もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap12 カルネ村の奇跡

 リ・エスティーゼ王国ヴァランシア宮殿での宮廷会議では六大貴族を含む主だった貴族たちの前でラナー王女からバハルス帝国との停戦合意の調印文書が披露される。

 

 主戦派のボウロロープ候は皮肉めいた賛辞を送り、王国の内情を露呈する。彼が中心の勢力は第一王子のバルブロを担ぎ上げ、権勢を欲しいままにしていた。対抗勢力として有力なのが第二王子のザナック支持を打ち出しているレエブン候の派閥だ。

 

 今回、ラナーが帝国との講和を成立させたことはボウロロープ候には面白くなかったらしく、次にラナーが帝国との和解の条件とした聖ナザリック教会を他の神殿と等しく保護を与える、という提案に真っ向からぶつかってきた。

 

「既に四大神を祀る神殿があるのにさような邪教を認めるわけにはいきますまい。かようなことを認めるならば神殿からの反発は必定。陛下はいかがされる? 聞けばかの邪教は王国に牙を剥き、役人や兵士に甚大な損害を与えたとか。むしろ軍を派遣して断罪すべき」

 

 貴族たちの神殿勢力との結び付きは強く、聖ナザリック教会に対する反発は押さえられようがなかった。しかも以前に派遣した徴税人を村人が追放したのは事実である。

 

 国王ランポッサ三世としては事情究明の特使を派遣する、特使は国王の信任が厚い戦士長のガゼフを送ることとするのが精一杯だった。

 

 と、またしても思わぬ横槍がはいる。

 

「父よ! ガゼフ殿は以前にカルネ村で戦闘の傷を癒されたと聞いておりますゆえ、冷静な判断を下せるとは思えませぬ。従ってこの私自ら誰何しに行こうと思います」

 

 ランポッサ三世はバルブロ王子に許可を出した。

 

 

 

 

 

 

 バルブロ王子は兵士二千を率いてカルネ村を目指す。やがて目的地まで一キロメートルとなった地点で一旦軍をとめる。

 

「バルブロ王子、このまま二千の兵でカルネ村に向かうのはお止めいただきたい。これでは村の人間の不安をいたずらに煽るだけです。まずは少人数の先遣隊を編成して事情を説明するべきです」

 

 国王の意向で同行しているガゼフが意見する。バルブロは王軍の旗を指しながら叫ぶ。

 

「馬鹿を言え! 我々は王軍だぞ? 王国に反逆する農民風情になんで気遣いしなければならんのか? さては貴様、同じ平民出身だから農民共の肩を持つのであろう?」

 

 ガゼフは全くとりつく島がないまま、引くしかなかった。

 

 バルブロ王子は意気揚揚とカルネ村に軍を展開する。ガゼフはカルネ村に以前はなかった高い見張り台や防壁があることに気付く。

 

「聞け! カルネ村に邪教を信仰する聖ナザリック教会なる存在があるというが、邪教を広めし首謀者を速やかに我が軍に引き渡せ。これは王命である。直ちに開門せよ」

 

 バルブロの使者が門に向かって叫ぶ。しかし反応がない。と、何処かからか牛のふんが投げられて使者と王旗が糞まみれになる。

 

「ルプスレギナ様は渡さないだ!」

 

「糞まみれの糞王子はとっとと帰れ!」

 

 バルブロ王子は逆上した。

 

 

 

 

 

 

 村人は抵抗する。塹壕や高台から弓矢を射かけてくる。更に村人に混じってゴブリンもいる。それらのことがバルブロの怒りに油を注いだ。

 

「王命に対する明らかな反逆だぞ。一人残さず殺せ! いや、生け捕りにして村人の前で村長や教会の人間を処刑してやる」

 

 村人はゴブリンの指揮で奮戦していたが所詮は多勢に無勢、次第に押し込まれていく。戦線は徐々に後退し最早風前の灯火だった。

 

 王国軍は最後の砦である教会を取り囲む。

 

「聞け! これ以上の抵抗は無意味だ。大人しく降参しろ。さもなくば全員の命は無い」

 

 兵士が呼び掛けると鐘楼に人影が現れた。修道女のルプスレギナだ。

 

「神よ! 今こそ弱き者を救いたまえ! この地に奇跡をお示したまえ!」

 

 ルプスレギナの祈りに呼応するかのように黒い雲がたちまち空を覆いだす。やがて天空に光りが現れ、それぞれの光が形となる。四体の|門番の智天使《ケルビム・ゲートキーパー》だ。その神々しさに兵士も村人も呆然となる。

 

 突然、バルブロ王子が雷に撃たれ馬から転がり落ちた。同時に何処からか力強い角笛の音が響き渡り喚声が起こる。教会を囲んでいた兵士たちは次々に現れてくるゴブリンの軍勢に蹴散らされていく。

 

「我らゴブリン騎兵隊。敵の包囲網を突破せん!」

 

「我々ゴブリン魔術師隊、敵を殲滅してやろうぞ!」

 

 忽ちのうちに形勢が逆転する。突如として千を超えるゴブリンの軍勢が──しかも練度も装備も王国軍を遥かに凌いでいた──反撃してきたのだ。しかも総大将であるバルブロは生死不明である。

 

「各部隊長は部下を纏めろ。攻撃はするな。ただただ撤退に全力を。エ・ランテルに撤退だ!」

 

 ガゼフは怒鳴った。そしてバルブロ王子を乗せた馬車を守りながら戦場を後にする。

 

 夕暮れのカルネ村に村人の歓声が響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 アインズは完全不可視化の状態で空中から聖ナザリック教会を見下ろす。教会の鐘楼ではルプスレギナが迫真の演技の真っ最中だった。

 

 ルプスレギナが天に向かい両手を差し伸べる。アインズは門番の智天使を召喚する。

 

 そして王国軍の中で一番目立つ総大将を雷撃で落馬させる。

 

「……うん? ちょっと強すぎたか? うーん……魔法の矢(マジックアロー)にしておいた方が良かったか? まあ良いか」

 

 そしていよいよ最後の仕上げ──(アインズ)の顕現──金ビカのやたらと派手な衣装を着たアインズが不可視化を解こうとした瞬間に『ブォー』と角笛の低い音が響き渡った。

 

 戦場に突如として現れるゴブリンの大軍勢。アインズは混乱する。

 

 やがてアインズは教会の建物の影で立ち竦む村娘(エンリ)の姿をとらえる。どうやら彼女がゴブリンの軍勢を召喚したようだ。

 

 ──多少シナリオとは違うが、まあ良いか。アインズは神の役を演じずに済んだことに内心安堵していた。

 

 








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