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国語 高等学校学習指導要領分析 | 高等学校・高等学校の先生向けサービス

2018(平成30)年3月に告示された高等学校学習指導要領の分析報告

1.今回の改訂の特徴

【1】育成する資質・能力について

「国語」改訂のポイントは〈実社会〉と〈言語文化〉

今回の学習指導要領の改訂は、「共通性の確保」と「多様性への対応」という観点に基づいて、一人一人の生徒の資質・能力を伸ばす学校教育とそれを通してよりよい社会を創るという「社会に開かれた教育課程」の実現を目指すものである。
国語が学習の基盤となる資質・能力の一つである「言語能力」の育成の要となる教科として位置づけられている点は、従来と何ら変わらない。国語という教科を通して、「言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力」を育むことが求められている。「言葉による見方・考え方」については、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(以下、「答申」)の「③国語科における「見方・考え方」」に、「自分の思いや考えを深めるため、対象と言葉、言葉と言葉の関係を、言葉の意味、働き、使い方等に着目して捉え、その関係性を問い直して意味付けること」と記載されている。
ただし、国語は、今回の学習指導要領の改訂において、記載事項も科目構成も大きく変化している。それは、「総則」で謳われた次の「三つの柱」〔(1)知識及び技能の習得 (2)思考力、判断力、表現力等の育成 (3)学びに向かう力、人間性等の涵養〕に基づいて、教科の「目標」や「内容」が再整理され、科目の再編が行われたからである。
新学習指導要領の国語における「目標」は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語について、その特質を理解し適切に使うことができるようにする。
(2)生涯にわたる社会生活における他者とのかかわりの中で伝え合う力を高め、思考力や想像力を伸ばす。
(3)言葉のもつ価値への認識を深めるとともに、言語感覚を磨き、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、生涯にわたり国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。
「目標」には、「生涯にわたる社会生活」((1)・(2))や「他者との関わり」((2))、「我が国の言語文化の担い手としての自覚」((3))といった要素が新たに加えられている。それにともなって、「実社会・実生活に生きて働く国語の能力」を育成する「現代の国語」と、「我が国の言語文化への理解」を深める「言語文化」の二つが、共通必履修科目として設けられている(「答申」より)。
このように、育成する資質・能力という面における改訂のポイントは、言語活動を通して他者と関わり、実社会を生きる力を育成する点(〈実社会〉)、そして我が国の言語文化を享受し、その担い手として継承・発展させる態度を育成する点(〈言語文化〉)の二点であろう。これらは現行の学習指導要領にも含まれている点なのだが、今回の改訂においては、後述するように、国語の科目構成や各科目の「目標」や「内容」において色濃く反映されている。
こうした点がクローズアップされた背景には、「答申」で言及されているように、子どもたちの学びを人生や社会に確実に結びつけようとする動きがあると考えられる。また、新設された「前文」に掲げられた教育基本法第1条・第2条に明記された教育の目的や目標を踏まえて、伝統や文化に関する教育や道徳教育の充実をはかる動きが高まっていることも指摘できるだろう。道徳教育を各教科の特質に応じて行うという「総則」の方針に沿えば、国語においてもその影響が表れるのは当然である。

【2】科目構成と学習内容

【表】科目構成の変遷

国語の科目構成の変遷

科目再編と「主体的・対話的で深い学び」

国語では科目の再編が行われた。必履修科目は、現行教育課程(以下、現行課程)の「国語総合」が「現代の国語」と「言語文化」に分けられ、選択科目は、現行課程の「国語表現」「現代文A」「現代文B」「古典A」「古典B」が、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」となった。
単純に比較することはできないが、現行の「国語総合」の内容が専門分化され、〈実社会〉に特化した「現代の国語」と〈言語文化〉に特化した「言語文化」として再編されたと捉えることも可能だろう。選択科目においても、現行の「現代文A」「現代文B」が、〈実社会〉に特化した「論理国語」と〈言語文化〉に特化した「文学国語」として再構成され、「国語表現」は、名称は変わらないが、〈実社会〉に対応したものに改められていると言える。なお、古典は、「文学国語」と同様に〈言語文化〉を学ぶ科目として、現行の「古典A」「古典B」が「古典探究」にまとめられたと見られる。
また、今回の改訂では、「総則」に示されているように、知識の理解の質を高める「主体的・対話的で深い学び」の実現が目指されており、そのための授業改善が求められている。こうした点も、後述のように、各科目の学習内容に変化をもたらしており、今後、高等学校での指導や大学入学試験のあり方に影響を及ぼしていくと考えられる。
履修科目選択については、大学進学者の多い高等学校では、現行課程で「国語総合」「現代文B」「古典B」を履修していたのが、「現代の国語」「言語文化」「論理国語」「古典探究」という組み合わせになることが予想される。この場合、現行の「現代文A」「現代文B」が「論理国語」「文学国語」に再編されたため、「論理国語」を選択すると、小説などの文学作品を教材として扱う機会が減少する可能性がある。

