トランプ氏に権限はあるのか、米国籍の出生地主義を廃止方針 歴史的経緯は

New American citizens wave American flags while 'America The Beautiful' is sung during a naturalisation ceremony Image copyright Getty Images

ドナルド・トランプ米大統領は、米国で生まれた人は米国籍を取得するという憲法上の権利を、大統領令によって廃止したい方針だが、果たして大統領にその権限はあるのか。

ニュースサイト「アクシオス」のインタビューでトランプ氏は、米国で150年前から続く国籍の「出生地主義」原則を廃止するつもりだと述べた。

「改憲が必要だとずっと言われていたんだが、実はどうだと思う? そんなことないんだ」、「議会制定法でできるのは間違いない。でもそれどころか、単に大統領令でできるらしい」とトランプ氏は述べた。

トランプ氏は、そのための大統領令を準備中だと話した。このインタビュー公表から間もなく、リンジー・グレアム上院議員(共和党、サウスカロライナ州)はツイッターで、「トランプ大統領が提案する大統領令と同様の内容で、法案を提出するつもりだ」と明らかにした。

大統領の発言を機に、果たして大統領が単独でそのようなことをする権限があるのかについて、激しい議論が起きている。さらには、米国への不法移民が国籍出生地主義を悪用しているという主張に、正当性はあるのかどうかをめぐっても、異論が衝突している。

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Image caption 米国市民の資格や権利を定めた合衆国憲法修正第14条は、1868年に採択された

(1) 国籍の出生地主義とは

「合衆国内で生まれ、または合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である」という合衆国憲法修正第14条の冒頭が、出生地主義の原則を定めている。

移民受け入れに対する強硬派は、この決まりは「違法移民を引き付ける磁石」のようなもので、妊娠中の女性が違法に米国に入り出産する、いわゆる「妊娠ツアー」や「アンカー・ベビー(米国で生まれ米国社会定住のための『碇(いかり)=アンカー』の役割を果たす赤ちゃんの意味)」と侮蔑的に呼ばれる行為を促進していると主張する。

「そうやって生まれる赤ちゃんは要するに85年間、米国市民なわけだ。それに伴う福利厚生を全てもらえる。馬鹿げている。やめさせなくては」と、トランプ氏は述べた。

米ピュー研究所が2015年に実施した調査では、米国民の60パーセントが「出生地主義」原則の廃止に反対という結果だった。一方、廃止賛成は37パーセントだった。

(2) 出生地主義の由来は

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Image caption ウォン・キムアークは米国で生まれたが、一度出国すると中国人排除法のため再入国が認められなかった

修正第14条は1868年、南北戦争終結後に採択された。修正第13条が1865年に奴隷制を廃止した後、修正第14条が米国で生まれた解放奴隷の市民権を確定した。

1857年のドレッド・スコット対サンドフォード事件の判決をはじめ、1868年以前の連邦最高裁判決は、アフリカ系米国人は決して米国市民になれないと判断していた。修正第14条が、そうした一連の判例を覆した。

1898年になると連邦最高裁はウォン・キムアーク対米政府事件で、移民の子供にも出生地主義は適用されると確認した。ウォン氏は中国移民の両親のもとに米国で生まれた24歳だったが、中国訪問後に米国に戻ろうとすると再入国が許可されなかった。ウォン氏は裁判で自分は米国生まれなので修正第14条に保護されており、両親の移民資格は影響しないと主張し、勝訴した。

「ウォン・キムアーク対米政府判決は、本人の両親の人種や移民資格を問わず、米国内で生まれた全ての人間は市民権に伴うあらゆる権利を享受する権利があると確定した」、「司法はそれ以来、この件について判断を改めていない」と、米ミネソタ大学移民史研究センターのエリカ・リー所長は書いている

(3) 大統領令で出生地主義は廃止できるのか

法学者のほとんどは、トランプ氏が大統領令で現地主義を終わらせることはできないと一致している。

「大勢が強く反発しているが、究極的にこれを決定するのは裁判所だ。大統領が単独で決められることではない」と、バージニア大学法律大学院のサイクリシュナ・プラカシュ教授は説明する。

プラカシュ教授によると、大統領は「国民」の定義を狭く解釈するよう米移民税関捜査局(ICE)などの連邦政府職員に命令することはできるが、そうすれば国籍が否定される人が政府を提訴するのは必至だ。

その場合はおそらく長い法廷闘争となり、いずれは連邦最高裁が判断することになる。

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Image caption トランプ氏は大統領令で連邦政府職員に、「国民」「市民権」の解釈を限定するよう命令することはできる

