インフィニット日本酒中級コース第5回(オフフレーバー)
これまで4回の講義で日本酒の香が何から生まれてきたかを勉強して来ましたが、それはすべて日本酒が造られる過程において発生する物質が生み出すものであり、どの成分がどのくらいあるかはお酒によって違うけど、色々な香がまじりあって生みだされるものであることは確かです。
香は一般的に強い香りが弱い香りをマスキングしてしまうので、何気なく香を嗅ぐとその強い香に引っ張られて弱い香りは気がつかないことが多いけれども、注意深く奥にある香を利きわけていくと、いろいろなことが判ってくるようです。そのわずかな香の違いから日本酒の製造工程で何が起きているかも想像できると先生は言われます。でも僕にはそれは大変難しくいつになったらそんなことができるか、全く自信はありません。
でも、そのわずかな香を利きわけるためには、日本酒の酒質からどんな成分があるだろうかということを気にかけてイメージして利きわけていくうちに、これではないかと感じるようになると言われました。そのつもりで努力していますが僕にはなかなか難しいです。
その僕にも判る香があります。それはオフフレーバーです。オフフレーバーとは食品成分自身の化学変化や,外部からの物質の混入によって食品の品質が劣化して二次的に生じる異臭,変質臭,悪変臭などをいいます。僕もそれを感じた経験があります。それはある蔵で日本酒を搾る時に使う薮田のフィルターから出る薬臭い香に悩まされたことがありました。僕はものすごく強く感じた異臭でしたので、その蔵の人にお聞きしましたが、自分はわかるけど一部の人にはあまり感じないとのことでした。感じるかどうかはその人の能力で違いますが、こんな異臭があるものを世に出すのは良くないので、その原因の特定し改善するする必要があります。でもTOPが理解してくれないとその対策はなかなか難しいと聞いています。
今回の講義はそのオフフレーバーにはどんなものがあり、どこで生まれるかを勉強するとともに、それが含まれるお酒を試飲して体験することになりました。
復習になりますが、先ずは正常な日本酒が醸しだす香りから簡単に説明していきます。
1.原料系の香り:
米由来の香りで、濁り酒、無ろ過生原酒で澱が残っていると多く感じますが、濾過をすると減少します。硬度の高い水を使った場合は鉱物的香がすることもあるようです。
2.アルコール:
アルコール添加したお酒を活性炭濾過をすると香りが消えるので、強く感じるそうです。
3.乳酸系の香:
酸度が高くなると乳酸の香りがします。ワインではバターのような香ということもあるそうです。
4.アセトアルデヒド:
青臭い香とかスウットした感じの香りとか、木香様臭(杉の木の香り)といわれます。少し枯れた感じなのにツンとする香ともいわれます。お酒を造った後、酸化すると出てくるので、熟成した時に出るフラノンの後ろに感じるそうです。火入れすると消えていくそうです。
5.カプロン酸エチル:
リンゴやメロンと言われますが、濃度が高くなるとパイナップル的になり、さらにミルク臭になるそうです。脂肪酸の香に近づくようです。
6.酢酸エステル:
酢酸イソアミルはバナナや洋ナシの香り、酢酸エチルはセメダインの香がします。
7.高級アルコール:
高分子のアルコールなので油性マジックの香だそうですが、濃度が増えると蝋のような香になります。フェニルアラニンが分解すると花の香りが出ることもあるそうです(稀)。
8.脂肪酸エステル:
油の香りであり、高級アルコールとの差は見分けにくいそうです。
9.フラノン:
熱変化や貯蔵、熟成で出てくる香で濃くなるとカラメルのような香になります。さらに長期熟成すると梅酒にようになることもあるそうです。
以上に示した香は日本酒ならば出てきても仕方がない香りですが、オフフレーバーは造りの途中で外から入ってきたり、生成して出来る香なので、その香りが心地よい香りならば良いのでしょうが、ほとんどが異臭と言われることが多いようです。