〈現代文〉

「現代の国語」
・「言語文化」と対になる必履修科目。現行課程の「国語総合」の枠組みを維持しつつも、〈実社会〉を生きるために必要な言語能力の育成に重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「認識や思考を支える働き」に注目させることが主眼となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・教材を取り上げるうえで配慮すべき観点として、「科学的、論理的に物事を捉え考察し、視野を広げるのに役立つこと」が掲げられている。この項目は現行の「国語総合」から継承されたものだが、「言語文化」の側には盛り込まれておらず、「現代の国語」の特徴をよく表している。たとえば、〔知識及び技能〕において、常用漢字を含め、実社会を生きるのに必要な語句を習得することだけでなく、主張と論拠の関係や推論の仕方など、「情報の扱い方」を理解することが目指されている。また、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」や「読むこと」においても、文章を扱うだけでなく、資料の引用や図表の読み取りなどを含むさまざまな言語活動が、従来以上に多岐にわたって挙げられている。これらは今回の改訂による新しい動きと言えるだろう。
・〔思考力、判断力、表現力等〕において、「書くこと」「読むこと」に加えて「話すこと・聞くこと」の項目が設定されている点が「言語文化」と異なっている。ここには「主体的・対話的で深い学び」の実現という観点が導入されたことによる変化が顕著に表れており、たとえば、自分の考えを発表するだけでなく、議論や討論を通して多様な考えを引き出すなど、他者とのやりとりの中で、他者の反応をフィードバックしながら自分の考えを形成することが求められている。

「言語文化」
・「現代の国語」と対になる必履修科目。現行課程の「国語総合」の枠組みを維持しつつも、我が国の〈言語文化〉への理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「文化の継承、発展、創造を支える働き」に注目させることが主眼となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・教材を取り上げるうえで配慮すべき観点として、「我が国の伝統と文化に対する関心や理解を深め、それらを尊重する態度を育てるのに役立つこと」が掲げられている。この項目は現行の「国語総合」から継承されたものだが、「現代の国語」の側には盛り込まれておらず、「言語文化」の特徴をよく表している。たとえば、〔知識及び技能〕において、「我が国の言語文化に特徴的な」語句や表現の技法の習得が目指されており、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では「伝統行事や風物詩などの文化に関する題材」によって随筆などを書く活動が挙げられ、「読むこと」では「我が国の伝統や文化について書かれた解説や評論、随筆など」を読む活動が挙げられている。また、教材を選ぶ際には、「我が国の言語文化への理解を深める学習に資するよう、我が国の伝統と文化や古典に関連する近代以降の文章を取り上げること」に留意することなどが求められている。

「論理国語」
・選択科目。現行課程の「現代文A」や「現代文B」の枠組みを維持しつつも、〈実社会〉を生きるために必要な言語能力の育成、とりわけ「論理的、批判的に考える力」や「創造的に考える力」を養うことに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「言葉そのものを認識したり説明したりすることを可能にする働き」に注目させることが主眼となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。
(2)論理的、批判的に考える力を伸ばすとともに、創造的に考える力を養い、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「読むこと」の教材を選ぶ際の留意点として、「近代以降の論理的な文章及び現代の社会生活に必要とされる実用的な文章とすること」が掲げられているように、実社会との結びつきだけでなく、学術的な学習につながる抽象度の高い内容を含んだ科目として位置づけられている点に、この科目の特徴がある。たとえば、〔知識及び技能〕において、「論証したり学術的な学習の基礎を学んだりするために必要な語句」の習得や、「文章の構成や展開の仕方」を捉えること、さらには「主張とその前提や反証など情報と情報の関係」・「情報を重要度や抽象度などによって階層化して整理する方法」・「推論の仕方」などの「情報の扱い方」を理解することが目指されている。
・「現代の国語」と同様に、この科目には、「主体的・対話的で深い学び」の導入による変化が顕著に表れていると言える。たとえば、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では、「立場の異なる読み手を説得するために、批判的に読まれることを想定」することや、「多面的・多角的な視点から自分の考えを見直」すことなど、他者の考えを受け入れることによって自分の考えを深めていく活動が求められている。また、「読むこと」においても、ただ文章を読むだけではなく、「論理的な文章や実用的な文章を読み、その内容や形式について、批評したり討論したりする」など、自ら表現し、他者と対話することにつながるような活動がさまざまな形で挙げられている。