共和党幹部のポール・ライアン下院議長は、大統領が単独で行動できるという主張をきっぱり否定した。

「大統領令で国籍の出生地主義を終わらせることはできない」と、ライアン議長はケンタッキー州のラジオ局に話した。

しかし、出生地主義について著書のある米ジョンズ・ホプキンス大学のマーサ・S・ジョーンズ教授(歴史学)はツイッターで、外国人や不法移民の子供が米国内で誕生と共に自動的に米国民になるかどうか、最高裁は判断を示していないと書いた。

「最高裁は個別事実をもとに、ウォン・キムアーク判決との違いを認定する可能性もある。ウォンの両親は認定を受けた、つまり合法の移民だった。両親は正当に認められた形で米国に在住していた」と教授は指摘した。

プラカシュ教授も同意見だ。

「観光ビザや無許可で米国にいる人でも(中略)子供たちは出生に伴う権利として自動的に市民権が与えられる。現代では常にそのように憲法を解釈してきた。しかし、最高裁が決定的な判断を示したことはない」

修正第14条の規定は憲法改正によって廃止することはできる。しかし改憲には、上下両院で3分の2の賛成票が必要となる。

(4) 政治的思惑は――アンソニー・ザーカー(ワシントン)

自分のペンのひと振りで出生地主義は廃止できると、トランプ氏がここへ来てまたしても主張している。それは、中間選挙が11月6日に迫っているという文脈で理解するべきだ。

移民集団の北上に備えてメキシコとの国境に米兵5000人以上を派遣するというホワイトハウス発表と同様に、トランプ氏は選挙を前に、国民の関心を移民問題に向けようとしているようだ。

トランプ氏は2016年大統領選で、移民問題に対する強硬姿勢を自分の選挙戦略の中心に掲げたし、選挙で勝ったのもこの強硬姿勢によるところが大きいと受け止めている。

今後2年間の政権運営に決定的な影響を与えかねない選挙を目前に、トランプ氏は今一度、おなじみの手法に手をつけた。

2017年の世論調査によると、国民の大半が国籍の出生地主義を支持していた。不法移民についても同様だった。反対したのは30%だった。

大統領は自分のために戦っている、共和党が上下両院の支配を維持すれば自分の希望はかなうと、有権者の3割を説得できれば、それだけで十分、大統領は6日の重要選挙区で必要な勝利を獲得できるかもしれない。

「これは選挙とは何も関係ない」と、トランプ氏は最近のインタビューで述べた。

しかし、選挙直前のこのタイミングでの発言だという事実は、無視しがたい。

(5) 出生地主義の国はほかにあるのか

アクシオスへの発言でトランプ氏は、国籍出生地主義は米国にしかないと事実と異なる発言をした。

実際には、カナダ、メキシコ、マレーシア、レソトなど30カ国以上が出生地主義を採用している。

欧州や東アジアには出生地主義の国はない。ただし、英国では片方の親が国民、ないしは永住権を持つ場合、生まれた子供は自動的に国籍を得る。

出生地主義に批判があるのは、米国だけではない。

カナダでは今年8月、中道右派の保守党が党大会で、片方の親が国民ないしは永住権を持つ住民でないならば、国内で生まれた子供に自動的に国籍を与えるべきではないと投票した。

一般党員が出生地主義廃止に賛成したのを受け、アンドリュー・シーア党首は、いわゆる「出産ツーリズム」問題に取り組むため方針をまとめると表明した。

(6) 出生地主義を活用するのは

ピュー研究所によると、2014年の米国では不法移民の両親から27万5000人の赤ちゃんが生まれた。さらに、自分は米国で生まれたが少なくとも片方の親が不法移民の、18歳未満の子供は米国内に470万人いた。

不法移民の親から米国内で生まれる子供は1990年代から2000年代にかけて増え続け、2006年でピークに達したものの、それ以降は減少を続けている。

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Image caption 米国に帰化するための宣誓式を終えた、バングラデシュ出身のハジジャトル・ラフマンさん(29)と娘、生後2週間の赤ちゃんは(昨年8月、ニューヨーク)

そうした子供たちの親の出身国について、ピュー研究所は正確なデータを得ていないが、同研究所の地球移民・人口調査責任者、マーク・ロペス氏は、米国の不法移民の75%は中南米出身だと話す。

「不法移民の親から生まれる子供の大半は、ヒスパニックだ」とロペス氏は言う。

ただし、トランプ氏がどのような表現の大統領令を用意するのかまだ分からないため、対象となるのは不法移民だけでなく、有効な査証で入国している人の子供など、他の一時在留者も影響を受ける可能性があるとロペス氏は指摘する。

取材:ジェシカ・ラッセンホップ

(英語記事 Trump's birthright plan: The legality, politics and history

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