刺激的なツイートによって世間を騒がせるなど、しばしば批判の対象になってきたテスラモーターズ創業者のイーロン・マスク。
しかし、彼が掲げるビジョンは壮大で、その実現力や、失敗に怯まない復活力、突破力はあまりに魅力的だと主張するのは、『イーロン・マスクの言葉』(桑原晃弥著、きずな出版)の著者です。
スティーブ・ジョブズが亡くなったあと、「ポスト・ジョブズは誰か」が話題になったことがあります。
当時の最有力候補は、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスでしたが、いまや最も革新的で最もクレイジーな「ポスト・ジョブズ」は、間違いなくスペースXやテスラモーターズのCEOイーロン・マスクと言うことができます。
ジョブズのキャッチフレーズが「世界を変える」なら、マスクのキャッチフレーズは「世界を救う」です。
学生時代から「いずれ枯渇のときが来る化石燃料に、過度に依存した現代社会に変革をもたらし、人類を火星に移住させる」という、SF小説を凌ぐほどのクレイジーな夢を大真面目に語り続けていたマスクですが、当初はその言葉に耳を傾ける人はほとんどいませんでした。(「はじめに」より)
それは、ペイパルなどITの世界で成功してからも同じ。当初は「大金を手にした若造のほら話」程度にしか思われていなかったものの、破産覚悟の挑戦を続け、世界中の大企業が実現できなかったロケットと電気自動車をつくりあげることに成功。
その結果として評価は一転し、「クレイジーなイノベーター」としての地位を確立したわけです。
本書は、そんなマスクの「言葉」を収めた書籍。言葉をたどれば、生き方や考え方も浮かび上がってくるはずだという考え方に基づいたものです。
きょうは第4章「絶望は強烈なモチベーションになる」で紹介されている、いくつかの言葉に注目してみることにしましょう。
マスクの「あきらめの悪さ」
私はこれまでもこれからも
決してギブアップしない。
息をしている限り、生きている限り、
事業を続ける
マスクの特徴のひとつに、「あきらめの悪さ」があると著者は指摘しています。たとえみんなが「もう無理だろう」と思っても、「あきらめるという選択肢がない」のがイーロン流だということ。
たとえば、いまでこそ民間ロケットのトップランナーとして認知されているスペースXも、そこに至るまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。
2002年に設立されたスペースXが、初めての打ち上げに挑んだのは2006年のこと。しかし、以来3度にわたって失敗が続き、マスクは「もし次も失敗したら資金が尽きる」というところまで追い詰められたのです。
その結果、個人の資産で売れるものはすべて売り、ほぼ無一文という状態にまでなりながらも、マスクは気落ちする幹部や社員を前にこう言い切ったのだそうです。
「私はこれまでもこれからも決してギブアップしない。息をしている限り、生きている限り、事業を続ける」
そして、そんな執念が実り、2008年後半には最後の資金をかき集めて行なった4回目の挑戦で、ようやくロケットの打ち上げに成功することに。
ちなみにこの時期、危機的状況にあったのはテスラモーターズも同様。しかし、マスクの「絶対にあきらめない覚悟」のおかげで両者とも危機を乗り越えることができたわけです。
そしてスペースXは2012年、困難と言われた宇宙ステーションとのランデブーを見事に実現することになったのです。(116ページより)
批判に対する考え方
いいところを聞くのも嬉しいことですが、
批判の声に耳を傾けるほうが大事です
著者が知る若手経営者が良いアイデアを思いついたときには、反対しそうな人ではなく、「いいね」と言ってくれそうな人から話をすると言っていたのだそうです。
いきなり「ノー」と言われれば、誰しも多少はヘコむもの。しかしその経営者は、「いいね」と言ってもらえれば、次へ進む勇気が湧いてくるという考え方だったわけです。
一方、マスクは批判の声を聞くことが大切で、批判を聞かないというのは多くの人がよく犯す失敗のひとつだと断言しているのだといいます。
たとえば、自分がつくったものを友だちに渡してこう言うのだそうです。
「どこがよかったかは抜きにして、よくないところを教えてくれ」
友だちは、友だちを傷つけたくないという思いを持っているため、たとえ気に入らないところがあったとしても「よかった」といってしまいがち。しかし、それでは本当の評価を知ることはできないわけです。
だからこそあえて、「悪いところ」を聞き出すということ。そればかりか、競合相手の批判にも耳を傾けるそうです。
