生活保護とパチンコに関する厚労省調査の内容とは?
誰もが「娯楽まで公共に介入されたくない」と思うのではないでしょうか?(ペイレスイメージズ/アフロ)
2017年3月、厚労省は、生活保護で暮らす人々のパチンコ・公営ギャンブル・宝くじ等に関する調査を開始しました。
結果は遠からず、取りまとめられ報道されるかもしれません。
どのような調査が行われたのでしょうか?
調査の趣旨は?
この調査は、2017年3月3日に全国の都道府県庁・指定都市・中核市の生活保護担当係長に宛てられた、厚労省・保護係長からの事務連絡に記載されています。
「生活保護受給者におけるぱちんこ等の状況の把握について(依頼)」と題する事務連絡には、調査の趣旨が
今般、生活保護受給者 が保護費でぱちんこや公営競技等(以下「ぱちんこ 等」という。) の娯楽を行うことに関する指摘があること等を踏まえ、生活保護受給者におけるぱちんこ等の状況を把握することとしました。
と記載されています。対象期間は2016年度の1年間です。
調査の内容は?
回答用に用意されたExcelシートには、調査内容が下記のように記載されています。
●事項1
生活保護受給者がぱちんこ等を行うことにより、被保護者に対して助言や指導指示を行った件数をご記載ください。また、指導指示の内容や具体的な事例についてご記載ください。
回答欄は、
-件数
-人数
-内訳:件数 ぱちんこ 競馬 競輪・オートレース 競艇 宝くじ・福引きなど
-内訳:人数(人) ぱちんこ 競馬 競輪・オートレース 競艇 宝くじ・福引きなど
-事例(※事例毎に年齢、性別も記載すること。)
となっており、事例には下記の例が記入してあります。
例:【ぱちんこ】47歳男性、保護受給中に傷病により離職した後、ぱちんこに通い始める。通院は定期的にしているため傷病は改善傾向にあるが、ぱちんこに依存気味。主治医の意見も参考に福祉事務所において稼働能力ありと判断したため就職活動を促しているが、ぱちんこへの更なる依存により就職活動もおろそかになっていた。このため週のうち3回以上、HW(筆者注:ハローワーク)での就労支援を受けるように口頭による指導指示を行った。
●事項2
ぱちんこ等の収入申告があった件数をご記載ください。また、収入申告を行った具体的な事例についてご記載ください。
回答欄は
-件数
-人数
-内訳:件数 ぱちんこ 競馬 競輪・オートレース 競艇 宝くじ・福引きなど
-内訳:人数(人) ぱちんこ 競馬 競輪・オートレース 競艇 宝くじ・福引きなど
-事例(※事例毎に年齢、性別も記載すること。)
となっており、事例には下記の例が記入してあります。
例:【宝くじ・福引きなど】38歳男性、訪問時に部屋から宝くじを確認。当せんしたら申告するよう伝える。その後、5万円当せんしたと申告があった。
●事項3
ぱちんこ等の収入があったにもかかわらず収入申告しておらず、不正受給として生活保護法第78条(筆者注:不正受給の取り扱いのこと)を適用した件数をご記載ください。また、不正受給として生活保護法第78条を適用した具体的な事例をご記載ください。
回答欄は
-件数
-合計金額
-内訳:件数 ぱちんこ 競馬 競輪・オートレース 競艇 宝くじ・福引きなど
-内訳:人数(人) ぱちんこ 競馬 競輪・オートレース 競艇 宝くじ・福引きなど
-事例(※事例毎に年齢、性別も記載すること。)
となっており、事例には下記の例が記入してあります。半角・全角は原文ママです。
例:【宝くじ】68歳男性、関係先調査で宝くじ当せん金の振込額が判明し、未申告であった10万円について78条を適用した。
●事項4
(1)生活保護受給者がぱちんこ等を行っていることについて積極的に把握を行っているか。(把握の契機や方法など。)
回答欄には「している」と記入されています。
さらに 「している」場合には把握の契機や方法などを記載 という自由記述欄もあります。
(2)生活保護受給者がぱちんこ等を行った際の助言や指導指示を行う基準の有無と概要、指導状況について
回答欄には「有」と記入されています。
さらに自由記述欄があり、
「有」場合は概要と指導状況など、「無」場合は無い理由などを記載
とあります。
自由記述欄には下記の例が書き込まれています。
例:月の生活費の70%を超える金額をぱちんこ等の娯楽に使っている場合は、助言を行い、80%を超える場合は口答による指導指示を行う。
(3)生活保護受給者が(2)による助言や指導指示に従わず対応に苦慮した具体的な事例