「文学国語」
・選択科目。現行課程の「現代文A」や「現代文B」の枠組みを維持しつつも、必履修科目である「言語文化」と同様に、我が国の〈言語文化〉に対する理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「想像や心情を豊かにする働き」に注目させることが主眼となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばすとともに、創造的に考える力を養い、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「読むこと」の教材を選ぶ際の留意点として、「近代以降の文学的な文章とすること」が掲げられている。〔知識及び技能〕においても、「文学的な文章を読むことを通して、我が国の言語文化の特質について理解を深めること」が求められている。
・この科目においても、「主体的・対話的で深い学び」の実現が目指されている。たとえば、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では、「小説や詩歌などを創作し、批評し合う活動」や「共同で作品制作に取り組む活動」など、他者との対話において自分の考えを広げ深めることが目指されている。また、「読むこと」では、ただ文章を読むだけではなく、作品について「様々な資料を調べ、その成果を発表したり短い論文などにまとめたりする活動」など、知識を相互に関連付けたり、情報を精査したりして自分の考えを形成することが求められている。

「国語表現」
・選択科目。現行課程の「国語表現」の名称や枠組みを維持しつつも、〈実社会〉を生きるために必要な言語能力の育成に重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「自己と他者の相互理解を深める働き」に注目させることが主眼となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、実社会における他者との多様な関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「実用的な文章」についての知識の習得や、「実社会の問題」に関わる事柄をめぐる話し合い、「実務的な手紙や電子メール」を書く活動など、実社会における言語活動を想定した内容が従来以上に幅広く盛り込まれている。
・この科目にも、「主体的・対話的で深い学び」の導入による変化が顕著に表れている。たとえば、「相手の反論を想定して論理の展開を考える」や「相手の同意や共感が得られるように表現を工夫する」など、他者との関わりにおいて「自分の思いや考えを広げたり深めたりすること」が目指されている。
・現行の「国語表現」では、「話すこと・聞くこと」と「書くこと」に明確な区別を設けず、生徒の実態に応じていずれかに重点を置いて指導することができるとされていたが、今回の改訂では、両者を区別し、前者に「40~50単位時間程度」、後者に「90~100単位時間程度」と配当すべき授業時数が明記されている。

〈古典〉

「言語文化」
・「現代の国語」と対になる必履修科目。現行課程の「国語総合」の枠組みを維持しつつも、我が国の〈言語文化〉への理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。とくに言葉の「文化の継承、発展、創造を支える働き」に注目させることが主眼となる。文語のきまりや訓読のきまりを理解し、古典を「読む(現代語に訳す)」だけでなく、主体的に伝統的な言語文化を理解することも重視されている。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚をもち、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・「読むこと」の古典に関する指導は、「40~45単位時間程度を配当する」とし、古文と漢文の割合については、「一方に偏らないようにすること」としている。現行課程の「国語総合」では「読むこと」の指導に75~95単位時間を配当することが想定されており、古典と近代以降の文章の割合はおおむね同等とし、古典における古文と漢文の割合は「一方に偏らない」としていた。よって、必履修科目における古文と漢文を「読むこと」に当てる授業時間数に大きな変化は見られない。
・「主体的・対話的で深い学び」によって「我が国の言語文化に対する理解を深める」ことができるよう、現行課程の「国語総合」には見られなかった言語活動例が提示されている。たとえば、〔思考力、判断力、表現力等〕の「書くこと」では、〔知識及び技能〕に示された「本歌取りや見立てなどの我が国の言語文化に特徴的な表現の技法とその効果について理解すること」を受けて、「本歌取りや折句などを用いて、感じたことや発見したことを短歌や俳句で表」す活動が挙げられている。また、「読むこと」では、「和歌や俳句などを読み、書き換えたり外国語に訳したりする」ことを話し合いにつなげる活動や、「古典から受け継がれてきた詩歌や芸能の題材、内容、表現の技法などについて調べ」ることを発表や文章化につなげる活動などが挙げられている。

