もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap17 ズーラーノーン

 偽ナザリック最奥部 玉座の間──元スレイン法国神官長レイモンはアインズの前に(ひざまず)く。

 

「レイモンよ。アインズ・ウール・ゴウンへの忠誠、感謝しよう。お前たちがもたらしてくれた情報は実に有意義であった」

 

「はっ。有り難き幸せ」

 

「さて。お前たちが追っていた秘密結社ズーラーノーンについて少し情報があってな、その前に改めて確認しておきたい」

 

 アインズの合図にアルベドが一人の女を連れてくる。長く伸びた金髪に紫の瞳、雰囲気が随分と変わっているが、以前にエ・ランテルの墓地で“深紅”に倒されたズーラーノーンの女幹部だった。

 

 立ち上がり、思わず身構えるレイモンをアインズは片手を上げて制する。

 

「この者はクレマンティーヌ。過去を後悔し、現在では敬虔な聖ナザリック教会の修道女であり、アインズ様の信奉者です」

 

「……うむ。アルベドよ。流石は守護者統括に相応しい働き。感謝する」

 

「……有り難うございます」

 

「……そういえばもう一人の姿は見えんせんでありんすが……復活させなかったのでありんしょう?」

 

 シャルティアが疑問を口にする。

 

「……ああ。あれは既にアンデッドだったのでな。どうも利用価値が無さそうなので打ち捨ててあると思うぞ?……ああ、そうだ。スレイン法国のハーフエルフはどうしている? あのレアは?」

 

 アインズの疑問にはシャルティアが答えた。

 

「……あのハーフエルフの娘ならアウラに付きっきりでありんす。あれを離そうものなら自殺しかねんでほとほと困っていんす」

 

 アインズはハーフエルフがアウラに尋常ならざる執着を持っていたことを思い出した。そして──まあ、仲直りしたのならまあ、いいか──と気楽に思う。

 

 アインズは軽く咳払いをすると姿勢を正し、集まっている守護者たちを見渡しながら言葉を伝える。

 

「さて、皆の働きにより我がアインズ・ウール・ゴウンの名声は地上世界に広く広まったと言える。しかし、まだ我々の威光に臥さない存在が残っている。それが秘密結社ズーラーノーンだ。この度私はこのズーラーノーンを掌握しようと考えている」

 

 

 

 

 

 

「情報ではここにズーラーノーンの幹部がいるんでありんすな?」

 

 エ・ランテルの郊外にあるごく普通の空き家の前に“深紅と漆黒”の二人の姿があった。かつてズーラーノーンの幹部だったクレマンティーヌからの情報でいくつかあったとされる活動拠点のうちのひとつだ。

 

 表向きは聖ナザリック教会からの依頼で『ズーラーノーンの調査』だ。

 

 モモンは裏口に回り、シャルが正面から乗り込む。あらかじめモモン──アインズにより家の中にはアンデッド反応があった。

 

 シャルは注意深く進む。同時に自分の影に潜ませていたシャドウ・デーモンを先に進め敵の背後に潜ませる。

 

 ドアを開け、踏み込む。と、立ちすくむ一人の男がいた。

 

「──な? ……ありえないッ!」

 

 モモンも合流する。男を見て驚いているシャルが言い訳のように呟く。

 

「……私が眷属にしたでありんすに……何故私が感知しなかったでありんしょう?」

 

 男は倒さなくてはなかったかつてシャル──シャルティアから逃げ出したブレインだった。

 

 

 

 

 

 

「──申し訳ありませんでしたぁ!」

 

 シャルティアに対してブレインは土下座する。彼の顔は涙と涎でグシャグシャだった。

 

「……どうしてもストロノーフと、ガゼフ・ストロノーフと試合がしたかったんですッ!」

 

「──ほう?」

 

 ガゼフの名前を聞いたアインズの目が光る。と、シャルティアがアインズに平伏する。

 

「……モモンさん。いや、アインズ様。申し訳ございません。この者はブレイン、私が眷属にした野盗の生残りでございます」

 

 アインズは思い出した。アインズたち“深紅と漆黒”のヴァンパイア討伐で噛ませ犬役をさせようとしたが、逃げ出した男だった。

 

「……貴様にはいくつか聞きたいことがある。正直に答えよ」

 

 アインズはいくつかの疑問を尋ねた。最初に疑問だったのは彼の眷属としての主、シャルティアからどうして逃げることができたのか? だ。これにブレインは『ライバルであるガゼフとの勝負への執念』と答えた。これはアインズにも理解できる気がした。次の疑問はシャルティアが何故、眷属であるブレインの存在を認識できなかったのか? という点である。

 

 これにはブレインは言葉を濁す。しかし、アインズには強力な第三者──おそらくはネクロマンサー──の関与が思われた。

 

 そして第三の疑問は彼がどういった経緯で彼がズーラーノーン幹部になったのか? もしくはズーラーノーンとの関係だった。これもブレインの答えは要領を得ないものだった。

 

 アインズはとりあえず“深紅と漆黒”としてエ・ランテルに戻ることにする。あくまでも形の上では聖ナザリック教会の依頼であるためだ。

 

 シャルティアがアインズの顔を見る。アインズは頷く。

 

「……よし。帰還だ──エ・ランテルへ」

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルに戻ってきたアインズにルプスレギナからの伝言(メッセージ)が届く。

 

〈アインズ様にお目にかかりたいとリグリットという人物が教会にお見えです。如何なさいますか?〉

 

〈──うん? 『アインズ』宛てなのか? ……とりあえず会うとしよう〉








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