オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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今ではすっかり色んな人が遊びに来るようになったモモンガの家。
そのため魔法を使って中身を改装していき、最初に比べてずいぶん部屋の数も増えた。
中でもネムやエンリは家の近くの温泉に入った後、湯冷めするのが嫌なのかそのまま泊まっていくというパターンが多い。
そして今日来ているのはラナーとクライムだ。
来たと言ってもモモンガが魔法で迎えに行ったのだが、その手のことは慣れたものだった。
「今日はどうしたんだラナー。また冒険にでも行きたくなったか?」
「それも行きたいのですけど、今回は別の件です。例年よりかなり遅くなりましたが、帝国が戦争を仕掛けてくるようなんです」
戦争が起こるかもしれないというのに、ラナーにもクライムにも慌てた様子は無い。
モモンガはよく知らない事だが、帝国との戦争自体は毎年恒例の事なので慣れているのだ。そのせいで国力を削られ続けて王国はボロボロではあるが……
「うちに避難しに来たのか? 部屋はあるから全然構わんが……」
「クライムと愛の逃避行も良いのですけど、今回は戦争そのものを取り止めてもらおうと思いまして」
サラッととんでもない事を言っているが、ラナーなら出来るのだろう。特に疑う事はない。
「カッツェ平野に強めのアンデッドをばら撒いてくれませんか? あっ、それか魔法で平野を吹き飛ばしてくれても構いませんよ!」
ニッコリと笑って提案されたのは、戦場になる場所を使い物にならなくしろというお願い。
まさかラナーからこんな風にぶん投げられる日が来るとは…… お姫様も日々成長しているようだ。
戦争を止める事に協力するのは構わない。
人が死ぬのは出来れば見たくないし、カルネ村に影響があるかもしれないからだ。
でも賢い筈なのにやり方が脳筋すぎないか?
いや、効果はあるんだろうが……
「という訳でやって来ました、カッツェ平野です!」
「周囲は警戒しておりますが、お気をつけくださいラナー様」
「バレたら私が指名手配されそうだ。ブレインと追いかけっこする羽目になるのは御免だな」
アンデッドが跋扈する薄気味悪い平野だというのに、このお姫様はテンションが高い。クライムと肝試しにでも来た気分なのだろうか?
仲良く腕なんか組みやがってと、少々嫉妬心が燃え上がる。
「流石に平野を吹き飛ばしたら、即ブレインとかにバレるからアンデッドを召喚するのが良いかな?」
「そうですね。生物を殺さないようにとだけ命令しておけば、後は大丈夫でしょう」
自分でアンデッドはある程度召喚出来るのにアイテムまで持っているあたり、モモンガがどれだけコレクター気質なのかが分かる。
「
非常に軽いノリで、現地で伝説クラスのアンデッドをどんどん放し飼いにするモモンガ。
ラナーは骨で出来た獣の姿を見て過去にビーストマンを虐殺した伝説のアンデッドだと気づいたが、誰も殺さないように命令をしてあるので大丈夫だろうと何も言わない。
こうして合計10体の
バハルス帝国の皇帝ジルクニフが働いている執務室。
そこに一人の秘書官が駆け込んでくる。
有能なジルクニフはそれだけで察した。
「陛下、ご報告があります」
「何の問題が起こった?」
いきなり問題だと確定され驚いた秘書官だが、すぐさま冷静さを取り戻し報告を続ける。
「カッツェ平野に軍を配置する事が出来ません。現段階で死者はおりませんが、軽傷者は多数です。見たことも無い獣の骨格のようなアンデッドが現れては通り過ぎていくので、現場近くに配置予定だった各部隊は混乱状態です」
「その正体不明のアンデッドの強さはどのくらいだ? 現段階での推測で構わん。現場の意見が欲しい」
「同行していたバジウッド様の判断では、四騎士が全員揃っても一体も抑えきれないとの事です」
帝国四騎士の筆頭、雷光の異名を持つバジウッド・ペシュメルの戦闘においての観察眼は確かなものだ。
帝国でフールーダを除いて、最高戦力である四騎士が揃っても勝てないというのか……