「古典探究」
・選択科目。現行課程の「古典A」や「古典B」の枠組みを維持しつつも、必履修科目である「言語文化」と同様に、我が国の〈言語文化〉に対する理解を深めることに重きを置いている点が特徴となる。
・科目の目標は、以下のとおり設定されている。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の伝統的な言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、古典などを通した先人のものの見方、感じ方、考え方との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって古典に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
・古典作品を主たる教材とする科目であるが、科目の目標の(1)(3)は、「文学国語」とほぼ同じである。「言語文化」と同様に、単なる教養的知識ではなく、古典が現代を生きる生徒の中に生きて働くものとなることを求めている。
・現行学習指導要領にも記されていたことではあるが、知識を獲得するだけでなく、獲得した知識を基に自身の考えを深め、それを「論述する」「発表する」「議論する」など、他者に向けて発信したり他者と交流したりする活動がより重視され、「伝え合う力を高める」ことがはかられている。「和歌や俳諧、漢詩を創作したり、体験したことや感じたことを文語で書いたりする」といった創作活動についても詳述されている。
・「古典を読むことを通して、我が国の文化の特質や、我が国の文化と中国など外国の文化との関係について理解を深める」「時間の経過による言葉の変化や、古典が現代の言葉の成り立ちにもたらした影響について理解を深める」といった通時的学習の要求がより強く打ち出されている。

2.高等学校への影響

新学習指導要領では、社会で求められる資質や能力、また豊かな創造力を備え持続可能な社会の創り手として生きる力を育むことが重視されている。そうした力を育むためには、知識伝達型の授業にとどまらず、生涯にわたって探究を深めることが可能になる「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善が必要だという認識に立ち、国語科には生徒の言語活動を充実させる要となることが求められている。

〈現代文〉

必履修科目として新設された「現代の国語」では、「現代の社会生活に必要とされる論理的な文章及び実用的な文章」を読む力や、「文章や図表などに含まれている情報を相互に関連付けながら」解釈したり評価したり考えを深めたりする力を育むことが従来に増して求められている。これまであまり重視されてこなかった、さまざまな「実用的な文章」に取り組み、文章を単独で読解するだけでなく、複数の文章や図表などを相互に関連付けて情報を精査し読み解き、考えたり推論したりできるように指導することが必要となる。「実社会」で必要な国語という観点は、選択科目の「論理国語」や「国語表現」にも取り入れられている。たとえば「論理国語」の「読むこと」においては、「近代以降の論理的な文章」と「現代の社会生活に必要とされる実用的な文章」を教材とし、情報を適切に扱う、必要に応じて関連資料を参照し資料を読み解く、といった従来よりも多様な言語活動を指導することが求められる。「国語表現」では、「話すこと・聞くこと」において、「実社会の問題や自分に関わる事柄」の中から話題を決め、「他者との多様な交流」を想定して情報を収集、整理する活動をする、「書くこと」において、社会的な話題を題材にする、文章と図表や画像などを関連付けながら企画書や報告書を作成する、実務的な手紙やメールを書く、といった、従来以上に実社会を意識した言語活動を指導することが求められる。
また、「現代の国語」では、「読むこと」よりも「話すこと・聞くこと」、それ以上に「書くこと」に授業時数を配当することが求められている。自分の考えや目的に応じて調べた内容を書き表すことを今まで以上に指導する必要があるだろう。また、書かれたものや発表されたものを読んだり聞いたりした生徒が、批評したり議論したりする活動を取り入れていくことも予想される。ただし、こうした活動を「評価」することは難しい面もある。国立教育政策研究所で製作中の評価基準についての参考資料などを参照しながら、模索していくことになるだろう。
もう一つの必履修科目として新設された「言語文化」では、「生涯にわたる社会生活に必要な国語」の能力を身に付け、「我が国の言語文化の担い手」となる力を育むことが重視されている。たとえば「読むこと」において「我が国の伝統や文化について書かれた解説や評論、随筆」などを読むこと、「異なる時代に成立した随筆や小説、物語」などを比較することが取り上げられ、「我が国の言語文化への理解を深める」ための活動に重きを置くことが求められるだろう。また、「我が国の文化と外国の文化との関係」を理解したり、和歌や俳句などを「外国語に訳したりする」ことも取り上げられており、他教科との関連を積極的に図るという新学習指導要領の意図が反映された授業を試みる動きも出てくるかもしれない。
現行課程の「国語総合」に組み込まれていた、小説などの文学的文章を読んで人物や心情などを理解することは、主に選択科目である「文学国語」に委ねられているようにも考えられる。そうすると前述のように、「文学国語」を選択しない場合は、文学的文章の学習時間が従来よりも少なくなる可能性がある。
その他としては、「コンピュータや情報通信ネットワークを積極的に活用する機会を設ける」こと、「学校図書館」などを活用して生徒の「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善をすることなどもあげられており、こうした点でも、従来よりも多面的な言語活動を展開していくことになるだろう。
今回の改訂は大きな変化を含むものであり、また学校全体でカリキュラム・マネジメントをすることも推奨されている。しかし、すべてを一気に変えることには無理があるし、高校現場では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を始めとする入試に向けた対策も一定程度なされるだろう。そうした入試改革への対策を念頭に置きつつ、徐々に授業の改善に取り組んでいけばよいのではないか。

