漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
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「ガルガンチュアを起動なさるのですか!」
ナザリック地下大墳墓。その謁見の間にて俺は皆と会議をしていた。議題は今から凡そ三日後に始まるアインズ・ウール・ゴウン伯爵とヤルダバオトの大戦についてである。
この大戦にはいくつか理由がある。まずプレイヤーの姿がなかなか見えないためにこちらが行動を取りづらいので、あえて表舞台に出るようにした事。これによって相手プレイヤーも表舞台に出る公算が高く、またこちらが伯爵と言う貴族位を手に入れたことで王国が緩衝材となり直接手を下せないという形を取りたかったからだ。それに今回の大戦を加えることで王国での発言権に加えて、他国にも一目置かれる存在──つまり目立つことが出来るのだ。目立つことで『こいつはモンスターだから攻撃して良い』という安易な行動を取らせる事無く、相手の情報も手に入れることが容易となるだろう。
それともう一つが、漆黒の英雄モモンを王国のみならず他国にも認知してもらうことである。そのために単に王国対聖王国ではなく、バレるリスクを負ってでもあえてアインズ・ウール・ゴウン伯爵対ヤルダバオトという形を取ったのである。
そういうわけで皆とヤルダバオト戦の事について話していたのだが、デミウルゴスの悲鳴交じりの叫びにそれが止められることとなった。
流石に敵役としてガルガンチュアクラスを相手取るのは相当苦労するのは分かっては居るものの、デミウルゴスもヤルダバオトとして聖王国で何やら実験をしているらしいことくらいは理解しているつもりだ。そしてナザリックメンバーを活躍させたがっていることも、だ。
「そうだ、デミウルゴス。これは決定事項である」
「ですが──いや、なるほど。そちらの方で行かれるわけですか──」
他国の重鎮共が見に来るのである。折角だから派手にやりたいという単なる我が儘でしかなかったのだが、お得意の──いや、いつも通り深読みしてくれたようだ。
「お前の事だ。私の超位魔法《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への贄》への対策は既に済んでいるのだろう。しかも個人では分かりづらい大多数戦ではなく、精鋭による少数戦を選んでいる筈だ」
「おっしゃる通りでございます、アインズ様。あくまで大多数戦は前座に過ぎません」
数よりも個を重視するのはウルベルトさんも同じだ。『数だけ揃えた烏合の衆よりも徹底的に鍛えた少数の精鋭の方が強い』とは彼の弁である。だからこそデミウルゴスも少数精鋭で来ると思ったのだ。だとするならば最低でも仔山羊を倒せるクラスの者を何体か揃えてきている筈。ならばガルガンチュアをぶつけても一方的にはならないと──
「アインズ様、今回の鍵は──アウラでございますね?」
「えっ──?」
「申し訳ありません、アインズ様。その命令はきけませーん!」
そう突然言ったのは、隣に座っているアウラだった。いや、突然ではない。今まさにヤルダバオトらと相対しているアインズ・ウール・ゴウン伯爵の招集に対する答えなのだ。
それがどれほどのものなのかは、今まで余興という形をとって見せてもらった戦闘──いや、蹂躙劇を思い返せばわかるというものである。
一気に帝国のテーブルに緊張が走ったのが分かった。この少女の一言で伯爵の気分が害したとしたら。我々の命運は結界の周囲を嵐の如く吹き荒ぶ、力の本流に吹き飛ばされる木の葉の如き最後を辿ることとなるだろう。間違いなく、だ。
「ほう──アウラよ。貴様──我が命に背くというのか──ダークエルフ如きが」
ヤルダバオトと言う大悪を目の前にしているからか流石にこちらを向くことは無いが、明らかに伯爵の声に怒気が混じっている。明らかな殺気がアウラだけに留まらず我々帝国の皆が座るテーブルにまで撒き散らされている。
「い、行った方が良いのではないか、アウラ」
「小心者だなージルは。アタシがあっちいっちゃったら、ここの結界消えるけど?」
いま、彼女がなぜこんなところに座っているのか。その理由が明らかとなった瞬間だった。彼女は我々を守るために、結界を張るためにここに居たのだ。アインズ・ウール・ゴウン伯爵がここに結界を張っているとばかり思って居たが、まさかアウラだったとは夢にも思わなかった。だとするならば、彼女がここからいなくなるという事は結界の維持が出来なくなるという事。そうすれば、今まさに結界の外で吹き荒れる力の嵐に曝されることとなるわけだ。
「で、出来うる限り居てほしいね」
「ふふ、だよねー。そういうわけで、いけませーん!」
だから煽るな!と思わず叫びそうになってしまった。なぜこの子はアインズ・ウール・ゴウン伯爵をこれほどまでに煽るのか。何か秘策でもあるというのか。