<オフフレーバー>
1.4VG
4ビニルグアヤコールと言われる物質で、グローブ(丁子(チョウジ))とスモーク臭の香が混じった香がします。人によっては甘く、スパイシーな香とか蛸酸ウインナーの香りとも言われます。ビールの世界ではドイツのバイツエンのビールが4VGに由来するスモーキーな香がすることで有名です。泡盛の焼酎では原料中のフェルラ酸が蒸留中に4VGになると言われています。ですから4VGは異臭とはいえないとも考えられますが、ワインの世界や日本酒の世界ではオフフレーバーと認識されています。
日本酒の場合は自家培養の酵母、特にイソアミル系の香りを出す酵母の中に、4VGを出してしまう酵母があるようです。また、麹から持ち込まれる細菌が4VGを出すという研究もあるようです。4VGの香は必ずしも嫌な香りとは言えないけれども、酸味と苦みが強く出るので、日本酒の本来の味にはないものとしてとらえられており、日本では県の醸造試験所が4VGは出さないように指導しているそうです。
2.樹脂とロウ
発酵が終わり切っていない時で、タンパク質が溶けきっていない時に火入れすると蛋白混濁が起こり、白く濁ってしまい、粒子が小さいので全く沈澱しない濁ったお酒になるそうで、ロウ臭がします。これは完全に管理ミスで起こるトラブルです。
生酒で出てくることがあります。それは高級アルコールが含まれている時に温度を冷やすと、油が固形物になって混濁するそうで、凄いロウ臭がするそうです。出荷した時に香を確認しないする必要があります。
3.オイル
ミシン油のような機械油のオイルの香がすることがあります。酸度が2以上で生の場合に出る可能性が多いようです。オフフレーバーかどうかはぎりぎりの香であるが、決して心地いいものではないそうです。
4.硫黄
磨きが60%以上で、アミノ酸が多い時に熟成するとチオールを多く造ってしまい硫黄の香がするそうです。酵母の代謝で造られるようです。
5.TCA
トリクロロアニソールという物質でカビ臭がします。これは塩素消毒した器具を使用した時に起こるそうです。残留塩素が少しでもある器具を使用するとか、濾過機のフィルターの濾紙に何らかの理由で塩素物質が付いた場合でも起こるそうです。空気中に飛散をした塩素化合物が付着する程度でも起こるようです。
カビ臭というより湿った押入れの香といった方が良いかもしれません。ワインではコルク臭と言われるもので、コルクが消毒用の塩素物質で汚染された時にワインに移るようです。
6.ジアセチル
乳酸の香りとセメダイン臭が重なった香で、僕は一度この香のお酒を飲んだことがありますが、乳酸が腐ったような香のように思えました。 酸度が高くて甘みが多いお酒で、酵母が活性がまだある時に搾るとアセト乳酸ができるが、それがすぐ酸化してジアセチルとなるようです。搾ったお酒をすぐに瓶詰めするとその時にはジアセチルは出来ていないが、しばらく経つと出てくるようなので、要注意の物質です。搾ってすぐ火入れすれば出ないそうです。
7.ムレ香
殆どがイソバレルアルデヒドの香です。醪の温度を一気に上げる時に出やすいそうです。また、高温糖化酛でも出る可能性があります。ムレた香と同時にカプロン酸エチルも出ることが多いので、それを良しとしている蔵もあるようですが、基本的にはオフフレーバーとすべき香だそうです。
以上でオフフレーバーの紹介を終わりますが、次にオフフレーバーがあるお酒の試飲をしました。
<試飲したお酒>
試飲したお酒は下記の6種類ですが、この中には明らかにオフフレーバーがあるお酒と全くないお酒、オフフレーバーかどうかが難しい中間的なお酒も入っていました。
1.仙禽 雄町 純米大吟醸 雄町35、50%精米 生原酒
