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はじめに
ベクトルの勉強において、最初にぶつかる壁である「内積」
ほとんどの教科書では突然公式が出され、内積とは何なのか?という基本が置き去りになっています。しかし、その表面的な理解のままでは大学入試の問題を解くことはできません。
この記事では、内積とは何かをはじめに説明し、そのあと内積の求め方の公式や計算方法、3次元における内積の性質を説明していきます。
一見わかりにくい内積ですが、「この式は何を意味するのか?」ということを確認しながら問題を解けば、必ず使いこなせるようになります。
内積を理解して、ベクトルを得点源にしましょう!
内積とは?
では、まず基本中の基本である「内積って何?」というところから説明します。
内積を求めるときは「影」を考えよう
2つの平面ベクトル、→aと→bを考えます。
(本来、ベクトルは
このように表しますが、この記事ではパソコンでの表記上→a, →bと表します)
これらのベクトルを平面上においてみると
こうなるとしましょう。
さて、このとき→aの垂直方面、真上からライトを照らしてみましょう。→bが→aに映し出す影は、
この青い部分ですね。
内積とは、この青い部分と、→aの長さをかけ合わせたものです。つまり、
これの、赤線の長さと青線の長さを掛け合わせたものということです。
ただ、ここで忘れてはいけないのが、「内積は負の値になることがある」ということです。
上の図のようにベクトルの影がもう1つのベクトルと同じ向きである場合は内積の値は正に、
下の図のように反対のときは内積の値は負になります。
そして、「→aと→bの内積」は、記号を用いると
→a・→b
と表します。
ちなみに、今は始点が一致する場合を考えていますが、以下の図からわかるように、始点をずらしても影の長さは変わらないため、内積の値もかわりません。
わかりやすくするために始点をずらしたり、反対に一致させたりという作業は入試問題でも行うことがありますので、「始点をずらしても内積には影響しない」ということを覚えておきましょう。
余弦定理を使った内積の表し方
さて、内積のイメージをつかめたところで、実際に内積の値を求めるにはどうすればいいか考えてみます。
【問題】
|→a|=5
|→b|=4
を満たす平面ベクトル→aと→bの内積を求めよ。
ただし、2つのベクトルが成す角は60度であるとする。
【解説】
問題文を図に書き起こしてみると、以下のようになります。
内積を求めるときは、→aの真上からライトを照らし、→bが→aに映し出す影を考えるのでした。
→aの大きさである5と、上の図の赤い直線の長さをかけ合わせた値が内積となります。
赤い直線の大きさは、余弦定理より
4×cos60° = 4× ½ = 2
です。
よって、求める内積の値は
5×2 = 10
となります。
これを一般化して考えてみましょう。
平面ベクトル→aと→bの内積は、2つのベクトルが成す角をαとおくと、
この公式が成り立つことがわかります。
先ほど「ベクトルの影がもう1つのベクトルと反対の向きである場合は内積の値は負になる」と言いましたが、
ベクトルの影がもう1つのベクトルと反対の向きである
⇔90°<α<270°
⇔cosα<0
より、|→a|, |→b|≧0と合わせて考えると
「ベクトルの影がもう1つのベクトルと反対の向きである場合は内積の値は負になる」ことがこの公式でも表されていることがわかります。
成分を使った内積の表し方
では、今度はベクトルが成分表示されていて、間の角の大きさはわからないときについて考えてみます。
【問題】→x(a, b), →y(c, d)の内積の値を求めなさい。
【解説】
これも図に起こしてから考えてみましょう。
文字だらけで混乱するかもしれませんが、やることは同じです。
→xの真上からライトを照らし、→yが→xに映し出す影を考えます。
先ほど導いた公式
→a・→b = |→a||→b|cosα
で考えると、
いま、→x, →yともに成分から|→x|, |→y|が求められるため、あとはcosAが求められれば内積が求められるわけです。
そして、上の図のように、→(0, 0)と→x, →yが成す角をそれぞれα, βとおくと、
求めたい角度のコサインの値は加法定理より、
cosA
=cos(β-α)
= cosαcosβ + sinαsinβ
で表せます。
よって、
cosα = a/√a²+b²
sinα = b/√a²+b²
cosβ = c/√c²+d²
sinβ = d/√c²+d²
を代入して、
cosA
= cosαcosβ + sinαsinβ
= a/√a²+b²×c/√c²+d² + b/√a²+b²×d/√c²+d²
= (ac+bd)/(√a²+b²)(√c²+d²)
とわかります。
よって、
|→x| = √a²+b²
|→y| = √c²+d²
と合わせて考えると、
→x・→y
= |→x||→y|cosA
= (√a²+b²)(√c²+d²) × (ac+bd)/(√a²+b²)(√c²+d²)
= ac+bd
このように、ベクトルの成分が分かる場合、間の角やらベクトルの長さやらを考えなくとも、成分どうしをかけ合わせれば内積を求めることができるのです。
【例題】
示された2つのベクトルの内積をそれぞれ求めよ。
①→(3, 5), →(-1, 2)
②→(0, 2), →(4, 3)
③→(4, -10), →(2, 1)
【解答】
①3×(-1)+5×2 = 7
②0×4+2×3 = 6
③4×2 + 1×(-10) = -2
内積=0は「垂直」ということ
さて、内積のイメージがだんだんついてきたかと思いますが、
2つのベクトルが
内積=0
をとるとき、2つのベクトルはどういった位置関係になるのか考えてみましょう。
影を考えるやり方と公式、どちらも考えてみましょう。
ちなみに、長さが0となるベクトル(→0)というものも存在しますが、今回は考えないこととします。
(1)影
でした。
今、長さが0になるベクトルは考えないので、→a・→b = 0となるためには
[→bが→aに作る影の長さ] = 0
となる必要があります。
では、→aと→bがどのような位置関係にあるとき、[→bが→aに作る影の長さ] = 0となるのでしょうか。
ベクトルを回して考えてみると…
これです。内積が0になるということは、→aと→bが垂直であるということなのです。
これはいろいろな問題で使うので、きちんと覚えておきましょう!