「貴様──このアインズ・ウール・ゴウンの命令が聞けないということか」
「聞けるわけないじゃん。アインズ様は最初に『ここに居る者たちを守れ』って命令したでしょ。それと相反する命令をしたかったらさ、言えばいいじゃん」
──茶番は終わりだ。人間など死んでも知った事ではない。って。
透き通るような声で、彼女は叫んだ。間違いなく、この観覧席の端から端まで通ったはずだ。とんでもない叫びが。
つまり、彼女を──アウラを無理にでも招集するという事は、ここに居る人間全員を見捨てろと言って居るのと同じだ。そう彼女は言ったのだ。彼女は、伯爵に選択を迫ったわけだ。余興などと言って集めた我らを殺したとなれば、もれなく世界の敵<ワールド・エネミー>認定され世界大戦は逃れることはできないだろう。しかしこれほどの結界を維持するアウラを欠いてあのヤルダバオトに勝てるのか。
だが伯爵という地位を手に入れた──手に入れてしまったアインズ・ウール・ゴウン伯爵に選択肢は一つしかない。
「ク──クハハハハ!そうか!ならばそこで守っているがいい!貴様など居らずとも、倒して見せるわ!!」
「いよっ!それでこそアインズ・ウール・ゴウン伯爵様!」
折れさせた。王の発言を撤回させたのだ、彼女は。皆等しく首を垂れる他無い存在に。それがどれほどの偉業なのかは周囲の視線を見れば分かる。今の今までただのダークエルフの小娘としてしか見られなかったというのに、既に各国の首脳陣は一目置き始めたのだ。
彼女を味方に付ければ、伯爵への足かせに出来るかもしれない、などと考えているのだろう。しかし彼女の丸く大きい瞳に映っているのは──
「いやー良かったねージル。命拾いしちゃったねー」
「全くだ。ほんの数分だが生きた心地がしなかったぞ」
──不思議と、私だけのようだ。
「強いな、あれは。間違いなく」
視線の先にあるのは、まるで天を突かんとばかりに巨大な存在である。確か名はガルガンチュアと言ったか。あれほどの大きさがあるならば最強と謳われる白金の竜王<プラチナム・ドラゴンロード>ですら大人と子供位の大格差になるだろう。
「ですね、陛下。あれを貸していただけるのでは、我が国の現状を打破するのは容易いかと」
隣に座るセレブライトは驚くという感覚が欠如しているかのように、いつものような感覚であれを同じく見上げていた。
奴の妻シャルティア・ブラッドフォールン。漆黒の英雄と何か関係があるらしい女。戦闘能力が高いという話の執事に、氷を背負った二足歩行の巨大な虫。そして、先ほどの問題発言をぶちかましやがったアウラとかいうダークエルフによく似た──恐らく姉妹だろう娘。それぞれが間違いなく一線級の力を持つことくらいは分かるのは分かるのだが──
「存在感ありすぎだろ、あれ」
「あれほどのクラスのゴーレムはどの文献でも聞いたことがありませんね。維持費が凄まじそうですが、費用対効果は推して知るべきでしょうね」
視線をスイーツに戻し、ゆるりと口に運ぶ。うまい。毎日食べたい。もう何もかも放り投げてアインズ・ウール・ゴウン伯爵の配下になったら食べられるかもしれないという考えがちらりと頭をよぎる。だが、それが出来るならばとうの昔に私はあの国を出ているだろう。出来ない。出来るわけが無い。
「伯爵様に抱かれてみませんか?彼の奥方の姿を見るに、案外その形態に食指が動くやもしれませんよ」
「形態いうな。それに骨に抱かれる趣味はない。と、言いたいところだがな。せめて手足を捥ぐだけで済めばいいが」
伯爵が妻としているのは吸血鬼<ヴァンパイア>だ。しかも王国で冒険者をしているらしい小娘よりもさらに上位。間違いなくほぼ不死と言っていいだろう存在を妻としているのである。真っ最中に手足を捥ぐ位しても何らおかしくはない。いや、その程度で済めば良いが全身に蛆を沸かせたりなど特殊なことをしている可能性もある。
「せめて問題が解決するまでこの身体が持つならやる価値はあるかもしれんがなぁ」
「やっていただかないと本当の意味で陛下だけの国になってしまいますよ」
相変わらずうちの国民をスナック菓子感覚で喰らってやがるあいつらの事が頭を過ぎる。現状は最悪。だが、まだ終わってはいない。負けてはいない。だから止められない。死ぬと分かっている死地に送り続けなければならない苦行が終わらせることが出来る可能性がある。そう分かっていて動かないのは、もはや愚かとしか言いようがないのだが。
「あ、ほら漆黒の英雄とかいう奴がいただろ。あれに要請するのはどうだ。どうやら浮名を流しているらしいし、本来の姿なら案外いけるんじゃないかって思うんだが」
「確かにあそこに居るヤルダバオトを撤退させたほどの実力者であることは間──」
──仕方ないな。切り札を使わせてもらおうか。
