もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap14 エルフの国

 アインズはシャルティア、アウラ、マーレを従えて塔を登っていく。アウラはスキルで周辺を警戒するが敵の存在は無い。

 

「おかしいですね? アインズ様。普通なら王城に近衛兵士みたいな精兵がいるはずですよね?」

 

「……うん? そ、そうだな」

 

「敵の罠かもしれんせん。しかし──」

 

 シャルティアも首を傾ける。あまりにも歯応えが無さすぎるのだ。エルフ国の国境を越えた辺りで一度、しかしこちらの姿を認めると途端に逃げ出してしまった。

 

「そういえばあのエルフ達、『オッ──』とかなんとか言っていたようでありんすが……」

 

「……オッタマゲーじゃないの? それかオッカマーとかかな?」

 

「お姉ちゃん、ぼ、僕はオカマじゃないよう……」

 

 アインズは守護者たちが楽しそうに笑っている光景にほのぼのとする。今日はこのエルフ国を落とし、そのままこのメンバーでスレイン法国を叩く。

 

 陽光聖典や漆黒聖典からの事前情報では強者は数名。しかしこのメンバーならば万が一つにも敗けはないだろう。最悪でもアインズとシャルティアとで転移魔法を使用すれば安全に撤退できるだろう。

 

 このエルフ国の国王はなかなかの強者らしいので、まずは予行練習みたいなものだった。

 

 一行が楽しそうに語らっているうちに最上階に到着する。

 

「貴様たち、よく来たな。私がこの国の──」

 

 シャルティアがスポイトランスを構えて突進し、アウラとマーレが行動阻害魔法をかける。アインズは前に出て〈心臓掌握(グラスプハート)〉を唱えようと──

 

「ま、待て! いや、ここは一対一じゃないのか? 卑怯だぞ!」

 

 エルフ王は泣きながら懇願する。アインズはただニヤリと笑う。

 

「PVPでは多人数での攻撃が基本だぞ? 〈心臓掌握(グラスプハート)〉」

 

 アインズたちは呆気なくエルフ王を倒す。するとあちらこちらから隠れていたエルフたちが出てきてアウラとマーレに平伏する。

 

「このエルフたちにはアインズ様の偉大さを教える必要がありんすね」

 

「いやあ、参ったなぁ。まあ、シャルティアよりあたしの方がこう、魅力的なんじゃないの?」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

 年長のエルフが恭しくお辞儀をする。彼によればこのエルフ王は『先祖返り』で強大な力を背景にエルフたちに君臨していたという。かなり残忍な性格でもあり、今回アインズたちがいわば行きがけの駄賃代わりに倒したことに感謝しているのだという。

 

 アインズは更に年長のエルフから『王族の印』を持つアウラかマーレのいずれかを国王としてエルフ国に留めてほしいと懇願される。

 

「……アウラが王様になれば良かったでありんすが、きっと妻のエルフは選りどりみどりでありんしょう?」

 

「……シャルティア。あたしは女だってーの」

 

「……おや? そうでありんしたか。申し訳ないでありんすが、私みたいに胸に起伏が無いとわかりんせんでありんす」

 

 アインズはシャルティアとアウラの言い合いを眺めながらふとかつてのギルドメンバーのやりとりを思い出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国 王都リ・エスティーゼ──

 

 セバスとソリュシャンが商人を演じている館には一人の来訪者の姿があった。

 

「……デミウルゴス……まさか貴方がお越しになるとは……」

 

「……別にたいしたことではないよ、セバス。私も少しばかり王都に用事があってね。さて、伝言(メッセージ)で大体の事は聞いたが、セバスはどうするつもりかね?」

 

 セバスは答えを逡巡する。ナザリックの利益を優先するならば彼女(ツアレ)は殺すべきだろう。しかし──

 

「…………彼女を助けることはできないだろうか……?」

 

 セバスの答えを聞いたデミウルゴスは瞳を蛇のように細め、笑い出す。

 

「フッハッハッハッハッ。なるほど……なるほど……そうですか。いや、なるほど」

 

 セバスはキツネにつままれた面持ちだった。

 

「……いや、失礼。実はセバス、私はセバスから今回話を聞いて、まずアインズ様にご報告したんだ。するとアインズ様は『面白い』と仰られて、このアイテムを渡すようお命じになられた」

 

 セバスはデミウルゴスからアイテムを受け取ると驚く。

 

「──これはまさかたっち・みー様の! おお! アインズ様! ありがとうございます!」

 

 その晩、街の外れで王都の闇を取り仕切る幹部の一人、コッコドールが半殺しの状態で発見される。彼はうわ言のように「しゅみましぇん。しゅみましぇん」と繰り返すのみで誰にやられたのか話すことができない状態だった。後に人々の噂に謎の超人が悪を懲らしめるというものが広まっていった。その超人の背中に浮かぶ四つの謎の紋章をみた、という噂と共に。

 

 

 

 

 

 

 エルフの国へ出立する前日──

 

 デミウルゴスからの報告を受けたアインズはセバスが勝手な行動を取ったことに最初はショックを受ける。しかし、時間の経過と共に思い直す。そして気付く。

 

 彼ら守護者(NPC)たちが成長しているのだということに。アインズはセバスの行動にかつてのたっち・みーの姿を重ねる。

 

 どうせなら──あの頃のようにギルドメンバーと過ごした日々を守護者たちが引き継いでくれたら──アインズはアイテムボックスから一つのアイテムを取り出した。ただのエフェクトでなんの効果も無い。たっち・みーがふざけてアインズの誕生日にくれたアイテムだった。

 

 アインズは改めてデミウルゴスにアイテムを託す。受け取ったセバスがどう受けとるかはわからない。でも──

 

 アインズは楽しそうに笑った。








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