありんちゅ。確か探しものの依頼でありまちたでありんちゅね」
ありんすちゃんは礼儀正しく尋ねました。幸い来客は助手キーノの態度にへそを曲げる事はなさそうです。
「改めて自己紹介を。私はヤルダバオト。ご覧の通り悪魔です。実はあるマジックアイテムを探しておりまして…………謝礼は充分させて頂きます」
ヤルダバオトはそう言うと懐から金貨が沢山入った袋を取りだしました。ありんすちゃんとキーノは思わず唾を飲み込みました。これだけあれば半年分たまった家賃を払ってもまだまだ残ります。
「わかりまちた」
ありんすちゃんは興奮のあまり『ありんちゅ』を付けるのを忘れてしまったみたいですが、無理もありませんよね。何しろありんす探偵社始まって以来の大仕事なのですから。
「探して欲しいマジックアイテムはかくかくしかじか……かような魔力で悪魔の軍勢を呼ぶ事が出来るものです。大切な方から頂いたもので是非とも見つけて頂きたいのです」
ありんすちゃんは机に地図を広げると、六角形の断面がある細い棒を取りだしました。それぞれの面には『ダメージ500』とか『いっかいやすみ』といった魔法の呪文が書かれています。ありんすちゃんは棒の尖った方を地図に置き、人差し指で棒を揺らして呪文を唱えました。
「こっくりちゃん、こっくりちゃん、探しものはどこでありんちゅ──か──?」
倒れた棒は王都を指していました。
「きっと探しものは王都にあるでありんちゅよ」
ヤルダバオトは大喜びで帰って行きました。もちろん謝礼を沢山受け取ったありんすちゃんも大喜びです。
じっとありんすちゃんの魔法の棒を眺めていたキーノがありんすちゃんに言いました。
「……うむ。その……ありんすちゃん。頼みがあるのだが……その棒で行方を探して欲しい人物がいるのだが?」
ありんすちゃんはお金持ちになってとても上機嫌でしたから、助手のキーノの頼みを聞いてあげる事にしました。
「……で、誰をしゃがしゅでありんちゅ?」
「……うむ。その……ホニョペニョットという名前の吸血鬼だ。実はあるお方が探していてな……」
「わかりまちたでありんちゅ」
ありんすちゃんはまたもや棒を立てて呪文を唱えます。今度は棒が指したのはエ・ランテルでした。
「ありんすちゃんありがとう。早速そのお方に知らせて来る」
キーノはそう言うと嬉しそうに駆け出して行きました。