Alc度15、日本酒度-2、酸度2.3、AA度:- 酵母 栃木酵母
2.仙禽クラシック 純米大吟醸 雄町50%精米 火入れ
Alc度15、日本酒度-2、酸度2.3、酵母 栃木酵母
3.豊の秋 豊秋庵 純米吟醸 山田錦と五百万石55%精米
Alc度15-16、日本酒度+2、酸度1.5、酵母 9号系
4.ロ万 純米吟醸 五百万石と夢の香 60%精米
Alc度16、日本酒度+0、酸度2.0、酵母 F7-01号
5.白岳仙 純米吟醸 五百万石 55-58%
Alc度15-16、日本酒度+5、酸度1.4、酵母 自社酵母14号系
6.吟の里 順子 純米酒 その他詳しいことは不明
以上の6種類のお酒ですが、まず色を見てみましょう。左から番号順に並べてありますが、色を見る限り大きな差はないようです。
1.仙禽 雄町無ろ過生原酒:
香を嗅ぐと乳酸とセメダインが混じったような軽いジアセチルの香りがしました。生なのでアセトアルデヒドの青臭い香りもしていますが、ジアセチルの香以外は特にいやなものはありません。人によっては問題ないと言う人がいましたが、先生はアウトの判断でした。僕も気になりましたが、オフフレーバーにするかどうか微妙な所です。酸度が高く甘酸っぱいお酒によく起こるようです。今回たまたま出たのではと思われます。
2.仙禽 クラシック 1回火入れ:
ジアセチルの香りは全くなく、栃木酵母らしいイソエチとカプが混じった綺麗な香りがして、心地よく飲めました。でも味的には1.の生の方がバランスが良いように思えたのは不思議です。スペック的には1とほぼ同じですが、火入れすることによりジアセチルが出なかったようです。
3.豊の秋 豊秋庵
香を嗅ぐとカプの香りが少なく、穀物の香りがします。この香は精米度が65%以上ならよくあることですが、精米度55%で出ているので、何か原因があると考えるそうです。味を味わってみると、前半の9号酵母ではまず出ない後味に苦味を感じるので、先生は醪の段階か後処理の段階で温度が上がったのではないかと想像するそうです。でも後処理ではこんな苦味は出ないので、この苦みから考えると醪の段階で温度が上がったと想定するそうです。オフフレーバーとは言えないぎりぎりの香りのようです。
4.ロ万 純米吟醸:
酵母はF701で、華やかだけどイソエチ系の酵母の割にはツンとしないで、ふわっと膨らむ香がするけど、良く嗅いでみるとわずかにムレ化のような香りがします。飲んでみるとアタックが甘くてとろっとしているので、後半まで甘みが残り、コハク酸は少なめに感じるのはもち米を使っているせいだと思うそうです。ちょっと変わったバランスのお酒ですが、酒質としてはこの蔵の特徴であり問題ないとのことでした。
5.白岳仙 五百万石:
香は丁子とかスモーキーな香ですが、人によっては青魚の生臭さと言う人がいるそうです。僕にとっては嫌な香りと言うよりちょっと変わってるなという感じでした。でもこれが4VGの典型の香だそうです。このお酒はダンチュウにも取り上げられていていやなお酒とは言われていないようですが、4VGからくる酸と苦味が特徴のようです。4VGはどうして生まれるかというと、自社酵母からくるようで14号系に多いそうです。4VGを勉強したい人はこのお酒を購入してください。
6.吟の里 順子:
このお酒は熊本地震を支援する寄付金付きのお酒として造られたお酒のようですが、TCAのオフフレーバーが出たので、販売をやめたお酒です。この香はTCAの典型の香だそうで、カビ臭いというより湿った押入れの香りの方が当たっているような気がしました。どうしてそうなったかは不明ですが、TCAを勉強するには貴重な幻の酒となってしまいました。TCAは昔36人衆で出たことがあったそうですが、滅多にないことのようです。
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