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【中高生のための国民の憲法講座】第19講  憲法9条 芦田修正が行われた理由 西修先生

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【中高生のための国民の憲法講座】第19講  憲法9条 芦田修正が行われた理由 西修先生

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 憲法9条の成立過程との関連で避けて通ることのできないのが、いわゆる芦田修正といわれているものです。

 ポイントは2点。1点目は1項冒頭に「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」の文言を、2点目は2項の最初に「前項の目的を達するため」をそれぞれ追加したことです。この芦田修正によって、現在の9条が完成しました。

 ◆挿入された語句

 解釈上、重要な点は2点目です。衆議院に提出された政府案の9条2項は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない」と定められていました。このような規定では、「陸海空軍その他の戦力」(以下で「戦力」と総称)は、どんな場合でも保持してはならないと解釈されます。「前項の目的を達するため」の語句が挿入されることで、戦力の不保持が限定的になります。すなわち1項で放棄しているのは、「国際紛争を解決する手段」としての戦争や武力行使であって、言い換えれば、侵略を目的とする戦争や武力行使です。そのような侵略行為を日本国は絶対にやらないことを規定しているのが、1項の眼目といえます。

 2項に「前項の目的を達するため」が加えられたということは、侵略行為をしないという目的のために戦力を保持しないこととなり、逆に言うと、自衛という目的のためであれば、戦力を保持することは可能であるという解釈が導き出されることになります。

 この修正案が持ち出され、成立したのが芦田均氏を委員長とする小委員会だったことから、芦田修正といわれているのです。芦田氏は、昭和32(1957)年12月5日、内閣に設けられた憲法調査会で、以下のように証言しています。

 ◆自衛の戦力保持可能

 「私は一つの含蓄をもってこの修正を提案したのであります。『前項の目的を達するため』を挿入することによって原案では無条件に戦力を保持しないとあったものが一定の条件の下に武力を持たないということになります。日本は無条件に武力を捨てるのではないということは明白であります。そうするとこの修正によって原案は本質的に影響されるのであって、したがって、この修正があっても第9条の内容には変化がないという議論は明らかに誤りであります」

 こうして、「自衛のためならば、戦力の保持を可能にするために」芦田修正が成立したのですが、歴代政府は、この芦田修正を考慮に入れた解釈をしてきていません。2項を全面的な戦力不保持と解しています。自衛隊を「戦力」といわず、「自衛力」と説明しているのはこのためです。いまや世界的に有数の実力を備えた自衛隊を「戦力」でないと言い続けるには限界があります。政府が芦田修正を踏まえた解釈をしてこなかったことが、自衛隊の憲法上の存在をあいまいなままにしてきている元凶といえます。

                   ◇

【プロフィル】西修

 にし・おさむ 早稲田大学大学院博士課程修了。政治学博士、法学博士。現在、駒沢大学名誉教授。専攻は憲法学、比較憲法学。産経新聞「国民の憲法」起草委員。著書に『図説日本国憲法の誕生』(河出書房新社)『現代世界の憲法動向』(成文堂)『憲法改正の論点』(文春新書、最新刊)など著書多数。73歳。

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