〈古典〉

「古典探究」の〔思考力、判断力、表現力等〕の「読むこと」には、「古典の作品や文章について、内容や解釈を自分の知見と結び付け、考えを広げたり深めたりすること」、「関心をもった事柄に関連する様々な古典の作品や文章などを基に、自分のものの見方、感じ方、考え方を深めること」、「古典の作品や文章を多面的・多角的な視点から評価することを通して、我が国の言語文化について自分の考えを広げたり深めたりすること」など、「主体的・対話的で深い学び」をふまえたと思われる記述が見える。古典の学習では、文語文法や訓読法に習熟して原文を正しく解釈することが基本となるのはもちろんであるが、文章を現代語訳することで完結してしまうのではなく、そこに描かれている事柄や内容を手がかりにして、生徒が自身の興味・関心に応じて学習の幅を広げ、考えを深める活動が求められている。クラス全体で単一の課題に取り組むのではなく、各人が課題を設定して学びを深めていく学習活動などが考えられる。
また、「各科目にわたる指導計画の作成と内容の取り扱い」には、「生徒がコンピュータや情報通信ネットワークを積極的に活用する機会を設けるなどして、指導の効果を高めるよう工夫すること」とある。古典の学習においても、文法や語彙の習得にコンピュータを活用してドリル問題などに取り組み、学習成果をデータとして蓄積することで、学習の進捗状況を的確に把握できるようにしたり、古典常識に関する知識を、情報通信ネットワークを活用して授業中に調べることで、音声や画像の情報を、クラス内で共有したりすることもできるだろう。
選択科目については、大学進学者の多い高等学校では、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」(各4単位)のうちから2科目を履修するのが一般的だろう。現在のセンター試験が「国語総合」を出題範囲としているものの、実際には「国語総合」の学習だけでは古典で高得点を獲得することが難しいことや、センター試験と共通テストの難易度は同程度となることが予想されることなどから、大学入試を目指す生徒には、「古典探究」の履修が必要かと思われる。総則の「教育課程の編成」において、「多様な各教科・科目を設け生徒が自由に選択履修することのできるように配慮するものとする」とあることから、生徒に主体的な学びを促すためにも、単一のカリキュラムではなく、一人一人の生徒のニーズに応じて選択できるカリキュラムを作成することが必要であろう。
学習評価については、「教育課程の実施と学習評価」に、「生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を、計画的に取り入れるように工夫すること」、「生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること」などとあり、現行学習指導要領に見られた「自己評価」「相互評価」という表現は消えている。「知識及び技能」に関わることがらは、従来の定期考査で評価することができても、「学びに向かう力、人間性等」は筆記試験では評価し切れない。生徒自身が長期的な視点に立って、自身の学習を見通して自身の状況を把握し、修正していくような学習のサイクルを確立することが求められ、評価はそれに効果的に作用するものでなくてはならない。

