もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap10 鮮血帝の謀略

 バハルス帝国皇帝ジルクニフはスレイン法国との国境手前に軍を留め、野営の準備をする。

 

「陛下、このまま進軍しないのですか?」

 

 先鋒の大将である、ナザミが疑問を口にする。ジルクニフはただ笑う。

 

「まあ、待て。そのうちにアーウィンタールから報せが来るだろう」

 

 ナザミは焦る。彼は幾度も戦場を駈けてきた。このままでは士気が下がるのは明白だからだ。

 

 対するスレイン法国はゲリラ戦に特化した少数精鋭の部隊による一撃離脱を仕掛けてきた。兵はさほど消耗しないが士気は確実に下がる。そうこうしている間に一週間が経った。

 

「陛下にお取り継ぎを! 帝都からバジウッド将軍からの信書です。将軍も追ってお見えになるはずです」

 

 ジルクニフは使者から信書を受け取り一瞥する。そして脇のフールーダに笑いかける。

 

「素晴らしい。爺の見立て通りだ。さて、バジウッドを待つとしよう」

 

 

 

 

 

 

 ジルクニフは兵士を集め演説する。

 

「かのスレイン法国は卑怯にも我が軍を騙り無辜の民を殺害した。しかるにその非を責めんとして兵を挙げた留守中にまたしても我が帝都アーウィンタールにて神殿勢力と結託し、謀叛を起こそうとした。幸いにも迅速なる兵士の働きにより謀叛は未然に防がれた。これより我は帝都に戻り神殿勢力の残党を駆逐する。神殿が担ってきた民への治癒魔法などの一切は当面魔術師協会の管轄とする。尚、一部の兵はここに残り卑怯なるスレイン法国より我が帝国を守ってほしい」

 

 

 兵たちの熱狂的な歓声の中、敵の間諜の首が長槍の先に突き刺され、高々と晒されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国でゲリラ部隊を指揮していた火滅聖典隊長は前線の部下からの報告を受け、敵の陣地に晒される首を確認する。それは間違いなく以前壊滅し行方がわからなくなっていた漆黒聖典の一人のものであった。隊長は歯軋りする。

 

 戦線は互いに睨み合ったまま、時間だけが過ぎていこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ジルクニフはフールーダと共に急ぎ帝都に向かう。フールーダの飛行(フライ)で馬車ならば数日間かかる道程を一晩で戻る。そして予め執務官のロウネから秘密の会合を持ちかけた闘技場の特別貴賓室の扉を開ける。

 

 突然の皇帝の登場に居並ぶ神官たちはギョッとして立ち竦む。

 

「やあ、諸君。なんの相談かね? よろしければ私も加わりたいものだが」

 

 慌てて顔を隠す者、呆然とする者、凄まじい形相で睨み返す者……彼らはジルクニフ皇帝の留守に乗じて皇帝の廃位を画策する謀議をまさに行っていた最中だったのだ。

 

 階下から登ってきたニンブルが兵士たちを指揮して神官達を次々と捕縛する。

 

 神官たちは神に仕える者に相応しくない言葉をジルクニフに浴びせるが、効果は無い。たちまちのうちに連れ出されていった。

 

 と、同じく帝国四騎士の一人、“重爆”のレイナースがやってきた。

 

「おそれいります。今しがた陛下宛にお忍びでリ・エスティーゼ王国の第二王女がお見えになっていらっしゃいますわ」

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国首都アーウィンタール。リ・エスティーゼ王国よりも人々は活気に満ち溢れていた。アダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”の面々は、ラナー王女の護衛のためラナーに同行するラキュースを除き城外で暇をもて余していた。

 

「そういやそいつ、なんか闇黒の力があってラキュースが神官でなかったら喰われてたって本当なのかね?」

 

 ガガーランがイビルアイの持つ魔剣キリネイラムを指で突っつく。

 

「いや、聞いたこと無いぞ。そんな話。……そもそも本来の持主だった十三英雄の悪魔騎士は悪魔と人間の──」

 

「また始まった──」「イビルアイうるさい」

 

 イビルアイは双子に水を差されて黙る。と、いきなり通行人が話しかけてきた。

 

「ガガーランさんですよね? ほ、本物のガガーランさんだ! あの、闘技場、出ませんか?」

 

 ガガーランは思わぬファンに出会い困惑する。

 

「良かったなガガーラン」

 

 これ見よがしにイビルアイが皮肉を言う。

 

「うーん……遅いね。ちょっと見てこよっか?」

 

 イビルアイは慌ててティナを止める。なんで私が苦労しないとならないのだろう? イビルアイはまだ戻ってこないラキュースを恨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 ジルクニフとの停戦協定は互いの利害が一致して成立できた。これでいよいよ国内の不穏分子の排除ができる。ただ──

 

 ラナーは眉をひそめる。

 

 ジルクニフが出した条件に聖ナザリック教会の庇護というものがあった。ラナーは初めて聞いたが、どうやらトブの大森林の近くの開拓村の一つ、カルネ村に教会があるらしい。カルネ村なら確かガゼフ戦士長が謎のマジックキャスターに出会った場所だ。戻ったらガゼフに聞いてみよう、と思いながらもラナーはこの情報をジルクニフが持っていた事実の背景に思考を巡らすのだった。

 

「あの、ラナー王女。よろしければ私と少し話しませんか?」

 

 ラナーとラキュースは皇城内で声をかけられる。決して美人ではないが、なんとなく男の気を惹く愛敬があった。ラナーは本能的に侮れない相手、だと認識する。

 

 女は名乗らずにただ、ジルクニフ皇帝の愛妾の一人です、と笑った。

 

 

 

 

 

 

 ラキュースがラナーと一緒に皇城から出てきた頃には夕方になっていた。

 

「ようやく出てきたな。やれやれ」

 

 ガガーランは先程からの男の熱烈な求婚に辟易していた。

 

「だからよーオッサン。俺は童貞しか相手にしないんだよ? イビルアイ、お前からも頼むぜ?」

 

 ようやく男を振り切り、王国に戻る道すがら、馬車の中でラナーは宣言した。

 

「王国に戻ったら膿を全て綺麗に出すつもりです。皆も協力してほしい」

 

「……具体的にはどうする?」

 

 イビルアイが尋ねた。

 

「……そうね。王国の闇を仕切る八本指とそれに繋がっている貴族を一掃します」

 

 








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