もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】 作:善太夫
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“深紅と漆黒”と“蒼の薔薇”はリ・エスティーゼ王国の外れに来ていた。
「モモンさん、“蒼の薔薇”も連れてくることは無かったんではないでありんせんですか?」
「うむ。まあ、そうだな。ただ、盟主とはいえ相手は蒼の薔薇のリーダーだしな。彼女たちを同行させた方が良いだろう」
モモンの言葉にシャルは首を傾げる。そしてニッコリと微笑んだ。
「……そうでありんすか。私はあの者らを同行させずにラキュースをさっさと殺してから復活させる方が簡単かと思いんしたが……モモンさんは敢えてあの者らを立ち会わせて伝説を目撃させることを重視されたのでありんすな。さすがは至高の御方でありんす」
(──あっ……そうか。しまった。蒼の薔薇を同行させるんじゃなかったか……)
「……うむ。まあ、そんなところだ」
モモンは咳払いをして“蒼の薔薇”に振り向く。“深紅と漆黒”の内輪での打ち合わせとして離れていたガガーランたちが顔を上げた。
「……確実な情報によればこの近くにある廃虚となった寺院にラキュースさんがいるらしいですね。この先の手順について確認しておきませんか?」
「……ここまで迷惑をかけたが、ラキュースの件は我々で解決すべきだな。モモン殿とシャル殿には改めてお礼をするとしよう」
イビルアイの冷ややかな口調にシャルが口を挟む。
「そうでありんすか? 確かに私では力の加減ができずに殺しかねないでありんしょうから」
仮面の裏でイビルアイの表情が一変する。
「──ガッハッハッハ。そいつは困る。リーダーが死んじまったらリーダーに蘇生してもらえなくなっちまうしな」
ガガーランがイビルアイの背中を容赦なく叩く。ほどけた空気の中でモモンが声をかける。
「では、皆さん行きましょう。ラキュースさん以外の敵は引き受けます」
一行は寺院の中に入っていった。
◆
寺院の中は暗く、すかさずイビルアイが魔法で灯りを照らす。
「よく来た。我が邪悪なる神のもとへ。今こそ我が封印は解かれ、邪悪なる魔剣キリネイラムの真の力は解放された。今、ここで立ち去るならば良し。かつてのよしみで命は助けてやろう。さもなくば邪悪なる神の怒りに晒されん!」
「……だとよ? どうする?」
「……ボス。とうとう暗黒の精神によって生まれた闇のボスの登場……ヤバイ」
「──問答無用! 〈
イビルアイがすぐさま攻撃魔法を唱える。ラキュースは
「──流水加速──爆砕!」
ガガーランがラキュースの目前に飛び込み必殺の一撃を加える。ラキュースはかろうじてかわし、ガガーランの脇をすり抜ける。途端に爆発。
「──〈爆炎陣〉ボス。ごめん」
ティナとティアの連携攻撃。
「──チッ! 超技! 必殺撃滅!
かろうじてティアとティナの〈不動金剛盾の術〉が防ぐ。すかさず〈不動金縛りの術〉をかけるがラキュースの白銀の鎧
「うぉりゃー! 〈超級連続攻撃!〉」
ガガーランの必殺武技はラキュースの
熾烈な攻防は一進一退を繰り返し、終わりを見せない。人数では優位なガガーランたちではあるが、殺さずに制圧するのはなかなか難しい。一方でラキュースはお構いなしの全力攻撃である。
「…………ふぅ。全く見ていられんせんでありんすな……」
シャルはスキルで清浄投擲槍を作り、放つ。それは祭壇に置かれた死の宝珠を微塵に砕く。
「「!!!!」」
その瞬間に糸の切れた操り人形のように崩れ落ちるラキュース。
「……約束通りにラキュースには一切刃を向けなんしんす。あのマジックアイテムごときの精神支配を受けるなど、私なら恥ずかしくて生きていられんでありんすが……」
リーダーを取り戻した“蒼の薔薇”は互いに肩を抱き合いながら感慨に耽るのだった。と、そのとき──
「──おのれ! 魔剣に心を奪われし堕落した
突然、寺院に白いサーコートの女聖騎士が飛び込んできた。
◆
「──なんだと! それは本当か?」
ローブル聖王国の聖騎士団団長のレメディオス・カストディオは思わず叫んだ。
リ・エスティーゼ王国のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のラキュースが闇に堕ちたという噂は彼女にとって許しがたいものであった。
「──いやいや、あくまでも噂です」という副官の言葉はもはや届かない。
「よし! 私が行ってガツンと目を覚まさせてやろう!」
ケラルトは慌てる。姉は一度言い出したらなかなか引かない性格だ。更に唯一彼女を諭すことができる存在は南方の貴族たちとの会合のため、不在だった。
ケラルトにとっては、姉になんとか副官にイサンドロとグスターボの二人を同行させることを認めさせるのがやっとだった。
かくて、レメディオスは聖剣サファルリシアを携え意気揚々とローブル聖王国を後にしたのであった。
◆
「大変お世話になりました。どうやらあなた方のおかげで自分を取り戻せました」
ラキュースはシャルとモモンに深々と頭を下げる。
「私は大したことはしておりんせん。それより魔剣とやらに飲み込まれたのでなくて良かったでありんすな」
シャルの言葉にラキュースの顔が真っ赤になる。
「……いや、そ、それは……あくまでも設定──」
「──ガハハハ。まあ、良かった。良かった」
ガガーランがラキュースの肩をバンバン叩く。
「…………ところで……あれは?」
ラキュースは寺院の片隅の剣を振り上げたまま固まっている聖騎士主従を指差す。
「……なんでもない。なんでもない。ボスには関係ない」
ティアに追い立てられるように一同は寺院を出ていった。