「軍の配置は一度取りやめて撤退せよ。フールーダを弟子達と共に現場に急行させ、情報を持ち帰り次第再び判断を下す。急げ、間違っても戦闘をしてこちらに被害が出ないように厳命せよ!!」
「はっ!! 畏まりました!!」
秘書官が去って行き、執務室の扉が閉まった後でジルクニフは拳を机に叩きつける。
「くそっ、只でさえ例年より遅れているというのにアンデッドだと!! 一体どうなっているんだ……」
今年はアンデッドに何かと嫌な縁がある……
ジルクニフはフールーダが帰還し、新たな報告が上がるのを待つしか無かった。
リ・エスティーゼ王国でも同様の問題が取り上げられていた。
帝国からの宣戦布告は例年より遅れているが必ず来るはず。そのためにも兵士達を準備せねばならないのに、カッツェ平野に現れた化け物アンデッドのせいで一向に進まない。
「はぁ、一体どうすれば良いのか…… 余ではもう……」
国王であるランポッサ三世は、度重なる問題によりすっかりやつれていた。
懐刀であるガゼフが民の為に行動してくれている。それが唯一の救いでもあった。
そんな中、最近ずっと寝込んでいた娘のラナーが部屋にやってきた。
「失礼します。お父様、少しお話ししたい事があるのですが…… 顔色が優れないようですがどうされたのですか?」
「ははは、それはこちらの台詞だぞラナーよ。最近ずっと寝込んでいたのに今日は随分と元気じゃないか」
娘の顔を見ることが出来て少しだけ笑顔が溢れるランポッサ三世。
「ふふふ、今日は少し調子がいいんです。部屋に篭ってばかりだと健康に悪いですから、少しだけお父様とお話ししようかと」
それからラナーと何でもない会話を少しだけしていたが、気が緩んだのかランポッサ三世の口から帝国との話が出てしまう。
「――そうなのですか…… そうですわ!! それなら帝国と一時的な同盟を組むのはどうでしょう? 人間国家の存続に関わるとして、その化け物の退治に王国が力を貸す形で。それなら見返りに、一定期間の不可侵の約束くらいは取り付けられるのではないでしょうか?」
娘の語る言葉は優しく理想的なものだ。人と人が手を取り合い協力する。そんな単純な事を出来なくなってしまった自分が嫌になるが、今回に限っては上手くいくのではないかと思う。
「ははは、相変わらずお前は優しい子だな。そうだな、宣戦布告がいつ来るかと考えてばかりだったよ。帝国に休戦や戦争の先延ばしの意思があるなら、そんな条件を付けるのも良いかもしれん。戦うばかりでは我が国は疲弊し、民が苦しむばかりだからな。時には力を蓄えるための期間を空けるべきなのだろう」
「ええ、時には休むのも大事です!! 今の私は寝てばかりですので、その時は私が交渉に出向きますわ!」
娘との触れ合いで気力を取り戻した国王は、再び仕事に励む。
こうしてラナーの仕込みは完了した。
クライムの家庭教師となり、王城の一角で剣を教えるブレイン。
実技だけでなく、時には自身の経験に基づく戦闘指南も行なっていた。
「いいか、クライム。俺たち剣士は腕を磨くだけじゃ駄目だ。訓練で一対一の戦闘だけ強くなっても実戦では勝てなくなる。戦闘において重要なのは情報と周囲の環境だ。サポートがあるのと無いのでは大きく変わる」
「はいっ!! 乱戦になる事も考慮せよ、味方との連携も意識せよとの事ですね」
人に何かを教えることなど無かったブレインだったが、教師役は中々様になっていた。
「その通りだ。そして、集団の戦いで勝つ為に俺たちが最優先でやる事は一つ…… 分かるか?」
「……敵の能力や人数を調べる事、戦力の把握でしょうか?」
クライムが悩みながらも出した答えに対して、それも必要だが違うと首を振るブレイン。
「
「えっ?」
「一流の
ブレインのあまりの真剣な表情にそんな馬鹿なと思ったが、なんだか納得してしまいそうなクライム。
いや、これまで色んな事を教えてもらい、自分は確かに強くなってきた。
ブレインさんは数々の死闘を経験している強者だ。今回のこれも本当に違いない。
「分かりました!! 戦場で
「それでいい。相手が魔法を唱える前に斬るしかない。さぁ、そのためにも〈瞬閃〉を早く使いこなせるようにならないとな!!」
クライムは王国軍の兵士の誰よりも早く、その強さと脅威を理解し始めた。
ただし、想定している程の