もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap13 王都騒乱

 リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフはカルネ村から兵を撤退し、王都リ・エスティーゼに帰還した。重傷のバルブロ王子はもはや虫の息であり、王都に着くとすぐさま水の神殿に部下を送る。兵を纏めヴァランシア宮殿の前に来ると宮殿は近衛兵により厳重な警戒態勢となっていた。

 

「ガゼフ殿、貴殿の遠征中にバルブロ王子を戴く勢力による王位簒奪並びにラナー王女の暗殺未遂事件が発覚いたしました。失礼ながら貴殿の身柄の一時拘束と首謀者バルブロの身柄をお引き渡しいただきたい」

 

 否応なしにバルブロは引き立てられていく。ガゼフは兵に命じ武装解除をさせる。

 

「陛下は? ランポッサ三世陛下はご無事なのか?」

 

「幸いに一連の事件は未然に終わり、陛下も王女もご無事だ。しかしかなりのご心労ゆえ、臥せっておられる」

 

 ガゼフはとりあえず安堵する。と、同時に自分が王都を離れていた間にいったい何が起きたのだろう、と思った。

 

 

 

 

 

 

「クライムはここで待っていて。良いこと?」

 

 ラナーに言い渡されてクライムは思わず反論しようとする。階下に自分が置かれては肝心のときに間に合わないのでは? と無言の抗議で訴える。

 

「忠犬も良いけどよぉ、童貞。姫様のことなら心配いらないぜ? 俺たちがついているんだからよ? それとも俺たちが頼りないってんなら話は別だが」

 

 ガガーランにここまで言われてしまうとクライムには返す言葉はなかった。

 

「……ラナー様をお頼みいたします」

 

 深々と頭を下げるクライムの肩をガガーランが容赦なく叩く。あまりの強さにクライムは思わず顔をしかめる。

 

「……クライム。階下の警備も重要だ。手を抜くな?」

 

 クライムの目の前に仮面がぬっと近づく。

 

 ラナーとザナック、レエブン候、そして“蒼の薔薇”は階段を上っていく。ラナーの私室の前で新入りのメイドが落ち着かない様子でいるのに不審に思ったガガーランが声をかける。と、突然メイドがその場から逃げ出した。

 

「──追って! 捕まえて!」

 

「──待った! 危険。この部屋は──」

 

 ラキュースとティアの声が交差する。突如として起こる爆発。イビルアイがすぐさま魔法を〈水晶障壁(クリスタル・ウォール)〉を展開する───

 

「ラナー様! ラナー様ぁ!」

 

 クライムは階上での爆発音にすぐさま駆けつける。辺り一面に煙が充満していて視界が利かない。足もとに小柄な人物が倒れていてクライムは思わず抱き起こす。

 

「……くっ。小僧か。姫様なら大丈夫。今頃ラキュースが安全な場所に避難させている。ザナック殿下もな」

 

 

 

 

 

 

 爆発物を仕掛けたメイドはすぐに捕らえられる。そして依頼者の名前としてボウロロープ候に近い貴族の名前を白状した。

 

 バルブロ王子派の貴族が数珠つなぎに捕縛されていく。やがて貴族の館から神殿の神官長との連名によるスレイン法国への密書が明らかにされる。

 

「知らぬ! 断じて知らぬ! 私は潔白だ! おのれ……誰かの罠だ!」

 

 騒ぎ立てるボウロロープ候も兵士達に捕縛される。事態に気を落としたランポッサ三世は自らの退位を決断する。

 

 これにて第二王子のザナックが即位しそのままザナック王となる。ザナックが自らランポッサ四世もしくは他の名前にしなかったのは退位した先王に対する畏敬を表したもの、と噂された。

 

 同時に各神殿は神官長を失い弱体化する。追い討ちをかけるかのように聖ナザリック教会が国教として守護されることになり、各神殿はこの下部組織へと追い落とされた。

 

 王都リ・エスティーゼとエ・ランテルには大規模な聖ナザリック教会が建設されることになった。両教会は“カルネ村の聖女”ルプスレギナが司祭を兼任し、聖ナザリック教会から派遣された修道士達が布教を行うこととなった。民衆は彼らの治癒の施しに感謝し、瞬く間に王国全域に信者が増えていった。

 

 

 

 

 

 

 かつてアウラが建設した偽のナザリックはもはや実物のナザリックとも遜色ないものになっていた。

 

 守護者統括のアルベドは階層を降りていく。やがてかつてカルネ村で捕らえられた旧陽光聖典の人間たちのもとに着く。彼らの本心は人類救済であり、また本来信心深い人間である。ナザリックで過ごし、かつ、神の顕現としか思えぬアインズの威光に直面してしまえば、それまでの彼らの神を捨て去ることは造作もなかった。しかも、彼らは扇動工作を得意としていた。

 

 これまでも一部の人間をリ・エスティーゼ王国に送り、聖ナザリック教会の布教活動に従事させてきた。そしていよいよ彼らをスレイン法国に送り込む段階に来たのであった。

 

「……これからあなたたちはかつての祖国であるスレイン法国へ行ってもらう。このナザリックで多くのことを学んだあなたたちにはスレイン法国が如何に奸計を用いて人心をたぶらかしていたかわかるはず。神であるアインズ様はスレイン法国を滅ぼされると決めたわ。でも、大勢の民衆が巻添えになるのはお望みではない、ともおっしゃった。あなたたちは慈悲深いアインズ様のご意向に沿い、過ちから悔い改める人間を救済しなさい。さあ、行きなさい!」

 

 信心深い聖ナザリック教会の修道士たちは瞳を輝かせながら駆けていった。

 

 彼らの姿が見えなくなるとアルベドは呟いた。

 

「全く人間などという種族は単純なものね。わたくしならすぐにもスレイン法国を崩壊できるのだけれど……アインズ様はきっと彼らの『神』を殺そうとなされているのね」

 

 

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国 王都リ・エスティーゼでは立て続けに新しい話題が駆け抜けた。

 

 幽閉されていたバルブロ王子の死去、ラナー王女とバハルス帝国皇帝ジルクニフとの婚姻、そしてリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の同盟、同時にリ・エスティーゼ王国のスレイン法国に対する宣戦布告だった。








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