オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお
<< 前の話

44 / 44
情報と髪は命

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフは、カッツェ平野に向かわせたフールーダを含む魔法詠唱者(マジックキャスター)の部隊からの報告を聞き、あまりに予想を超えた内容に頭を抱えていた。

 

 

「ビーストマン10万を三体で殺害した伝説のアンデッドか……」

 

 

 見た事はないためフールーダが見つけた文献からの予測だが、四騎士が勝てない事を加味すると強ち間違いでも無いのだろう。

 個体数も能力も不明な点が多いため、フールーダを前面に出して戦う事も出来ない。

 

 

「やむを得ん…… 今年の王国との戦争は取りやめるしかないか」

 

 

 戦場が使えないのであればどうしようもない。

 ここは気持ちを切り替えて、あの化け物をどうするかを考えなければならない。

 ジルクニフは今後の動きを考え、王国とどう対応するかを模索し始めるのだった。

 

 

 

 

 アンデッドが歩いてても誰も気にしない街エ・ランテル。

 その冒険者組合でラナー以外の指名依頼があるからと、久しぶりに組合長から呼び出されたネムとモモンガ。

 

 

「さて、今回の依頼は国に関わるので極秘のものだ。いや、ラナー王女の依頼も大概極秘のものだったんだが…… まぁいいだろう。内容はカッツェ平野に現れたアンデッドの討伐だ」

 

 

 冒険者は国に関わってはいけないが、当然抜け道はある。ここでそれを頼むというのはやむを得ない事情があるのだろう。

 この時点で嫌な予感しかしないモモンガだったが、逃げるわけにもいかず続きを聞くしかない。

 

 

「カッツェ平野に現れたそいつは、大型の獣の骨格のような姿をしているアンデッドだ。何故か人にトドメを刺さないようで死者はいないが、討伐しようとした冒険者にはかなりの被害が出ている」

 

 

 既にミスリル級の冒険者チームがやられている。クラルグラというんだが知っているかね?

 組合長の言う言葉は、モモンガの耳を右から左に通り抜けていく。

 

 

(犯人俺でしたー!! アンデッドって聞いた時点で分かってたけどね!! ラナー、全然大丈夫じゃないぞ!? 戦争止めたら冒険者にめっちゃ被害でてるじゃないか…… よく考えたらカッツェ平野は戦争地ってだけじゃなく、冒険者が頻繁にアンデッド狩に行ってるんだし当たり前だよなぁ。賢い奴が考えることはよく分からんが、これもラナーの想定通りなのか?)

 

 

「あともう一つ、ラナー王女から護衛の依頼が来てる」

 

 

 結局ラナーの依頼もあるんじゃないか。

 よし分かった、ラナーは確信犯だ。

 モモンガは考えるのをやめて、本人に問い詰める事にした。

 

 

 

 

 

 

「それで? どういうことか教えてもらおうか」

 

 

 一刻も早く真相が知りたかったモモンガは、あのままネムと一緒にラナーに会いに来た。

 ネムはラナーと一緒に茶菓子を食べてご満悦だが、こっちはそうはいかない。

 エンリに何も言ってないからな……

 危ない依頼を受けたと知ったら絶対怒る。事後承諾ならなおさらだろうし、場合によってはネムだけ帰すことも視野に入れている。

 

 

「依頼のことですか? 簡単ですよ、他に手段を取れなくする。そのタイミングで帝国と同盟を組みにいこうかと思いまして。その後であのアンデッドをみんなで倒して、平和を取り戻す。どうです? 完璧でしょう!!」

 

「マッチポンプじゃねぇか!?」

 

 

 ドヤ顔で胸を張るラナーに、全力でツッコミを入れるモモンガ。

 ネムは話が分からないのか、キョトンとしながらクッキーを頬張っている。

 くっ、可愛さのあまり和んでしまいそうだ。思わず全てを許しそうになる。

 

 まさか俺がツッコミに回ってしまうとは…… なんて計算高いお姫様だ。

 

 

 

「さぁ、あの皇帝の頭皮にダメージが入り始めた頃だと思うので、さっそく同盟を締結させに行っちゃいましょう。あっ、今回はブレインさんも連れて行きますね」

 

 

 

 今回は王国の使者として行くため、正式な馬車を使って移動している。

 今まで魔法を使ってポンポン移動していたので、最初は物珍しかったが数時間も経つと飽きてきた。

 

 

「それで? なんで俺は馬車に乗っているんだ? あくまで俺はクライムの家庭教師なんだが……」

 

「教え子の課外活動の様子を見るのもいいじゃないですか」

 

「ブレイン様、このような事に巻き込んでしまい申し訳ないです。ですが、ラナー様と口論してもまず勝てないので諦めるのがよろしいかと思います」

 

「クライムの言う通りだブレイン。人間諦めも肝心だぞ」

 

 

 骨のお前が言うのかとブレインはそんな顔をしてこちらを見たが、ため息を一度吐いて諦めたようだ。

 ちなみに馬車の中にネムはいない。エンリに怒られる前にカルネ村に送り届けておいた。

 もし相手側に何かを言われても、遠隔でも支配はバッチリだとか何とか言って切りぬけようと思ってる。

 いざとなったらラナーに誤魔化して貰えば良い。

 

 馬車に乗って一週間以上かけて移動することになった。

 途中でちょくちょく魔法を使って馬車の中から抜け出しているので、別に窮屈な旅ではなかった。寧ろ馬車には誰もいない時間の方が長かったかもしれない。

 そんな馬車の御者をしてくれた人には、ちょっぴり申し訳ない気持ちになる。

 

 

