キョンシー(殭屍)とは、中国の死体妖怪の一種とされる。
硬直した死体であるにもかかわらず、いつまでも腐乱することもなく、動き回るという。
広東語読みは「キョンシー」、普通話読みは「チャンシー」。日本語の音読みで「きょうし」。
もともと中国では、人が死んで埋葬する前に室内に安置しておくと、夜になって突然動きだし、人を驚かすことがあると言い伝えがあったらしい。それがキョンシー・僵尸(殭屍)である
一方、ミイラのように乾燥した遺体の呼び名もあり、これは「乾屍(コンシー)」と呼び、妖怪としては下位分類あるいは別種として区別されている。
キョンシーとなると、死体のまま一切腐敗せず、凶暴な血に飢えた人食い妖怪となるそうだ。
もともとは出稼ぎ人の遺体を、道士が故郷へ搬送する手段として、呪術で歩かせたのが始まりという伝承があ
り、この方法を「趕屍(かんし)」という。
因みに映画や小説などに登場するキョンシーのイメージは、あくまでイメージ上ものであることを記しておく。
【キョンシーの出現条件】
・風水的に正しく埋葬されていない者が、人間にある三魂七魄のうち魂がなくなり魄だけになった者。
・恨みや嫉みによってこの世を去ったが、死後も魄・怨念を持ち続けている者。
・符呪師や道士の符呪や儀式により、故意に作り出された者。
【キョンシーの特徴】
・身体の特徴
死体であるため身体は硬く、ほとんどの関節は曲がらない。
埋葬時の死装束で現れる。
(民間人の正装は着用が禁じられていたが、死装束としては認められていたため、死後の世界での栄達を願って着せられていた。)
・足首のみを利用して跳ねるように移動し、バランスをとるために腕を前に伸ばしている。
・魄が宿っているため、死体の爪が伸びている。
・視覚はほぼない。
・基本的に死体であるため腐敗臭がする。
・日光にあたると火傷のような症状が現れたり崩れ、そのまま浴び続けると溶けたり燃えたりする。
・夜行性であり、満月の夜は特に狂暴となる。
・額に符が貼られていると、身動きが取れなくなる。
・自分の姿を映し出される鏡に弱く、近づけない。
・硬直は時間とともに治るので、そのうち2足で歩いたり走ったりすることができる。
【攻撃の特徴】
・生き血を求め、人間や動物の頸動脈を狙い咬み付く。
生きているものの首をねじ切り血を飲むともされている。
・目玉はついているが見えておらず、人間の吐く息を嗅覚で察知して襲う。
・毒素の入った爪で握ったり、刺して攻撃をする。
・空中を飛ぶ能力を持つと、飛殭(フェイキョン)、更に力を持つと屍尢となる。
・生死に関わらず、キョンシーに咬まれたり傷を負った者もキョンシーになる。
・硬直が解けた場合、そのキョンシーが生前に中国武術を得ているのならば、通常のように技を繰り出すことが可能となる。
【守備の特徴】
・死体であるのと同時に硬化しているため、銃剣はあまり効かない。特殊な武器は効く場合もある。
・冷気を口から出し、蒸気によって目くらましができる。
・倒れても滑るように移動する
・倒れても、体を伸ばしたまま真っ直ぐに立ち上がることができる。
【キョンシーへの対処法】
・一般の対処
・吐く息を嗅覚で察知するため、察知されないように息を止める。
・ゆで卵や蒸す前の生のもち米を噛まれた傷に当てることで毒を緩和できる。
・男児(童貞)の尿、黒い体毛の犬や雌鶏の血、生のもち米をかける。米の他に赤豆、鉄の場合も。
・血は黒犬や黒い鶏以外の物を使うと、血の味を覚えてかえって狂暴化する。
・噛まれたり傷を負った場合は、成長する牙や爪を削ることで凶暴性を抑えることが可能。
・噛まれて絶命した者の死体は火葬することでキョンシー化が防げる。
・修行を積んだ者(道士など)の対処
・桃の木で作った剣、清めた銭で作った剣によって物理的なダメージを与える事が可能。
・道術を使う。
・符やまじないを施した自分の血をキョンシーの額につけることで、動きを封じる。
・額に符が貼られたキョンシーを扱い、キョンシー同士で戦わせる。
など。土着信仰が生きており、呪術とあいまって出来上がった妖怪ともいえる。
死してキョンシーとなり、物理的な肉体を持ったまま、憎い恨みを持った相手の生き血を啜る怪物になるなど、いかにも中国らしい妖怪である。
また、自分に非がなくとも第3者の手により妖怪化させられるなど、死して後にも不条理にさらされる恐怖などが沁みついた民族的な発想に基づく信仰であるのかもしれない。
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