おっと、無駄に雑談しているとどうやら伯爵たちに動きがあったようだ。
こうやって日和見出来るのも、この凄まじい結界を維持してくれているあのアウラとかいうダークエルフのお陰である。帝国のイケメン君に感謝である。なにしろ見つめ合って居る関係だ。あれは間違いなく──
「下世話ですよ、陛下」
「たまにはいいだろう。産めよ増やせよ地に満ちよ、と神も言っていただろう」
奴が私の事を『若作りばばあ』と言ってくれたことは何千年経ったとしても忘れはしない屈辱である。私が幼い姿をしているのは別にしたいからではなく、隣に座る阿呆の口車に乗せられて無理やりやらされているのだ。私は本来の姿で居たいというのに。
まぁそれはさておき、この事に付いてだけは感謝しても良いだろう。そのダークエルフの小娘と上手くいくことを祈ってやらないこともない。
「おや、まだ始まっても居ないというのにもう切り札を使うのですか」
「フ──もともと使うつもりだったものが、早くなったに過ぎん。──来い、モモン!!」
おや。と8品目のスイーツ──ホワイトモンブランから視線を戦場に戻した。先ほど話題に挙がった名前が聞こえた気がしたからだ。
伯爵の配下たちが現れた時と同じく、伯爵の後方に黒い空間の裂け目が出来てそこから全身黒尽くめの鎧の男が現れた。
関節部分が尖っており非常に攻撃的な鎧である。しかも黒い鎧に赤い意匠の籠ったラインが幾つも引かれており、非常に不気味な雰囲気を持って居る。あれでは英雄というよりも、まるで──
『オオォォォォォ───』
「うげ──」
思わず少女らしからぬ声を上げてしまった。しかし仕方ない。仕方ないのだ。その不気味な鎧から聞こえてきたのはまるで怨嗟の念が籠っているかの如き、低い声というよりも響きだったのだから。
「あ、あああれ──絶対呪われてるだろ──かんっぜんにヤバいやつだろ!?」
「おかしいですね、私が得た情報によれば──多少コミュニケーション能力に欠けるのものの、英雄然とした好青年のはずなのですが」
「あれのどこが英雄然とした好青年だよ。あれ絶対どこかの墓から引っ張り出してきた曰く付きの奴だろ!」
叫ぶわけにもいかず、小声でセレブライトと会話する他ない。周囲も同じ様に小声で話しているようだ。特に王国の方の声は大きい。『何かの間違いだ』等と言って居るようだ。
まるで怨念が籠ったような暗いオーラを漂わせ、抜く剣はまるで見る者の魂を吸い取るが如く黒い炎を纏って居る。
「モモンガさま!?しっかりしてください、モモンガさま!!」
確かアルベドとかいった黒い翼を生やした娘がモモンなる者に縋り付いている。やはり相当熱いのか、遠目でも彼女があれに触れた部分が焼けただれているのが見えた。
「ふむ、少々強化し過ぎたかもしれんな。しかし問題ないだろう。モモンよ、ヤルダバオトを殺せ」
「Jaaaaalllllll──dddddddaaaaaa──baooooooooooooth!!!!!!」
ビリビリと空間が、結界が震えた。あれの──モモンの叫びで。怨嗟の如き叫びで。
その衝撃で吹き飛ばされたアルベドとかいう娘は地に伏し、大声で泣いているようだ。
伯爵は──アインズ・ウール・ゴウン伯爵は、ヤルダバオトを殺すために。ただそのためだけに漆黒の英雄を呼ばれた男を作り変えたという事なのか。
確かにその力は凄まじいの一言である。まるで子供のように無計画に無遠慮に隙だらけのままにヤルダバオトに突進し、まるで棍棒を振るうかの如く剣を振るうという稚拙極まりない動きだというのに簡単に奴を吹き飛ばしてしまったのだから。防御どころか反応すら間に合わないほどの速度の一撃である。滅茶苦茶にもほどがある。
「ガルガンチュアは雑魚どもを皆殺しにしろ。シャルティア、マーレ、セバス、コキュートス、アルベドは七罪の奴らと戦え。私はもう一度超位魔法を放つ!」
暴走モモンをお送りしました。流石にこれは予測できなかったことでしょう。色々と大事なシーンでもあります。上手く表現できているかは微妙なところですが。
感想にも書かれていましたが作中通り、デミウルゴスはガルガンチュアが来ることなどは全て(深読み込みで)織り込み済みです。
そういえば初の時間のずれた場面展開でしたが理解できましたでしょうか。
何度『──三日前──』とか『──当日──』とか書こうか悩みましたが文章に盛り込みました。分かりづらかったら申し訳ないです。
さぁここから色々と戦闘表現が難しくなってきます。
書けるかなぁと戦々恐々としております。でも書けないと9,10章で詰むんですよね。がんばらねば。
お題目は活動報告ページにてまだまだ募集しております。
一人は既に決まっておりますが、もう一人はまだですよ。
当選確率は皆一緒です。早く書いても遅く書いても関係ありません。
お一人様一票ですので、まだ投稿されてない方は投稿してみると良いですよ。
案外当たるかもしれませんので!