もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】 作:善太夫
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リ・エスティーゼ王国ヴァランシア宮殿の王女ラナーの私室──
「では、頼みましたよ。くれぐれも気をつけて」
アダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”のリーダー、ラキュースは頷く。
「わかりました。では、その秘密結社ズーラーノーンの盟主とかいう人物についての情報を集めれば良いのですね」
「……ズーラーノーンか……確かスレイン法国の出身者が多いらしいな。死を司るいわゆる邪教徒の集団だと聞いたことがあるな」
ラナーのもとを辞した“蒼の薔薇”は宿屋で作戦を練る。それでまずはズーラーノーンが関与したと噂されるエ・ランテル墓地での騒動について調べることになった。
エ・ランテル冒険者組合の正式発表では事件そのものがなかったとされているが、確かな筋からの情報ではズーラーノーン幹部による大規模アンデッド召喚の儀式魔法が行われたという。そして、エ・ランテルの冒険者チーム“深紅と漆黒”によりスケリトルドラゴン二体、主謀者二名が倒されたらしい。
「その儀式魔法はどうやら『死の螺旋』というものらしい」
ティナが報告する。
「……いや……まさか、な……」
イビルアイの声が震えていたようだが、仮面に隠れてその表情は見えない。一同はエ・ランテルへ向かう。
◆
エ・ランテルに到着した“蒼の薔薇”はまず、冒険者組合を訪ねた。あいにく“深紅と漆黒”は任務のためしばらくエ・ランテルを離れているという。
「……せっかくの高名なアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”の皆さんが訪ねてくださったのに申し訳ありません」
奥から出てきた男は組合長のアインザックと名乗った。イビルアイがまず口を開く。
「……単刀直入に聞く。エ・ランテルの墓地での騒動について知りたい」
にこやかだったアインザックの表情が一変する。彼は顔の汗を拭きながらそんなことは知らないととぼける。
「……イビルアイ。貴女はいきなり過ぎるのよ? ここは私に任せなさい。……組合長、私たちはラナー王女の命を受けて来ました。できる範囲での協力をお願いします。先日、“深紅と漆黒”が倒したスケリトルドラゴンについてなら教えてくださるかしら?」
アインザックは少し葛藤していたが、話し出す。彼の話から大体の事件のあらましを知った一行は次に現場の墓地に向かった。
◆
「……うひょー……なんか気味悪いな?」
ガガーランが大きな体を縮こませる。どうやらこういう場所が苦手のようだった。
「……なんだガガーラン。お前にも苦手なものがあったとはな」
「──しっ。黙って」
イビルアイの軽口をラキュースが制止する。思わずティアとティナは顔を見合わす。
ラキュースの額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「……ボス? 特に敵の反応は無いけどどうかしたのか?」
ティアの問いかけにラキュースは力なく首を振る。
「……別に……たぶん大丈夫よ。なんだか悪い予感がしただけだわ。先に進みましょう」
イビルアイは『死の螺旋』という言葉を噛み締めていた。彼女にとっては忘れることができない言葉だった。
◆
アインズがガジットを復活させなかったのは彼が既にアンデッドだったためである。アンデッドをアンデッドとして復活させるのにはより上位の復活魔法が必要になるからだ。
「……うむ。わしはいったい……」
復活したガジットはゆっくりと辺りを見回す。
「……さて、早速だがお前にいろいろと聞きたい。まずはエ・ランテルの墓地での魔術儀式についてだ」
ガジットは目の前の
◆
「……思ったほど情報はなかったな」
アインズは落胆する。ズーラーノーンの幹部であったガジットからの情報はクレマンティーヌからのものと大差無かった。しかし、ガジットは妙なことを言っていた。
彼は自らをアンデッドにするための儀式『死の螺旋』を行うために盟主から死の宝珠を預かったそうだが、その時点ではアンデッドではなかったという。
しかも、死の宝珠を手にしてからの記憶が曖昧だとも言っていた。アインズはふと、現場で投げ棄てたアイテムを思い出した。死の宝珠とはあれに違いない。となるとまた、現場に行かなくてはなるまい。死の宝珠がそのままあるかはわからないが……
「…………死の宝珠、か……気になるな。そのアイテム……」
アインズはシャルティアと共に“深紅と漆黒”として再びエ・ランテルの墓地へ行くことにする。
◆
エ・ランテルの墓地を捜索する“蒼の薔薇”のメンバー。皆、言葉少なく緊張した様子だった。
ラキュースだけでなくイビルアイも何か良くないことが起きるという予感が消えなかったからだ。
「…………ん? 何だこれは?」
イビルアイは倒れた石の陰からひとつの玉を拾い上げる。なかなかの魔力を感じる点から儀式に関係するアイテムの可能性が高かった。
「……これはこれは。お主はなかなかの魔力を持ったアンデッドだな。良かろう。この『死の宝珠』が力を貸してやろう」
イビルアイは立ち上がると仮面を外した。赤い双眼が妖しい光を放つ。
「イビルアイ?」
ラキュースがイビルアイの異常に気付く。と、同時にティアとティナがイビルアイの左右を窺う。そこにはイビルアイならざる何者かがいた。