自由記述で、下記の例が書き込まれています。
例:【ぱちんこ】75歳男性、ぱちんこに生活費の70%以上をつぎ込んでいたため、生活状況の改善に向けて毎月、家計簿をつけるにように助言を行っているが、「ぱちんこだけが生きがいなんだ!」と従わず改善しない。
(4)ぱちんこ等を行う生活保護受給者について、専門治療機関(当事者団体含む)につないだ具体的な事例
自由記述で、下記の例が書き込まれています。
例:【競馬】46歳女性、馬が好きで競馬を始め、レースがやっていれば一日中競馬場にいる状況。依存性が認められたため、被保護者に対して病院の受診を助言する。さらに地域の民生委員や保健所への情報提供を行い、連携体制を強化している。
(5)どのような生活保護受給者がパチンコ等を頻繁に行っているかについての見解について
自由記述で、例示はありません。
(6)その他生活保護受給者がパチンコ等を行うことについての意見について
自由記述で、例示はありません。
(7)その他自由記載
自由記述で、例示はありません。
厚労省による1週間後のフォロー
1週間後の2017年3月10日、厚労省保護係から全国の都道府県・指定都市・中核市の生活保護担当者へ、フォローのメールが届きました。
内容を箇条書きで紹介します。
- スロットマシンは「ぱちんこ」に含む
- スポーツ振興くじ等、くじは「宝くじ・福引きなど」の含む
- 福引きについては検証等により金銭や商品券を獲得した事例を記載する
- どれにも当てはまらないものは「その他」
- 一人が複数の事案を行っていた場合はそれぞれ計上(一人がぱちんこ・競馬でそれぞれ助言・指導・指示を受けた場合は、ぱちんこ・競馬がそれぞれ1件・1人)
- 各事例は管内福祉事務所から回答があったものを記載する(都道府県は政令指定都市・中核市以外の市、および町村を取りまとめることになります)
- 今からわざわざ被保護者に「ぱちんこ等を行っているか」と確認する必要はない。現在の指導の変更を促しているわけでもない。
最後に但し書きがあります。
なお、被保護者が過度にぱちんこ等の娯楽に生活費をつぎ込み、本人の健康や自立した生活を損なうようなことは、「最低生活の保障と自立の助長」という生活保護の目的に照らして望ましくないものの、一律にぱちんこ等を行うことは禁止されるものではありません。
このメールに従い、回答用Excelシートも差し替えられましたが、記述例は変更されていません。
それが依存症への対応ですか?
記述例からは、どうしても
「生活保護+ギャンブル・福引き・くじ=不正受給の可能性」
という匂いが感じられてなりません。
また、ギャンブル依存の可能性がある事例や福祉事務所の対応事例に関しては、
「依存性への対応として、それはないのでは?」
と思われるものが並んでいます。
「依存症者が働き始める時は要注意」というセオリー
事項1の記述例(再掲)には
例:【ぱちんこ】47歳男性、保護受給中に傷病により離職した後、ぱちんこに通い始める。通院は定期的にしているため傷病は改善傾向にあるが、ぱちんこに依存気味。主治医の意見も参考に福祉事務所において稼働能力ありと判断したため就職活動を促しているが、ぱちんこへの更なる依存により就職活動もおろそかになっていた。このため週のうち3回以上、HW(筆者注:ハローワーク)での就労支援を受けるように口頭による指導指示を行った。
とあります(太字は筆者)。
しかしギャンブル依存の方々は、就職の可能性があるとなれば、熱心に就職活動をすることが多いものです。
「早く生活保護を抜けて、ケースワーカーにやいのやいの言われずに、もっとたくさんのお金をギャンブルに使いたい」
と考えるからです。
自助グループの方々に話を聞くと、回復して働ける・稼げる状態になって生活保護からも脱却した人々が、自助グループから足が遠のき、さらに深刻な依存状態となって、回り回って自助グループに戻ってくる事例がしばしば語られます。
アルコールや薬物なら、何らかの形で身体に悪影響がおよび、「依存=働けない・稼げない」となる可能性もあります。しかしギャンブルでは身体は悪くならないし、アルコールのように匂うわけでもありません。「酒で失敗して仕事をまた辞めることに」といった回復のきっかけは、ギャンブル依存の場合、訪れにくいのです。
もしも依存状態のご本人が働きたがらないという事実があるとして、ハローワークで就労のために努力させることは、依存状態のご本人にどういう「ご利益」があるのでしょう? 害の方が大きそうに見えます。
それって監視? なにゆえ監視?
