もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap11 吸血鬼ブレイン

 ブレイン・アングラウスは『領域』を発動させる。次々と踏み込んでくる冒険者たちを尋常ではない能力で血汐に染める。

 

 とはいえ、深傷は負わせない。刀が皮膚を斬る瞬間に返すため、見ためほどの傷ではない。が、圧倒的に傷を受けて相手の戦意が挫かれる。エ・ランテルの郊外で捕らえられ、吸血鬼となったブレインは今まで到達できなかった高みにいた。

 

 彼は他の二人と共に街道に出現する恐怖の対象を演じていた。今の彼にとってはミスリル級冒険者は敵ではなかった。一人また一人と次々に傷を受けてへたり込む。

 

 と、突然空気が割れる。細身のランスを構えた深紅のフルアーマーの少女が一撃で他の戦士──スレイン法国の人間──を倒す。ブレインは立ち竦み、彼女の神々しいまでの美しさにうっとりする。彼女こそがブレインを高みに連れていってくれた天使だ。

 

 彼に与えられた役割はミスリル級冒険者たちを恐怖させ、主人(シャルティア)に見事殺されることだ。

 

 ブレインは静かに目を閉じる。我が生涯に悔いなし──いや、まてよ?

 

 ブレインは目を開く。訪れる死に恐怖する。──まだ、死ねない。

 

 正確には既にアンデッドなのだから死んでいるのだろうが……

 

 ブレインはシャルティアのランスをかわす。そして背を向けて一目散に逃げ出した。

 

 今は死ねない。好敵手(ガゼフ)ともう一度立ち会うまでは……

 

 

 

 

 

 

「逃げられたでありんすか」

 

「………あ、ああ……凄い。助けていただきありがとうございました……ああ……あああ……」

 

 イグヴァルジは腰を抜かしていた。その股間に染みが広がっていく。

 

 アインズは倒した漆黒聖典の一人の胸元からスレイン法国の文書を取り出して高々と掲げて皆に見せる。これで“深紅と漆黒”がスレイン法国の工作員を倒し、彼らが操る強力なヴァンパイアを追い払った、という既成事実ができた。しかし……

 

「少うし人選を誤ったでありんす」

 

 シャルティアはブレインが去っていた方角を見ながら呟く。

 

「……ああ。こっちもだな……」

 

 アインズは白目を剥いて気絶しているミスリル級冒険者たちを眺めながら呟く。どうにかまともに起きていたのはイグヴァルジとモックナックの二人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの街に着くと街の入口で冒険者組合長のアインザックが待ち構えていた。

 

「やあ、シャルさん、モモン君、よくやってくれた。君たちがいなかったら全滅していたろうね。いや、ありがとう」

 

「そんなことはありんせん。皆が力を合わせたに過ぎんせん」

 

 シャルが謙遜する。

 

「シャルさん! 俺たちが生きて戻れたのはあんたたち、いや、貴女方のおかげ。ありがとうございました。……足手まといな俺たちを助けていただいて何てお礼を言ったら良いか……ウック……」

 

 イグヴァルジも今やすっかりシャルの熱烈な信奉者となっており、アインズは思わず苦笑する。賞金を辞退すると言って聞かないミスリル級冒険者たちに、それならばと皆で酒場に行き、酒と料理を振る舞うことにした。

 

 残念ながらアダマンタイト級にはまだなれなかったものの、エ・ランテルで比類なき冒険者としての名声は得ることができたのでまずまずといったところだろうか。

 

 

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼ。魔術師協会から一人の初老の男が出てきた。彼はアインズの命を受けて魔術師協会でユグドラシルには存在しなかった魔法のスクロールを購入したのだった。

 

 セバスは腰に挿した戦果(スクロール)に満足げに目をやり、次に腕時計を見る。

 

 ──少し急いだ方が良いですね──セバスは裏道に入る。少々治安が悪いが、帰り道の短縮になるからだ。

 

 通りに面した裏口の扉が開き大きなゴミ袋を担いだ男が出てきてゴミ袋を放り投げる。セバスはゴミ袋の側を通り過ぎようとする。と、セバスの足が止まった。ゴミ袋の口から伸びるか細い女の腕がセバスのスラックスの裾を掴んでいた。

 

 窶れた女が姿を現す。

 

「……離してくださいませんか? それとも──」

 

 セバスは優しい声をかける。

 

「貴女は助けが欲しいのですか?」

 

 

 

 

 

 

 ブレインは走り続けていた。アンデッドになって疲労がないことを幸いに無我夢中で逃げていた。

 

 創造主(シャルティア)を裏切った彼には逃げる以外に道は残されていなかった。

 

「──どうやら追ってこないみたいだ」

 

 しかし、逃げ切ったとは思わなかった。逃がされたのだ。あの真祖(シャルティア)が本気で追いかけてきたなら直ぐに捕まっただろう。

 

 ブレインは何者かの気配に刀を構える。

 

「──ほう。なかなかやりおるようじゃな。しかし──」

 

 目の前に現れた老婆に思わず気を殺がれる。ブレインは本能的に直感する。

 

 ──この相手は……強い。

 

 老婆はブレインに向かい無防備に近付く。

 

「……うん? お主ヴァンパイアじゃな。ふむ。さしずめ強さを求めんがため、人間を辞めたか。よせよせ。お主には勝てん……お主……ブレイン、ブレイン・アングラウスではないか? ふむ。随分と見違えたの」

 

 ブレインは思い出す。かつて王国のアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”の死者使い(ネクロマンサー)リグリット・ベルスー・カウラウ──かつて対戦したが歯牙にもかけられてもらえなかった。だが、今は──ブレインはニヤリと嗤った。

 

 

 

 

 

 

「……セバス様。その女をどうするおつもりですか?」

 

 ソリュシャンはベッドの上の女を見ながら尋ねた。セバスが拾ってきた女はソリュシャンにより大治癒(ヒール)が行われた上に身体もお湯で清められ、ボロ切れのようだった面影はなくなっていた。

 

「当分の間、ここで保護することにします」

 

 セバスは(ツアレ)を見つめながら答えた。ソリュシャンは色をなす。アインズ様からは極力目立つ行動を控えよ、と言われていたのではないか?

 

「……では、アインズ様にご報告すべきでは?」

 

 ソリュシャンは引き下がらなかった。この任務を失敗すれば、それはソリュシャンのみならず戦闘メイド(プレアデス)への評価が失墜することになりかねない。

 

「……いや、その必要は無いでしょう。アインズ様にはそんな些細なことをお耳にいれるべきではないかと」

 

 セバスはソリュシャンに背を向けたまま言い放った。ソリュシャンは目の前が真っ暗になる。そしてようやくの思いで訴える。

 

「……出過ぎた真似ではございますが、せめてデミウルゴス様にご相談されては如何でしょう?」

 

 セバスはソリュシャンを振り返る。

 

「……わかりました。そうしましょう。──ありがとうソリュシャン」








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