【芸能・社会】「昇り竜のお銀」76歳で死去 江波杏子さん、数日前まで収録2018年11月3日 紙面から
りんとしたたたずまいが印象的で、映画やテレビ、舞台まで幅広く活躍した女優の江波杏子(えなみ・きょうこ、本名野平香純=のひら・かすみ)さんが10月27日午後9時6分、肺気腫の急性増悪のため東京都内の病院で死去した。76歳。東京都出身。葬儀、告別式は近親者で執り行った。 所属事務所によると、肺気腫を長年患っていたが、日常生活には支障がなく、死去の数日前までラジオドラマの収録を行っていたという。 1959年、高校在学中に13期ニューフェースとして大映に入社。17歳以上という条件だったため16歳と偽り、しかも母が東宝の女優・江波和子だということも隠していた。5歳の時に亡くなった母への憧れが志した理由で、芸名も母と同じ「江波」を名乗った。 60年、映画「明日から大人だ」でデビュー。初主演作の映画「女の賭場」が大ヒットし、66年から「女賭博師」シリーズが人気を集めた。73年の「津軽じょんがら節」では、訳あって東京から故郷に帰ってきたヒロインを好演し、キネマ旬報主演女優賞を受賞した。 他の主な出演作に映画「おとうと」「日本の黒幕」「悲しい色やねん」など。今年も映画「娼年」では主演の松坂桃李(30)を相手にラブシーンを演じ、評判となった。テレビでも貴重なバイプレーヤーとして重宝され、NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」から「ザ・ガードマン」「Gメン75」などアクションものまで幅広く出演、今年もテレビドラマ「限界団地」に出演した。 ▽阪本順治監督「映画を2本ご一緒していて思い出すのは、僕より年上の方ですけど、現場の(撮影の)合間にお互いの恋愛観を話したことです。役に対してはすごくなまめかしくて、りんとされて、度胸のある方でした。急に(訃報を)聞いたので、今は断片しか答えられません」 ◆悼む やっと見いだした「はまり役」日本人ばなれしたエキゾチックな顔立ちもあって、大映の青春ドラマやメロドラマのヒロインには使いづらかったという江波さん。 デビューから5年で与えられた役は悪女や愛人というものが多かったが、枠からはみ出た個性が逆にここで輝いた。1966年、デビューから7年目、出演58作目でつかんだ初の主役が「女の賭場」。これは主役に予定されていた若尾文子が入浴中に転倒したため、巡ってきたチャンス。神さまも江波さんの魅力に勝てなかったのだろう。 女賭博師を和服姿で演じた江波さんの、西欧のようなクールさを漂わせながら純日本的なエロチシズムが、世の男性をとりこにした。映画は大ヒットし、「女賭博師シリーズ」として大映を支えるドル箱に。68年には年間に7本で主演し、71年の「新女賭博師・壺ぐれ肌」まで17本が公開された。 世は70年安保を迎え、学生運動で騒然としていた時代。江波さんの「昇り竜のお銀」は、東映で藤純子が演じた「緋牡丹のお竜」とともに、ゲバルト学生ばかりか、すべての若者たちの胸を熱くした。 (中林康彦)
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