もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap15 蒼と深紅と漆黒と

 リ・エスティーゼ王国首都リ・エスティーゼは謎の正義のヒーローの話で持ち切りだった。そのスピードは雷より速く、鳥のように空を飛び、力は凄まじく片手で馬車を持ち上げてしまうほどだという。

 

「……一度手合わせしてみたいぜ? なあ、イビルアイ。俺かそいつかどっちが勝つか賭けないか?」

 

「……いや、どうだろう。そもそも人の噂なんて尾鰭がつくものだしな。あの十三英雄だって実際には──」

 

「──ストップ。ストップ。イビルアイがその話を語ると長くなるからな。そういやエ・ランテルで新しいアダマント級冒険者が生まれたんだよな。そのよ、“赤黒”とセーエキ……?」

 

「『セーキローリング』だ。それに“赤黒”じゃなくて“深紅と漆黒”だ」

 

 ガガーランの言葉をイビルアイが訂正する。

 

「……おっと。それそれ。……でよ? どっちが強いかな?」

 

 イビルアイは黙り込む。

 

「どうかな? ただ、“深紅と漆黒”はスケリトルドラゴン二体を倒したり、ギガントバジリスクを倒しているからな? ガガーラン、どうだ? お前に倒せるか?」

 

「スケリトルドラゴン一体なら倒せるがなあ。二体は厳しいだろうな。……ギガントバジリスクは……“蒼の薔薇”全員じゃないと無理だろう」

 

 ガガーランは冷静に判断する。そうなのだ。“深紅と漆黒”は桁違いの強さなのだ。深紅のフルアーマーの女戦士シャルは魔法も使える。それも第三位階だ。そして漆黒の魔術師(マジックキャスター)モモンは第六位階まで使うという噂がある。あくまでも噂だが……

 

 となると、モモンはイビルアイはおろか帝国のフールーダと同格ということになる。──馬鹿な。あり得ない、イビルアイは首を振る。

 

「そういや、とうとう潰れたな。スレイン法国──」

 

 ガガーランは吐き捨てるように言った。無理もない。“蒼の薔薇”はかつて彼らの部隊と剣を交えたことがあったのだった。

 

「人類の守護者とかなんとか宣っていたが結局陰険なヤツラだったんだな」

 

 スレイン法国はこれまで王国や帝国に対して数々の謀略を行ってきていたことが明るみになり、王国と帝国との連合軍により、最高神官長ら執行部が降伏し崩壊したのだった。

 

「そろそろ時間だな」

 

 イビルアイは立ち上がる。これからヴァランシア宮殿でラキュースら他の“蒼の薔薇”のメンバーとラナー王女と待ち合わせていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 アインズは最高神殿を見回す。もはや脅威となる存在はいない。一人、銀と黒の髪のハーフエルフの少女がよろよろと立ち上がった。彼女の推定レベルはおよそ六十台。現地の存在ではおそらく破格の強者であり、レアだった。アインズが<ruby><rb>心臓掌握</rb><rp>(</rp><rt>グラスプ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ハート</rt><rp>)</rp></ruby>を使わなかったのはレアコレクターとしての食指が動いたからに過ぎない。

 

「……私と……勝負しろぉぉ……その色黒チビのダークエルフぅ! 私は人類最強の守り手、“絶死絶命”だッ!」

 

 ──いや、既に人類最強じゃないじゃん、とアインズは思わず心の中で突っ込む。

 

「おやまあ、誰かさんは今日はモテモテでありんすな? チービースーケ」

 

 アウラが前に出て鞭を構える。格下とはいえアウラは一対一の戦いは得意ではない。しかし、アインズは信じていた。守護者たちが今回の戦いで成長を見せてきたことを。

 

 二人の戦いは互角に見えた。しかし、アインズの目にはアウラがスキルを使い、徐々に相手の動きを削っていく様が見えていた。最終的にはアウラの完勝だった。アインズはアウラの頭を撫でてやる。アウラは仔犬のような甘えた顔をした。

 

「くッ! ……好きにしろ! 私を好きに蹂躙するがいいッ! こ、このケダモノめッ!」

 

 アインズ、アウラ、マーレ、そしてシャルティアまでもが目が点になった。

 

 

 

 

 

 

 ヴァランシア宮殿のラナー王女の部屋に通された“蒼の薔薇”はそこで意外な顔触れと会う。

 

「紹介しますわ。こちらが“蒼の薔薇”。そしてこちらが“深紅と漆黒”のお二人です。今回の八本指壊滅の依頼を引き受けてくださったのですわ」

 

 八本指というのは王国の暗黒界を仕切っている八人の顔役からなる組織で、今回、地道な調査で突き止めた彼らのアジトを殲滅する計画をラナー王女が立てたのだった。

 

「どうやら“深紅”との異名があるようでありんすが私がシャル、そしてこちらがモモンさ──ん。ゴホン……モモンさんでありんす」

 

 シャルが優雅に自己紹介をする。あまりの気品に貴族の娘であるラキュースも思わず息を呑む。

 

「おいおい? ウチのチビさんだけじゃないのな。仮面を被った魔術師(マジックキャスター)ってのは。案外お似合いかもな」

 

「──ゴホン。モモンさん、ウチのガガーランが失礼なことを。謝らせていただきたい」

 

 ラキュースがガガーランの頭を下げさせながら謝罪する。

 

「では、本題に入るとしますわ。クライム、貴方にも参加してもらいます」

 

 

 

 

 

 

 その晩、“蒼の薔薇”と“深紅と漆黒”は手分けして八本指のアジトを襲撃することになった。ラナー王女の頼みで“蒼の薔薇”にはクライムが同行する。

 

「童貞、俺はてっきり姫様がジルクニフと結婚したから拗ねてると思ったぜ?」

 

 早速ガガーランがからかうとクライムは顔を赤くする。

 

「……正直、複雑です。でもラキュース様から貴族社会ではそういう形式的な婚姻があると伺いましたから……」

 

 クライムは唇を噛む。

 

「……そんなことより仕事だ。どうあっても“深紅”には負けられないからな?」

 

 珍しくイビルアイが感情的になっていた。無理もない。昨日の初顔合わせがあった後──

 

「どうだい? 互いの実力を確かめるためにちょいとばかし試合をしないか?」

 

 きっかけはガガーランだった。

 

「……別に私は構いんせんが……」

 

 シャルにモモンが頷いてみせた。

 

「面倒でありんすから“蒼の薔薇”全員と私でやり合っても構いんせんでありんす」

 

 結局試合をすることはなかったが、このことはイビルアイの自尊心を酷く傷つけたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ここが六腕のアジトでありんすか……」

 

「……うん? 一体のアンデッド反応があるな? 油断するなよ?」

 

 シャルに続いてモモンも中に突入する。

 

「──これは!?」

 

 

 

 

 

 

「おかしい。敵の気配はあるが……動きがない」

 

 ティナがスキルを使って建物の内部を探り、首を傾げる。

 

「……罠か?」

 

 全員の緊張が高まる。ラキュースが意を決して建物の内部に突入する。しかし、敵の抵抗はない。

 

 ────??

 

 皆で思わず顔を見合わせる。誰もが狐につままれたかのようだった。彼女たちの前にはあり得ない光景があった。








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