(2)公式
先ほど
→a・→b = |→a||→b|cosα(αは→a, →bがなす角の大きさ)
という公式を学びました。
いま、長さが0になるベクトルは扱っていないので、
→a・→b = |→a||→b|cosα = 0
はつまり、
cosα=0
ということですね。
つまりα=90°(もしくは270°)となり、この公式からも「内積が0になる⇔→aと→bが垂直である」ということがわかります。
内積の計算法則・公式
ここでは、内積の計算法則について説明し、問題を解く時に使える公式について説明します。
なぜこの法則が成り立つのか、自分で考えながら読み進めていってください。
内積は交換できる
まず、内積は交換できます。
→a・→b = |→a||→b|cosαの式にあてはめて考えれば当然の計算法則です。
内積は倍できる
内積は定数をかけることもできます。
これも、→a・→b = |→a||→b|cosαの式にあてはめて考えれば当然の計算法則です。
内積は分配できる
分配法則も適用できます。
これは公式より、成分計算で考えたほうがわかりやすいでしょう。
→a(p, q), →b(r, s), →c(t, u)とおきます。
→a・(→b+→c)
= {p(r+t), q(s+u)}
= (pr+pt, qs+qu)
= (pr, qs) + (pt, qu)
= →a・→b + →a・→c
ベクトルの2乗は長さの2乗
では、ベクトルを2乗するとどうなるのでしょうか。
これは図を使って考えてみます。
→aの2乗は→a・→a、つまり→aと→aの内積となります。
→aが→aに移す影の長さを考えると、
|→a|です。当たり前ですね。
よって、
→a・→a
=|→a||→a|
=|→a|²
となります。
ここまでやってきた内積の性質を、下にまとめておきます。
①→a・→b = ±|→a|×[→bが→aにつくる影の長さ]
※ベクトルの影がもう1つのベクトルと同じ向きである場合は内積の値は正に、反対の場合は内積の値は負になる
②→a・→b = |→a||→b|cosα
③→x(a, b), →y(c, d)の内積は、→x・→y = ac+bd
④→a・→b⇔→a⊥→b
⑤→a・→b =→b・→a
⑥k→a ・→b = k(→a・→b) = →a・k→b
⑦→a・(→b+→c) = →a ・→b+→a・→ c
⑧→a・→a = |→a|²
内積は3次元でも2次元とほとんど同じ
ここまで2次元、平面ベクトルについて考えてきましたが、3次元の場合は内積はどうなるのでしょうか。
まず、空間ベクトルであっても、始点を一致させれば2つのベクトルを平面上で考えることができます。図で表すと、
このような空間ベクトルでも、
平面で考えられるということです。
これを踏まえると、ここまで学んできた性質①〜⑧が3次元でも成立することがわかるのではないでしょうか。
ただ、③だけは空間ベクトルだと間の角のcosがそれほど簡単に求められるわけではないことを考えると、③だけは少し納得しにくいかもしれないので、説明を載せておきます。
→x(a, b, c), →y(d, e, f)の内積を考える。
まず、→p(1, 0, 0), →q(0, 1, 0), →r(0, 0, 1)をおく。これらの長さはすべて1であり、またどの2つも垂直に交わるため、
|→p| = |→q| = |→r| = 1…①
→p・→q =→q・→r = →r・→p = 0…②
が成立する。
→x
= (a, b, c)
= a(1, 0, 0) + b(0, 1, 0) + c(0, 0, 1)
= a→p + b→q + c→r
同様に、→y = d→p + e→q + f→r
よって、
→x・→y = (a→p + b→q + c→r)(d→p + e→q + f→r)
を、②に注意して展開すると、
→x・→y
= (a→p + b→q + c→r)(d→p + e→q + f→r)
= ad|→p|²+be|→q|²+cf|→r|²
= ad + be + cf(∵①)
よって示せた。
最後に
ここまで、内積とは何かをまず説明し、そのあと内積の性質を1つずつ説明してきました。
内積は、大学入試において頻出というよりも「使いこなせて当たり前」の単元です。穴がないように何度も確認し、問題演習を重ねていってください!