この辺りは夜間人通りが少ないので目撃者もまだ見つかってません。

『千言万辞』を読むのが寝る前の楽しみの一つなので。
文礼堂さんからは2つの辞書が出ていますが『文礼堂国語辞典』は学習辞書『千言万辞』は引くのではなく読むための辞書と愛好家の間では言われてますねぇ。(伊丹)あっそうですか。
「それを語る時誰もが少年少女の顔に戻り生きる喜びとなる」。

「叶わない事のほうが多く叶えばこの上もなく幸せだがそれがいつしか当たり前となれば輝きを失う」。
益子桑栄感情で刺したっていうより一度じゃ致命傷にならなかったんで何度も刺したってとこだな。

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何か?いえ昨日中西がそこで先生に会うと電話して出ていったので。
普通は私たちが有識者の先生方を集めて編集会議を行い作業分担しながら進めていくんですがこの『千言万辞』は全て大鷹先生一人の手で作られていて…。
中西茂あの先生はこだわりが強すぎて作業遅れるばっかりですよ。
大鷹先生を降ろして国島さん主幹にしましょう。ねっ。
和田の声中西は辞書の厚みを変えずに収録語が増やせるよう薄紙作りに取り組んだり…。

和田の声今風の装丁に変えたりと積極的に動いてました。
出版を間近に控え私も部長として主幹交代を認めざるを得なかったんです。
女子生徒そういや未亜さオヤジと会うって言ってたの昨日じゃね?それな。
あっ!ひょっとして『千言万辞』の大鷹公介先生でしょうか?

「ここでえんか」。エンカ…エンカウンター遭遇の意味でしょうかねぇ。
こういうのは辞書を作る人が一番嫌う言葉だと思ってましたが。
最初は手触りが悪いが使い込んでいくうちにだんだん角が取れて光り輝いていくものなんだ。
例えば…うん例えば愛というのは振り向いても振り向いてもまた振り返ってしまうという切ない心なんだ。

お前…さっき貴重な変化を取り逃しちゃったじゃないか!
友里子私は用例採集っていうんですけどこういう先生が集めたまだ辞書にない言葉をデータに入れたりしています。
そうすると裏が読めなくなるから雑誌でもなんでもこうして2つずつ。

久しぶりのお休みだったので。なかなか休めないんですか?
まあ辞書作りに協力している言語学者は多いですが私たちの本業はやはり論文を書く事なんです。
では第三版の時は本業のほうがお忙しかったんですね?
えっ?その時だけ巻末に国島さんのお名前がありませんでした。
確か大鷹先生は『千言万辞』に専念するために教授を辞められたとか。

この2階に先生が住んでいるのでお手伝いさんがいるんです。
昨夜の9時過ぎ中西さんがここにかけた電話を取ったのは先生ですか?それとも佐知江さん?
君は電話を「取る」と言うんだね。「出る」じゃなくて。

言葉というのは一期一会だといつもいつも言ってるだろうが!
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おや20年以上も前のものを大切になさってるんですねぇ。
他にもペーパーナイフがあるようですがこれ全てお預かりしてもよろしいでしょうか?
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記念のペーパーナイフが遺体の傷痕とぴったり一致した。
今の連中って仕事での電話やメールやらないんだって。
古い内容は消えていくらしいんだけど復元してもらった。(益子)礼はいいぞ。

裏ではとっくに主幹交代の根回しが済んでたって事ですね。
もしそうであれば最初から関わらなかったんじゃありませんかねぇ。
興味があればこそ先生の誘いに応じて初版第二版と関わった。
大鷹先生は世間の知名度は高いですが学会ではあまり…。
言葉集めなんて素人にでもできると下に見られていたようです。

だから先生は一回りも下の国島さんに抜かされて立場がなかったんです。
大学教授を辞めたのも辞書に専念するためだと言ってますが実際は逃げたんだろうと…。
それでも先生のような方がいてくれてありがたいですけどね。
電子辞書や少子化のあおりでやめていく出版社も増えています。
それは私も意外でした。中西が声をかけたところでまた国島さんが戻ってくるなんて思っていなかったんですが…。
『千言万辞』は『文礼堂国語辞典』のアンチで書かれてますから。
不愉快だと思われる表現も多くて。独りよがりだと…。
あなたのように思ってくださる人ばかりだと嬉しいんですけどね。ハハ…。

佐知江の声今から会社を出るから1時間後に公園で会いたいと。

いつだってメモ片手にいますし何かが興味を引いてそれはなんだ?どんな意味だ?なんて質問攻めにされたら大変ですよ。
辞書というのは偉い先生がまともな生活を捨てなきゃできない仕事なんですね。
ええ…奥さんと子供さんもいたそうなんですが逃げられてしまったそうで…。
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これって中西さんが先生の事なんか眼中になかったってせいですかね?
ずっとSNSでやり取りをしていてそのツールを使って電話もしていた。

なのになぜあの夜だけは仕事場の電話を使って呼び出したのでしょう。
内密な話なのに携帯で直接呼び出さないなんておかしいですよね。
言われてやめるような人じゃないのわかんない?よーくわかってますよ。
君と冠城くんは警察学校の同期かもしれませんが僕は今君の上司ですよ。はい。
青木の声あの晩公園前を通った車のドライブレコーダーに映っていたそうです。

忘れ物を取りに寄っただけなら公園には行きませんよね?
中西さんは大鷹先生とうまくいってなかったそうですね。
あなたはその立場を利用して主幹を交代するならと条件を持ち出したんじゃないですか?
これを目にしたあなたは中西さんに裏切られたと思った。

今になって中西は私の名前ではネームバリューがないから表紙なんてあり得ないと…。
「主幹という言葉に取り憑かれていたのはあなたのほうだったようですね」
もし国島さんが犯人ならばなぜわざわざ仕事場に立ち寄り佐知江さんに見られてしまうようなまねをしたのでしょう?