事項4の(4)にある例示(再掲)には
例:【競馬】46歳女性、馬が好きで競馬を始め、レースがやっていれば一日中競馬場にいる状況。依存性が認められたため、被保護者に対して病院の受診を助言する。さらに地域の民生委員や保健所への情報提供を行い、連携体制を強化している。
とあります。
まず、競馬場にいて馬を見ているだけですよね? 馬券はほぼ買ってないんですよね? それで、何が問題なのでしょうか?
ギャンブル依存症に対応できる病院は、日本には極めて少ないため、近くに都合よく存在しないことの方が多いでしょう。
いずれにしても経済破綻を伴わないのなら、何かする必要は、特にないように思えます。
しかしこの例では
- 病院の受信を助言
- 地域の民生委員に情報提供
- 保健所にも情報提供
- 連携体制を強化
ということです。
競馬が好きで競馬場にいるのが好きなくらいで、本人のあずかり知らない間に、周辺に監視体制を作られるとは。ああ、怖っ。
調査結果はどう使われる?
来年2018年、生活保護法の再改正と生活保護基準の見直し(おそらく、ほぼ引き下げ)が予定されていることを考えると、この調査結果は、
「生活保護の人々は、もっと厳しく監視されなくてはならない。人権? なにそれ?」
という方向に世論を誘導するのに利用されるんじゃないかなあ……? とガクガクブルブルです。
自分がされたらイヤなことを、「経済力がなくて生活保護が必要」というだけの理由で他の誰かがされるのはイヤですから。
イヤなだけではなく、いつ万一、どういう形で我が身の話になるか分かりません。
自分に生活保護を必要とする状況が発生しないとしても、いったん
「この人は生活保護だからチョメチョメしていいんだ」
という形で人間の安全装置が外れると、いつか
「この人は、自分よりは生活保護に近い種類の人間だから、チョメチョメしていいんだ」
ということで、自分がその「チョメチョメ」の対象になるかもしれません。
私はパチンコに関心ありません。公営ギャンブルの数々には関心ないし、お金や商品券が当たるくじの情報は収集していません。
でも、自分が好きで、自分は魅力を感じて、「人間ならしてはいけない」という悪事でもなんでもないことを「○○だから」という理由で他人にとやかく言われたくありません。
「生活保護なのにパチンコ」だから、とやかく言われるわけではないんです。
私が聞いたことがある「生活保護なのに△△!」の「△△」には、図書館通い・金魚の飼育・花を買ってきて飾る・クラシック音楽のCDを持っている……など、人間なら行う可能性があり、生活保護でさえなければ咎められないであろうことがズラリです。
「ギャンブルやくじである以上、たまには勝ったり当たったりするだろうし、そうなれば生活保護費の不正受給の可能性もある」
という意見に対しては、「可能性が全くない」とは言いません。しかし、なぜ不正受給扱いしなくてはならないのか、理解できないのです。ふつうの娯楽をふつうに楽しみ、勝ったり当たったりしたら「やったー!」という高揚感を味わう自由を、「生活保護だから」で奪わなくて済む方法はありそうなものです。だいたい、たまにしか勝たず当たらないから、ギャンブルやくじが成立するのです。トータルでは負けて損しているものに目くじら立てる意味がわかりません。数百万円以上の金額だったら、「では生活保護を脱却できますね」ということになるかもしれませんが、そんなことはめったにありません。
ともあれ私は、自分が好きで大切にしているもろもろのために、すべての人が自分が好きで大切なもろもろを大切にしつづけられる今日と将来のために、「生活保護での△△」に対するイチャモン(注)のすべてに対して「そんなの認めない」と言い続けるしかないようです。
(注)
「生活保護での△△」が現在の生活保護法違反にとどまらず、犯罪扱いすることについて誰も異論を唱えなさそうなことがらなら、そもそも、生活保護の枠の中でどうにかする必要はありません。裁く法律が、ちゃんと存在しますから。
私が「イチャモン」と言っている相手は、「犯罪ではないがモラルには反しているかもしれない」に対する「モラル違反!」という言挙げや、「市民感情」と呼ばれるものに基づく正義(自称)、さらに「法で裁けないなら、法で処罰できるようにしちゃえ」という動きです。