紙媒体の商業漫画のみならず、電子書籍、同人誌と、漫画家の活躍の場は広がっている。
プロとして漫画家1本でやっている方、サラリーマンをしながら副業で漫画を描いている方、同人誌を描いている方……。タイプは違えど、誰もが必ず考えなければいけないのが、お金や確定申告の問題!
「突然ヒットしたら税金が大変なことになる?」「同人誌の作家と商業漫画家の確定申告はどう違うの?」「忙しさにかまけて確定申告してなかったらどうなる!?」といった基本的な疑問から、「仲間と打ち合わせがてら食事をしたら経費にできる?」といった経費の問題まで、漫画家ならではの確定申告の注意点を、アーティストやクリエイターの会計分野での支援を行う公認会計士山内真理事務所の山内先生に伺いました。
――公認会計士・税理士として、アーティストやクリエイター、漫画家さんのサポートをしている山内真理先生ですが、漫画配信サイト「サンデーうぇぶり」にて不定期連載中の『漫画家と税金―確定申告やってみた―』(小学館)の作中にも登場しています。そもそもなぜ、アーティストなどの支援をしたいと考えるようになったのでしょうか?
もともと私自身、アートやカルチャーが好きで、作品や面白いものを生み出す人たちに強い興味とリスペクトを持っていました。また、まわりに新しいアイデアや企画を生み出すことが得意な人たちがいたせいか、そうした環境のなかで刺激を受けた面もあったと思います。
経済学部出身で会計の分野は身近でしたから、クリエイティブに面白いカルチャーや新しい価値を創造していく人たちを会計という分野で応援したいと思っていました。その後、大手監査法人を経て、2011年にはアートやカルチャーを専門領域とする会計事務所を設立しました。
現在は、個人の漫画家さん、プロダクションのサポートも多数行っています。
――漫画家さんは締切に追われて忙しいイメージがあります。執筆作業と同時に確定申告の準備をするのは大変そうですが、みなさんどんな感じでしょうか?
漫画家さんのなかにもいろいろなタイプの方がいらして、数字的な感覚がわかると楽しいし、積極的に学びたいとおっしゃる方ももちろんいらっしゃいます。
とはいえ一方で、お金関係に限らず、事務的なことが苦手で、「苦行の一つ」と捉える方も多いという現実もあります。作品に集中しなければいけない時期になると連絡が取れなくなる方もけっこう多いです(笑)。
作品を生み出す思考の使い方と、会計処理や事務的な作業で使う思考の力は全く違うのだと思います。こちらで原稿スケジュールなどに配慮して連絡を取ることもしばしばです。
――とはいえ、漫画家という職業だからこそ、確定申告は大切という方もいます。
商業漫画家さんの場合、原稿料からあらかじめ10.21%(100万を越える部分は20.42%)が源泉徴収されます(※復興特別所得税含む)。「想定していたギャラと比べて、振込額が少ないかも......?」と思ったことのある方もいるかもしれません。
これは、税金を出版社経由や媒体経由で先払いしているわけです。所得がそこまで高くない場合にも、還付というかたちで税を取り戻すべく、確定申告をしなければなりません。もちろん所得水準が高い場合には追加納付になる場合もあります。
――どんなに所得が低くても、確定申告しなければいけないのでしょうか? 副業で漫画を描いている人でも必要でしょうか?
所得が低くても、個人事業主として所得を得ている以上は、しなければなりません。ただ、1ヵ所の勤め先から給与を得ていて、勤め先で年末調整もしている、なおかつ副業で漫画を描いて収入を得ている、というような方の場合は、副業などの年間所得が20万円を超えなければ、所得税の確定申告は不要になります。(ただし、住民税の申告は必要という点は要注意です。)
また、副業とはいえ本業の作家同様、原稿料からは10.21%源泉徴収されているわけですから、確定申告をすることで源泉税分を幾分か取り戻せることもあるでしょう。
――ちなみに、確定申告を忘れてしまったら、どうなりますか?
商業作家は出版社や媒体などから入る印税や原稿料について源泉徴収されていて、年に1回手元に支払調書が届くことによって、その金額を確認する場合も多いでしょう。支払調書の送付は実は先方の法的義務ではないのですが、同じものを税務署に送付するのは先方の法的な義務になります。ですので、取引の内容は税務署も確認することが出来るのです。
つまり、税務署はあなたの収入を把握しているということ。無申告のままにすれば、税務調査が入り、無申告加算税や延滞税など=ペナルティ税がかかります。(隠ぺいや仮装により所得隠しをしたとみなされると、さらに重たい重加算税が課される場合もあります。)本来納めるべき税金以上になって返ってくることになるわけです。
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――それは避けたい事態ですね。では、いざ漫画家が確定申告をするとき、注意すべきポイントとは?
漫画家さんは収入の波が大きい職業のひとつだと思います。作品がヒットして、単行本が出て、いきなり1千万円単位の収入が入ってくるようなケースも。
所得税は累進課税といって、段階的に適用される税率が上がっていく構造なので、所得の水準が高い年にいつもどおりの確定申告をすると過大な税金がかかってしまうことがあります。
しかし、「平均課税」といって、その年に急に膨らんでしまった印税や原稿料などの所得について、あたかも複数年でならしたかのように所得計算を行い、低い税率で税金計算できる仕組みがありますので、漫画家さんは逃さずにこの制度を有効活用したいところです。
作家さんによっては、平均課税の適用によって数百万単位で税額が変わる、なんてこともざらにあります。ただし、平均課税を適用するためには細かい要件があります。また、確定申告期限である3月15日までに計算書を添付して実際に申告を行わないと適用できませんので、期限を必ず守る必要があります。
――こういう仕組みを知らないと、納税額がかなり違ってきますね。
そうなんです。それから、漫画家さんは一般的な個人事業主と比較して、あまり経費を使わないという傾向があるかもしれませんね。
もちろんこれは人によるのですが、一般には外で交際することに多くの時間やお金を消費するより、他のマンガ作品を読んだり、アニメやゲーム、ドラマ、小説など他ジャンルの作品を多く吸収して、それらを研究することに時間やお金を費やす傾向があるように思います。派手な支出がある方は他の業種より相対的に少ないのではないでしょうか。出版社が取材費などを負担してくれる場合も多いので、なおさら経費負担は少なくて済むのかもしれません。
となると、「印税が増えた分だけ所得になる=所得税が増えてしまう」ことになるので、いろいろな節税策を打ちたいところですよね。
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この記事の執筆者
早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。
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