もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap20 魔剣キリネイラムと死の宝珠

 ラキュースはイビルアイならざる存在に斬りかかる。と、ティアとティナがその剣を弾く。

 

「……ティア? ティナ? まさか貴女たちまでも?」

 

 ラキュースは茫然とする。ティアとティナの瞳もイビルアイ同様に赤く妖しく光っていた。

 

 更にラキュースは後ろから羽交い締めにされる。ガガーランだ。やはり同じように瞳が赤い。

 

「……クッ! ……ガガーランまで……そ、そんな」

 

 ラキュースは絶望する。ラキュース以外の“蒼の薔薇”が敵になってしまった。ラキュースは覚悟を決める。こうなってしまっては全力で抗うしかない。

 

 ──みんな、ごめんなさい。

 

 ラキュースは手にした魔剣キリネイラムに魔力を注ぐ。頭の奥で何者かの声がする。

 

 ──そうだ。力が欲しいか? ならばお前に力をくれてやろう?

 

「──うわぁぁぁ!」

 

 ラキュースは咆哮する。

 

 

 

 

 

 

「いったい……これはなんでありんすか? 仲間割れ……というわけではなさそうでありんすが……」

 

  “蒼の薔薇”の前に深紅のフルアーマーの戦乙女(シャル)が姿を現した。

 

「あ、あんた……良かった。手を貸してくれ。リーダーが突然おかしくなっちまってな」

 

「……ボスがとうとう魔剣の闇黒面に呑まれたらしい」

 

 ラキュースを羽交い締めしているガガーランが叫ぶ。ラキュースの手には黒いいびつな形のオーブがあった。

 

 アインズは理解する。あれは以前カジットが持っていた『死の宝珠』だろう。ラキュースは精神操作をされているようだった。

 

 と、ラキュースが持つ魔剣キリネイラムの魔力が膨れ上がり、爆発する。

 

「──!!」

 

 皆が我に返ったときにはラキュースの姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。とりあえず状況はわかりました。おそらくラキュースさんは『死の宝珠』による精神支配を受けてしまったのだと思います。……ところで闇黒面に呑まれたというのはどういったことでしょうか?」

 

 “漆黒”のモモンへはガガーランが答える。

 

「……いや、詳しくは知らないんだが、以前にリーダーが魔剣キリネイラムの闇黒の力に抗っているとか聞いたことがあってな。まあ、当人は大丈夫だと笑っていたから大して気にしていなかったんだがよ?」

 

「……魔剣キリネイラムでありんすか。そういえばかつての持主は十三英雄とやらの闇黒騎士とかいいんしたな?」

 

 シャルの言葉にガガーランが頷く。

 

「そうだ。十三英雄の話ならイビルアイが……おい? イビルアイ?」

 

 イビルアイは呆けたように立ちすくんでいた。ラキュースがいなくなれば彼女が仕切り出そうなものだが、ただ、立ちすくんでいる。

 

「……イビルアイとやらも精神支配を受けたでありんすか?」

 

「いや、たまにこうなるんだ。まあ、口ほどタフではないみたいでね。一種の現実逃避とかいうやつだろ?」

 

「……イビルアイは使えない奴。ラキュースの代わりは無理」

 

 同じ“蒼の薔薇”(なかま)だというのに容赦がない。

 

(『死の宝珠』に『魔剣キリネイラム』か……なんか嫌な組み合わせだな。まずはラキュースの行方を捜すしかなさそうだな)

 

 アインズは“蒼の薔薇”に向き直る。

 

「これから我々は引き続き『死の宝珠』の行方を捜すつもりです。互いに情報を交換しながら個別に動くのが良いと思いますが、どうでしょう?」

 

 “蒼の薔薇”を代表してガガーランが承諾する。

 

 “深紅と漆黒”は現れたときと同様に、風のように去っていった。

 

「……さて、イビルアイ? そろそろ大丈夫か?」

 

「……あ、ああ。大丈夫だ。ちょっと昔のことを思い出してな……いや、なんでもない。関係ないことだ」

 

 イビルアイは仮面に隠れた顔を蒼白にしたまま答える。

 

(──『死の螺旋』のときに感じた魔力の源……『死の宝珠』とはいったい……まさか?)

 

 

 

 

 

 

「魔剣キリネイラムにそんなことは無い……じゃが、以前の持主の黒騎士は悪魔と人間のハーフと言われておるが……うーむ。……それと『死の宝珠』か……」

 

 リグリットは何やら考え込む。

 

「……もしや……ズーラーノーンの盟主の実体はその『死の宝珠』やもしれん」

 

「……あの、ちっぽけなオーブが、でありんすか?」

 

 シャルが疑問を口にする。墓場から戻った“深紅と漆黒”はエ・ランテルの聖ナザリック教会でリグリットと会っていた。

 

「……以前にブレインを潜入させたじゃろ? でも結局盟主の情報は入手できなかった。それも人の形をとらない存在ならば合点がいくわい」

 

 リグリットは目を瞑る。

 

 リグリットは「あくまでも推測の域を出ないが」と前置きして語りだした。彼女によれば『死の螺旋』と呼ばれる儀式魔法は過去に二度行われたという。一度目はかれこれ二百年以上前、そして二度目は二十年ほど前だという。二度目の、ズーラーノーンが廃虚で行った儀式では小さな町が一つ犠牲となったという。

 

(うーん。スレイン法国で聞いた真の竜王が使う『始原の魔法』に匹敵するレベルか……ユグドラシルでの超位魔法といったところだな。この世界でも警戒は必要ということか)

 

「その二十年前の『死の螺旋』を行ったのがズーラーノーンの盟主とされておるんじゃが、それ以降盟主が明らかに別人のように性格が変わったらしい。かやつも勘違いしていたようじゃが、そもそも『死の螺旋』の本来の目的とは──」

 

 突然アインズにメッセージが入る。

 

〈アルベドか? どうした?〉

 

〈アインズ様。姉さん、ニグレドから死の宝珠、蒼の薔薇のラキュースの所在が判明したとの報告がありました〉

 








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