もちろん、批判のすべてが正しいとは限りませんが、「批判やクレームに真摯に耳を傾けてこそ、よりよいものをつくることができる」という考え方を持っているわけです。
みんなが賛成するアイデアは、すでに時代遅れ。それに、みんながいい話ばかりしかしないとき、そこには確実に落とし穴が待ち受けているということです。(118ページより)
何度も直面してきた「崖っぷち」
いまだに片足は地獄に突っ込んだままだが、
このカオスからも、あとひと月もすれば
解放されるだろう
マスクは、南アフリカからカナダへ渡ってきたときや、最初の起業時には極度の貧しさを経験しています。
またスペースXでは有り金をはたいても資金が足りず、友人などから借金をしまくって4度目の打ち上げに挑んで成功させ、かろうじて危機から逃れました。このように、これまで何度も崖っぷちを経験しているわけです。
なかでも特に過酷だったのは、テスラモーターズにおける「モデル3」の量産化への挑戦。2018年4~6月期のテスラの決算は最終損益が7億ドルを超える過去最大の赤字であり、マスクが掲げていた「週5000台」という生産目標も、いつまでたっても達成できなかったのです。
その結果、マスクは工場に泊り込む日々を余儀なくされ、マスコミからも避難を受けますが、2018年7月1日にようやく「週5000台生産」を達成。そこに至る困難を、彼はこう振り返っているそうです。
「いまだに片足は地獄に突っ込んだままだが、このカオスからも、あとひと月もすれば解放されるだろう」
どんなに苦しい状況でも決してあきらめず、自身が揺らがないマスクは、早くも「週1万台」という楽観的な目標を掲げ、さらなる困難に立ち向かおうとしているのです。(124ページより)
「努力」をどう解釈するか
結果が出ていなければ、
その努力はやめる必要があります
「努力は報われる」という言い方があります。世の中には「もうベストを尽くした」と努力を簡単にやめてしまう人もいますが、そこで「まだまだ努力が足りない」と踏んばった人こそが「努力は報われる」を実感できるということです。
一方、マスクは経営者としての立場から、こう問いかけているのだとか。
「いかなる会社においても、『努力がいい商品やいいサービスという形で結果に表れているか』を常に考えなければいけません」
企業ではみんなが懸命に働いていますが、結果が伴わないこともしばしば。では、結果が出ないときはどうすべきなのでしょうか?
この問いに対して、マスクは「結果が出ていなければ、その努力早める必要があります」と言い切っています。
ただし、失敗のなかに「成功の見込み」があれば、「成功するまで決してあきらめない」のもマスクの大きな特徴だといいます。(128ページより)
絶望はモチベーションにつながる?
絶望は、がんばろうという強烈な
モチベーションにつながります
マスクの経営者としての特徴のひとつは、「危機を何度も経験し、いつも乗り越えてきた」点。
2008年にスペースXが「4度目の正直」でロケットの打ち上げに成功したことによって、スペースXもテスラモーターズも、そして彼自身も危機を回避できました。
しかし、もし失敗していれば、すべてを失ってしまうほどの危機だったわけです。
マスクについて、ある人が「どんなに厳しい状況でも生き残ってきた。働き続け、集中し続けた」と評していたそうです。
すさまじいプレッシャーにさらされると、たいていの人は判断ミスをしたり、あきらめてしまうもの。しかし彼は、努力し続けているということです。
「暗闇のような日々の中で、絶望は、頑張ろうという強烈なモチベーションにつながります。もしあなたの会社が大きな借金を抱えているなら、それは強いやる気にもなります」(133ページより)
こう言い切れるところに、マスクの桁外れの強さがあるということ。では、仮に大きな借金も絶望もなかったとしたらどうなるのでしょうか?
この問いに答えるかのように、彼は卒業式スピーチで「いまこそリスクを負うときだ。大胆にやりましょう」と卒業生に語りかけているのだといいます。
マスクにとって、絶望や借金は強いモチベーションになるわけです。そして逆になにもなければ、やはりそこでも、リスクをとって大胆に挑戦する時期になるという考え方です。(132ページより)
現代は、夢を持ちにくい時代です。しかし、そんな時代だからこそ、マスクの言葉は生きる力になるはずだと著者は断言しています。
彼の言葉を明日への活力としながら、果敢に挑戦を続けていきたいものです。
Photo: 印南敦史
印南敦史
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