確かに。まるで見つかっても構わないって感じですね。

できた紙を中西さんと国島さんで確認するはずだったんですがこんな状況なので…。
呼び出しは携帯ですか?(佐知江)いえここの電話で。
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初めてお会いした時友里子さんが出してくれたものなんですがそういえば先生は3つも食べてましたね。
先生は甘いものはお好きではないと何かの記事で読んだ事があるのですがまあ味覚というのは変わるそうですから。

先生はこれまでに120万語もの言葉を集めたそうですね。
計算すると一日100以上の言葉を収集した事になります。
通常は20万語も集めれば驚異的と言われるそうですね。
その膨大な下調べがあればこそあの独特な辞書は生まれた。
地位や肩書から離れて自分の好きなものに人生を捧げる。
だからこそなおさらそれができる人が癪に障ってしまう。

辞書に生きるという事は全ての生活を失うという事です。
だからこそあなたは誰にもできない生き方をしている先生の思いに応えたいと思った。

お…おとついの…夜中西に電話でよ…呼び出されて…。


だからこそ複雑な関係を乗り越えて再び手を取り合った。

編纂が無理だと判断されれば出版されない可能性がありましたからね。
しかしながら先生の病気に気づいた中西さんは主幹交代を言い出しました。
私が手伝ったのは今度こそ自分の手柄にしてやろうと思ったからです。
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まさかこう来るとはな…。(芹沢)じゃあ国島は無事出版されるまでの時間稼ぎで…?
「用意していたペーパーナイフで何度も刺して殺した」

取り調べできないからってこのまま終わらせてたまるか。
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あの日は休みでしたが心配になって様子を見に行ったあなたは先生が呼び出されたと聞いて不安になった。
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杉下の声先生のその様子にあなたは隠し通す事を心に決めた。
杉下の声先生のペーパーナイフを持ち去り自分のものとすり替えた。
先生の…いえ先生と私の辞書を守るために私がやりました。
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私がもっと早く病気の事を刑事さんに話してたら何か違ってたのかな…。
持って行ってあげてください。先生の事だから病室でも作業したいって言い出しますよ。
実はまだ30ページも多くて…。でももう青だけですから。
青だけ?青い付箋はもっと内容を削れますの印なんです。

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行くべき方向がわからない時本能的に左に曲がる人が多いそうです。
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辞書作りはお金にならない。老舗の文礼堂さんも時代の波には逆らえなかったのですね。
2つある辞書のうち『文礼堂国語辞典』のほうはすでになくなる事が決まっていました。

失礼ながらこれを覚えるのがやっとの先生に人目を忍んで犯行に及ぶなどという冷静な判断ができるとは思えません。
これは先生が思い出した事を書き留めたのではなく犯人が吹き込んだ事をメモしたんです。
病気に気づいている事を隠し都合良く先生を操ろうとしたんですよ。
事件の前3度目の校正刷りを皆さんがチェックしたものですがあなたのだけ真っ赤。
どんなに語釈を変えようにも『千言万辞』は先生の独断で作られている。

部長の言うとおり先生が飲んでたって薬検索したらアルツハイマーの薬でした。
国島さんにはこれまでいろいろ裏で動いてもらってるんです。

俺は早く結果出して営業戻れりゃそれでいいんだから。
冠城の声先生を確実に呼び出したくて関係者に疎い佐知江さんを利用したんですね。

杉下の声そして主幹交代を先生に頼みに行くという口実で中西さんを仕事場のほうへと連れ出した。
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杉下の声そして隙を見計らって仕事場に入り先生のペーパーナイフを盗んで帰った。
犬猿の仲だと思っていた国島さんが先生の身代わりになったんです。
杉下の声今度は先生を印刷所に呼び出し先生をかばって国島さんが捕まったと吹き込んだんですよ。

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そして先生は国島さんを助けるために自首したんです。
周りがどう思おうとも先生と国島さんは深いところで繋がっていました。

その時が来た時のためにと先生は国島さんに託し国島さんもそれに応えた。
『千言万辞』はそんなお二人によって作られた辞書だったんですねぇ。
いくら売れていようが王道が消えて亜流だけ残るなんてあり得ないんだ!
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あなたはずっとこれを先生が自分への当てつけに書いたものだと感じていたのではないですか?

そう感じるほどにあなたは『文礼堂国語辞典』を愛し正しい言葉を伝える事を使命だと考えてきました。
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「物事がすでに進行しどうにも止められない状態にまで来ている事」
「これまでの事情思うところはいろいろあるがこうなった以上とことん付き合ってやるしかないという考えも多分に含まれている」

「行きがかり」の項ですね。おっよくわかりましたね。
そうですか…。大鷹先生と国島さんの間ではそうした意味を持つ言葉だったんですね。
「基本的にわがままで人を信用せず白であれば黒だとあっちと言えばこっちと事あるごとに突っかかる」
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