3.大学入試への影響

〈現代文〉

現段階では、新学習指導要領を意識した大きな変化は認められない。多くの生徒の合否を限られた時間で決定するには、筆記による一斉テストという形式に頼らざるをえない面もあり、そこでは基本的に、文章を客観的に読解する力が求められるだろう。
一方で、筆記試験という形式を取りながら、共通テストの試行調査(プレテスト)(以下、試行調査)においては、既に新学習指導要領の趣旨を踏まえた問題作りがなされている。2017年11月に実施された試行調査の大問一は、実用的な文章(生徒会規約)とそれについての会話文や関連する資料(図表と新聞)から出題された。問題は、会話文を読み、その内容を実用的な文章と関連付けたり、実用的な文章と図表、あるいは図表と新聞という複数の題材を関連付けたりして答えるもの(記述式)である。新学習指導要領の「現代の国語」で重視されている、実用的な文章、複数の文章や図表などに含まれる情報の関連付け、書くことが反映されたものと言えるだろう。試行調査の大問二は、マーク式で、図表や写真が含まれた説明的な文章から出題された。また、問5は、本文に触れられていない観点を加えて推測して考える問題である。大問三もマーク式で、「幸福な王子」という文学作品のあらすじが書かれ、その作品を踏まえて創られた小説から出題された。両者を関連付けて答える問題も作成されている。このように複数の題材を関連付けて答えるものとしては、2018年度センター試験第1問もあげられる。従来のセンター試験にはなかった、図が含まれた評論文から出題され、一問だけではあるが、本文とそれについての会話文と図を関連付けて答える問題があった。来年度以降のセンター試験で同様の出題がなされるかどうかはわからないが、2024年度以降の共通テストは、新学習指導要領の趣旨を踏まえた問題になることが予想される。受験する生徒は、予備校の模擬試験などを利用して訓練を積んでいくとよいだろう。
個別入試について、一部、図表を取りあげるなど、新学習指導要領を先取りしていると思われる出題も見られるが、まだ大きな流れにはなっていない。以前から、自分の意見を書かせたり複数の題材を組み合わせて出題したりしている大学、学部もあるが、現行ではその大学、学部の個性を出した入試と言えるものであり、2024年度以降、そうした傾向が全体に広がるかどうかはまだわからない。

〈古典〉

2024年度以降に実施される共通テストの出題範囲は、センター試験が必履修科目の「国語総合」を出題範囲としていることから、必履修科目の「現代の国語」と「言語文化」になる可能性が高いと思われる。古文が出題される場合、「言語文化」の〔思考力、判断力、表現力等〕の「読むこと」に示された言語活動例に「我が国の伝統や文化について書かれた解説や評論、随筆などを読み、我が国の言語文化について論述したり発表したりする活動」、「異なる時代に成立した随筆や小説、物語などを読み比べ、それらを比較して論じたり批評したりする活動」などの記述があることから、これまでに示されたマークシート式問題のモデル問題例や試行調査での出題のように、複数の文章(現代文で書かれたものも含む)を組み合わせた出題がなされる可能性が考えられる。
同じく2024年度以降に実施される国公立大二次試験・私立大入試では、現在は「古典B」を出題範囲としている大学が多いことから、「古典探究」が出題範囲に加えられる可能性が高い。複数の文章を組み合わせた出題はこれまでも時折見られており、この傾向は今後も継続すると考えられる。
漢文についても、大勢は古文の場合と変わりないと思われる。複数の文章を組み合わせた問題の出題傾向が強まる可能性は考えられるが、やはり出題の中心は「原文の文や句の現代語訳や解釈」、「内容説明や理由説明」、あるいは「要約」などとなると推測され、とくに説明問題や要約問題では表現力が問われることになろうが、これらは従来の定番の問題である。したがって、とりたてて特別な対策や新しい学習が要求されるとは現状では考えにくい。
古典の受験対策としては、これまでと同様に、古文や漢文の原文を正しく読解する力を育成することが肝要であり、複数の文章を組み合わせた出題など、出題形式の変化に対応するための対策は、読解力を十分に養成した後に行えば十分である。ただし、国語の入試全体として記述量が増加することは考えられるので、古典の学習においても、自分の考えたことをわかりやすくまとめる練習を日ごろから積んでおくのが望ましいと思われる。

分析内容のご利用にあたって・問い合わせ先

高等学校で使用する以外の内容の無断転載及び複製等の行為はご遠慮ください。
ご不明な点がある場合は、以下までご連絡ください。

河合塾教育企画開発部 教育開発チーム
Tel:03-6811-5560(平日10:00~18:00)
E-mail:kanalysis@kawai-juku.ac.jp