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この1年は「ブロッキング以外の総合対策」の真価が問われる

 今後、ブロッキング法制化の議論がどう進むにせよ、この1~2年はブロッキングの法制度が存在しないことを前提に、海賊版サイトによる被害の拡大を食い止める必要がある事実は動かない。

 先に述べたように、法制化推進の流れは途絶えたわけではない。「すみやかに法制度の整備に向けて検討を行う」という2018年4月13日の政府決定は未だ有効で、決定を取り消す機運もない。知財事務局や文化庁が4月の政府決定を理由にブロッキング法案の作成を進める可能性はある。2019年通常国会での提出にこだわらず、その先も見据えた作業になりそうだ。

 ただ、仮に閣法としてブロッキング法案が作成・提出されたとしても、憲法が絡む問題であるだけに、議論が長引くのは必至だ。立法できたとしても、裁判所の判断を仰ぎ、ブロッキングを実施するまでには相応の時間を要する。

 幸いなことに現在、漫画村ほどにアクセス数を伸ばした海賊版サイトは現れていない。だが、第2の漫画村になり得る海賊版サイトはいくつか存在し、成長を続けている。

 法執行も広告抑制も効かない「最強の海賊版サイト」が1年以内に登場し、漫画村を超えるスピードで浸透し、漫画家の収入が途絶え、廃業が相次ぐ――これが最悪のシナリオだろう。その前に政府が再度「緊急避難ブロッキング」を発動する可能性もあるが、こうした未来は権利者もユーザーも望んでいない。

 まずはブロッキング以外の総合対策を着実に実行し、コンテンツ権利者、通信事業者、警察、弁護士、ネットユーザーが総力を挙げて海賊版サイトの抑制に挑む必要がある。

 権利者は海外での訴訟を含め、使える手は惜しまないことだ。通信事業者は、スマートフォンの普及で長く低迷していたフィルタリング実施率の向上させるため、具体的な策を講じることが求められる。

 民間企業同士で協力体制を構築するに当たり、権利者側に「ブロッキング法制化に反対しないと協力できない」などと条件をつけるのは望ましくない。この総力戦に勝たない限り、国内コンテンツ産業の発展も、健全なインターネット社会の構築も望めない。

 奮闘が求められるのは民間企業だけではない。特に警察は現時点で、サイバー犯罪の捜査力を海賊版サイト対策に十分生かしているとは言いにくい。

 今回の漫画村の事案は、いくつかの県警が独自に捜査に動いた他、福岡県警を中心に複数の県警が合同捜査を実施していた。2017年末には逮捕間近との情報も流れた。

 にもかかわらず2018年2月、警察による捜査の動きが突然止まったという。捜査を再開したのは半年後の2018年8月だった。

 仮に、政府内でブロッキングの検討が始まったことを理由に捜査を一時中断したとすれば、政府が4月13日の決定でブロッキング容認の根拠とした緊急避難の要件(「他に取るべき方法がなかった」)に重大な疑義が生じる。捜査を続けていれば運営者の検挙につながった可能性があるからだ。

 海外に拠点を置く海賊版サイトを相手にするのに、各県警がバラバラに動いていては、検挙できる事件も検挙できなくなる。警察庁に海賊版対策の司令塔を置き、海外の捜査機関と連携しつつ、各都道府県警のサイバー捜査力を集約して事に当たる必要がある。

 今後1~2年、官民が連携して総力戦を乗り切る。その後であれば、権利者と通信事業者が「戦友」として、ブロッキングの是非やインターネット社会の未来について建設的な議論ができるのではないか、と期待している。