もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap18 リグリットの提案

「……ふむ。やはり、な。お主、『ぷれいやー』じゃな?」

 

 エ・ランテル一番の宿屋、黄金の輝き亭の一室でアインズとリグリットの会見が行われた。リグリットの第一声に同席するシャルティアとアルベドは思わず身構えた。アインズは片手を上げて二人を制するとリグリットに言った。

 

「……よくわかったな。そうだ。私はプレイヤーだ。……お前はプレイヤーに会ったことがあるのかな?」

 

 リグリットは頷く。

 

「……いかにもわしは『ぷれいやー』を知っておる。かの十三英雄の『リーダー』がそうじゃったよ。かの者は最初は弱い存在じゃったが、最後は誰よりも強くなりおった」

 

 アインズの目が光る。

 

(なるほど。『リーダー』はレベルが低い状態のプレイヤーだったのだな。それがこの世界で経験値を重ねてレベルアップしたということか。……つまり成長限界まではこの世界でもレベリング可能ということみたいだぞ?)

 

「『リーダー』の最期は仲間を殺した後悔から蘇生許否したのじゃったが……さて、ここからが本題じゃ。お主は何が目的かの? それ次第では協力せんでもない」

 

「私の目的は──」

 

 ──そう。アインズの目的は一つ。

 

「──かつて仲間たちと築き上げた我がギルド、アインズ・ウール・ゴウンの名を永遠の物とし、全ての人々の記憶に留めることだ」

 

 ──そしていつかは……かつてのギルドの仲間達と再会できたら──

 

 アインズの答えはリグリットには意外なものだったらしい。

 

「……それだけ、か? うむ。……その……なんじゃ。例えば世界征服とか人間を全て虐げて異形なる者の楽園を作る、とかではないのか…………うむむ」

 

 リグリットは腕を組んで考え込む。と、突然笑い出す。

 

「……成る程。成る程。確かにお主は『ぷれいやー』じゃわい。良かろう。お主に協力をしよう。……と、そういえばわしの従者のブレインは生きておるかの? ああ、正確にはアンデッドだから違うか……ヴァンパイアになった剣士じゃ」

 

「──貴様が……!」

 

 気負い立って身構えるシャルティアを制してアインズは答える。

 

「……無事だ。しかし、何故、彼がズーラーノーンの幹部になっていたのかな?」

 

 リグリットは語り出した。彼女はかつての仲間たちと『世界を乱す輩』に対する警戒をしていた。やがて、その存在が現れる。

 

 まず、その人物は『死の螺旋』という儀式魔法を用いて一つの国を滅ぼした。次にスレイン法国の最高神官長にまで登り詰めた末に法国に伝わる伝説の秘宝を持ち出して逃亡、現在では秘密結社ズーラーノーンの盟主として君臨しているのだという。

 

 ブレインは剣の腕前からズーラーノーンの幹部になるよう、まさにスパイとしてリグリットが潜りこませていたのだった。

 

「……わしはズーラーノーンの盟主はかつての十三英雄の中の人物の成れの果てではないかと考えておる。……聞けば貴殿らはズーラーノーンを討伐するとの由、是非とも手を組みたい」

 

 

 

 

 

 

「アインズ様。よろしかったので?」

 

「……問題ない」

 

 アルベドの問いかけにアインズは頷いて答えた。

 

 ──とにかく情報が欲しいところだな。リグリッドから初めてプレイヤーについての具体的な情報が得られた。やはりレベル百のプレイヤーが複数存在することもあり得ると考えるべきだろうな。

 

「……アルベドよ。バハルス帝国の婚礼には聖ナザリック教会の教皇として任せるが、良いな」

 

「はっ。聖ナザリック教会教皇に恥じない働きをしてまいります」

 

 アルベドは平伏する。

 

「さて、あとはズーラーノーンの盟主だな……しかしリグリットやブレインからも具体的な情報はなかった。しかもズーラーノーン内部でも盟主と最近接触したものは無いというが……」

 

「……先程の話では丁度エ・ランテルの墓地での騒動のあたりでありんすね。そういえばあのときの魔術儀式は『死の螺旋』であったのでありんしょうか?」

 

「──うん? ……そうか。しかし……あのアンデッドは盟主ではないのだったな。うーむ。これは一旦あのカジットという人物も復活させる必要があるかもしれないな」

 

 と、ふと唐突にアインズはスレイン法国から連れ帰ったハーフエルフの捕虜のことを思い出す。現地勢では相当の強者であり、しかもプレイヤーの血を受け継いでいる可能性が高い稀少種(レア)だった。

 

「──あのハーフエルフならば確かアウラに預けております。呼びにやりますか?」

 

「……いや、良い」

 

 ──近い種族なのだからアウラとマーレにとって良い友人になれば良いな、アインズはそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓 第六階層。アウラはいささか疲れていた。原因はこの間スレイン法国での戦闘で捕虜となったハーフエルフの少女だ。

 

 瞳がオッドアイでハーフエルフと種族も比較的近いという親近感から相手が希望する不慣れな一騎討ちをして、アウラが打ち負かしたのだが……

 

「……アウラ様。お風呂の用意ができています」

 

「……う、うん」

 

 アウラがマーレと住んでいる住居に帰るとハーフエルフが三つ指をついて出迎える。アウラは気乗りしないまま、風呂場に行く。

 

 ちなみにマーレは最近、エ・ランテルの冒険者組合のために冒険者の訓練用ダンジョン作成にかかりっきりになっていて、しばらくナザリックを留守にしているので不在だ。

 

 ──マーレが居てくれたらマーレに押し付けるんだけど。

 

 アウラが裸になって風呂に行くと、ハーフエルフも付いてくる。アウラの身体を石鹸で泡立てたスポンジで洗う。

 

「……あのさぁ、いい加減にしてほしいんだよね? それにそもそもあたしは女なんだけど?」

 

 アウラが口を尖らせて文句を言うが、ハーフエルフは全く動じる様子はない。横を向き、指先で床にのの字を書きながらため息混じりに呟く。

 

「……アウラ様。私を打ち負かしたあの瞬間から私の全ては貴方に捧げると決めました」

 

 ──いやいや、あのときあんた、ケダモノーっとか叫んでたし。なにそれ?

 

 アウラは不機嫌そうに風呂場を出た。ハーフエルフはバスタオルでアウラをゴシゴシ拭く。そしてアウラの耳もとで小さく囁いた。

 

「…………貴方の子供を産みたい」

 

 ──いや、だからさ、あたしは正真正銘女だっての……

 

 彼女(アウラ)の苦悩はまだまだ続きそうだった。








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