「ブレインさん、皇帝に会う前に武器を隠しておいて貰えますか? あと顔も」

 

 

 政治的な問題か貴族のしきたり的なモノなのだろうと、深く考えずにブレインは了承してモモンガに刀を預けた。

 そしてモモンガは顔を隠せるように『嫉妬する者たちのマスク』を貸した。

 このチョイスに特に意味は無い。

 

 

 バハルス帝国の皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、それと対談するのはリ・エスティーゼ王国の第三王女ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 会議室にはモモンガ達の他に帝国四騎士が控えており、皇帝側からはピリピリとした空気が流れている。

 

 

「今回は王国の王女として来て頂けたようだが、人間国家の存続に関わる問題とはどういった意味かな?」

 

「あら? 皇帝陛下ならもう知っていると思ったのですが…… カッツェ平野のアンデッドの間引きは両国が行うもの。もしかして最近サボっているんですか?」

 

「獣の形をしたアンデッドの事を言っているのであれば、こちらは当然把握している。その対策も十分にとっている最中だ」

 

「本当に理解しているのですか? アレのせいでカッツェ平野のアンデッドの間引きが滞り、より強いアンデッドはどんどん生まれてしまいますよ?」

 

 

 へー、アンデッドって放っておくとそんな風に発生していくのか、俺は知らなかったなー。

 空気になろうとぼーっと思考するモモンガ。

 二人の煽り合いを聞きながら、面倒くさい上司が集まるとこんな感じだったなと嫌な記憶を思い出す。

 

 

「無論その事をふまえて早急にアンデッドを倒す部隊を編成しているし、こちらにはフールーダ・パラダインという存在がいる。そちらこそどうなのかな? 王国にあの化け物を倒す術がお有りかな?」

 

「老齢のお爺さんを酷使するなんて…… 帝国は人材不足ですか? こちらにもガゼフ・ストロノーフという存在がいるので問題はありませんよ。秘宝を装備した彼は周辺国家最強ですから」

 

 

 ネムを連れてこなくて良かった。ブレインなんて飽きて寝そうになっている。仮面をしてても分かるぞ。

 

 

「はぁ、不毛な話はやめて本題に入らせてもらいたい。一体何が言いたくて来たのかね?」

 

「確かに毛が無いのは大変ですね。あの化け物を倒す人材が不足している帝国を王国が善意で手伝ってあげます!! これで頭皮の―― あっ、失礼しました。カッツェ平野の問題は解決ですよ!!」

 

「我が国はフールーダ以外にも十分な人材がある。そちらに借りを作るほど逼迫はしていない。王国こそ黄金のメッキでも溶かして人材育成の費用に充てた方がよろしいのでは?」

 

 

 皇帝って凄いな。あんだけ煽られたら普通の人は表情に出るだろうに…… あとラナーが遊びすぎだ。

 

 

「困りましたねぇ…… 事は周辺国家全体に関わる問題ですので、証拠もなく信じるわけには…… そうですわ!! お互いにアレを倒すだけの力があると示せば良いのです!! あのアンデッドを倒すには量よりも質が重要です。フールーダ様とガゼフ様の実力は十分に分かっています。ですのでその方以外でアレを倒せる者をお互いの国から選出して、実力を示す交流試合をしませんか?」

 

(長々と話していると思ったら、ラナーはそういう風に持って行きたかったのか……)

 

 

 ラナーの話を聞いて、モモンガはなぜ今回ブレインが連れてこられたのか理解した。

 

 

「確かに相手を納得させるだけの材料を示すのは道理だ。その試合を承諾してもいいが、まさか依頼すれば良いだけの冒険者を選手にするとは言わんだろうな?」

 

「ええ、勿論です。いざ討伐するとなったら冒険者の御力もお借りしますが、今回はそれでは意味が無いですからね」

 

(一体何を考えているこの女…… 王国のアダマンタイト級を使わずにアレを倒せるのか? ハッタリで此方を退かせようとしている?)

 

 

 間違いなく試合の結果によっては何かしらの要求があるはず。勝負せずにその要求を通そうとしているのかもしれないが、人材が無いと言われたままでは此方も退くのは分が悪い。寧ろここで王国の脆弱さを知らしめる事が出来れば、手持ちの札が一枚増える事にも繋がる……

 

 

「良いだろう。ああそうだ、アンデッド討伐のためと言うのならばチーム戦にしようじゃないか。六人以下の集団対集団で試合をしよう」

 

(ふっ、こう言えばお前は人数を揃えられん。知っているぞ。戦争の度に農民を徴兵して専業兵士が少なく、度重なる問題で王国には今ロクな兵士が残っていない事。王国では魔法詠唱者(マジックキャスター)の評価が低く、宮廷魔術師のレベルが低い事。それで我が帝国を超えるチームなど組めるものか!!)

 

 

 此方には四騎士、そしてフールーダの弟子達がいる。フールーダの弟子達の中には第4位階を使える程の凄腕の魔法詠唱者(マジックキャスター)もいるのだ。前衛と後衛で十分な実力を持ったチームが組める。

 

 勝った。

 

(ハッタリが効かなくて残念だったな!!)

 

 

 この会議で一番の良い笑顔をしてラナーの顔を見るジルクニフ。

 

 

「それは良いですね!! では日時を決めましょうか」

 

 

 余りにもあっさり了承されてしまった。

 ラナーの笑顔に不気味さすら感じたジルクニフだったが、こちらからも提案した以上もう止まることなど出来ない。瞬く間に試合の日程は決まった。

 

 今のクライムの家庭教師などジルクニフは知らなかった…… 彼の失敗、不運はそれだけだろう。

 

 

 







感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。