駒崎弘樹さんが、昨日2017年1月31日に発表されたご記事
子どもの未来のために、生活保護を受けられなかったリアルな体験談
に対し、生活保護も息子さんの進学もあれもこれも断念せざるを得なくなりそうな大阪のシングルマザーの方に、
「こうすればなんとかなる可能性が高いです」
という方法をお示ししたく存じます。
駒崎さん、どうかご本人にお伝えください。
なお、息子さんの志望校は国公立大学であると仮定します。この状況で私学は、ほとんど無理でしょうから。
問題の要点
詳細は駒崎さんのご記事をお読みいただきたいのですが、3行でいうと、
- 一人で息子(高卒・大学進学を目指して浪人中)を育ててきたシングルマザーが病気のため働けなくなり、生活費も底をついた。元夫からの養育費支払いは途絶えている。
- 共済に加入しているが、医療費を請求すると死亡時の共済金が5年間は出なくなるらしい。それでは自分に万一のことがあったときの子どもの生活が心配。
- 生活保護を申請しようと福祉事務所に相談したら、既に息子が高校を卒業しているため、息子に就労させるように言われた。息子の大学進学の機会が奪われようとしている。
です。
1.生活保護は申請できます
息子さんが大学進学を断念すれば、たしかに働けるかもしれません。でも現在のところ、働いていないわけです。
「資産がなく収入が生活保護基準以下」という生活保護の要件を満たしているのが間違いないのなら、生活保護を受給する資格があります。もちろん申請はできます。
申請から受給開始までに、いろいろいろいろ……あったりされたりする可能性が心配だったら、法律家に最初から同席をお願いすると、その後がかなり違います。
生活保護問題対策全国会議:生活保護のことで相談したい場合は、こちらへどうぞ(相談先リスト)
2.共済金は受けとれます
しかし、息子さんの進学がかかっている大事な時期に、生活保護でお母さんが不安になったり、ケースワーカーが息子さんに進学を諦めさせようとしたり……というようなことがあっては大変です。あるべきではないのですが、地域とケースワーカーによってはありえますから。
息子さんの進学が決まるまで、生活保護の申請は待ったほうが良いかもしれません。
もちろん、それまでの生活の糧は必要なわけですが、駒崎さんの記事を参照する限り、一番確実そうなのは、加入している共済の共済金です。
私自身も系列の共済に加入しているので気になり、直接、府民共済に電話して確認してみました。
結論からいうと、共済の加入が継続しているのであれば、今回のご病気での医療費に関する共済金の受けとりは可能です。今後また病気が繰り返されたとしても同様。
万が一、亡くなった場合には、死亡に関する共済金が規定通りに受け取れ、「5年以上」という規定はないそうです。
ただ、いったん共済の加入資格を滞納などで失った場合、再加入するときには、過去に患った病気や保険金・共済金の受け取り実績が問題になる場合もあるとのことです。
とりあえず、現在も共済に加入している状態なのなら、まずは病気治療に関する共済金を受け取りましょう。
「それまでの生活もどうなるか」という状態なら、社協の貸付があります。借りたら返さなくてはならないのではありますが、返済については相談に乗ってもらえます。
ただ、実際に利用するにあたって、申請してみると見えない高いハードルが存在する場合もありますので、やはり困窮者支援に強い法律家に相談しておいたほうが良いかもしれません。
生活保護問題対策全国会議:生活保護のことで相談したい場合は、こちらへどうぞ(相談先リスト)
3.生活保護はどうするか?
利用できるものは利用し尽くすとしても、お母さんの生活を支えるものは、最終的に生活保護しかなくなる可能性は高そうです。
息子さんが国公立大学の昼間部を受験される前提なら、進学が決まるまでは共済金や社協の貸付でなんとかしのぎ、進学後に生活保護を申請されるのが良いのではないかと思います。
4.息子さんの学費はどうするか?
国公立大学の場合、通常は、入学手続き・入学金免除・初年度学費免除の手続きが同時です(私学で同様の制度が用意されている場合もありますが、たいていは いったん納入→免除決定→返金 なので、最初の納入がハードルになります)。
結果が出るのは、4月入学なら9~10月です。もしも免除されなかったとしても、「金策」の時間が半年あります。
お母さんの状況からいって、免除される可能性は極めて高いと思われます。
もしもこの間に、お母さんが生活保護受給となったら、ほとんど間違いなく免除されます。
5.息子さんの生活費はどうするか?
いずれにしても息子さんは、大学昼間部に通学しながら生活保護で生活することはできません。
しかし、バイトで疲れ果て、あるいはブラックバイトに搾取されて学業どころでなくなっては、本末転倒です。
まず生活費に関しては、不本意でも、学生支援機構奨学金の貸与を受けることでしょうか。返還免除のありうる第一種が利用可能でしょうから。ただ、できるだけ早く、給付型奨学金を受けてそちらに切り替え、学生支援機構奨学金は止めるのが望ましいところです。
その大学の出身者などが出資している、そこの学生だけを対象にした給付型奨学金もあります。その他、入学しないと存在を知ることもできない支援が、実はけっこうあります。
6.息子さんの別居という可能性も
もう一つお勧めしたいのは、息子さんが学生寮などで別居することです。
お母さんが生活保護で暮らすことになる場合、息子さんは同じ屋根の下に住んでいても「世帯分離」という扱いとなり、息子さんの分の生活保護費は給付されず、しかしながら生活保護ゆえの制約を息子さんも受けるという、ワケワカ意味不明な状態になります。
ですので、息子さんは学生寮などに別居して実態としても住民票上も別世帯となり、お母さんは単身世帯として生活保護を受ける方がよいだろうと思います。
おそらく息子さんは、自宅通学可能な範囲の大学を受験されるのでしょう。ご家庭の事情を理解し、学生寮に入居させてくれるかどうかは、大学の判断しだいです。
しかし「自宅外通学」となれば、自宅外通学を前提とした支援の対象になります。
息子さんの修学は、さらに容易になるだろうと思います。
7.もしも同居かつ親子で生活保護でも
親子同居のまま、親子で生活保護ということになっても、息子さんの進学の道は断たれません。
生活保護のもとでも、大学夜間部・通信制への進学・修学は、禁止されていません。
この場合、息子さんは「働けるなら働いてください」ということにはなりますが、大学の斡旋をうけ、自分の将来につながるようなアルバイト(場合によっては定職)を見つけ、収入と社会勉強と職業訓練をセットで獲得しながら大学で学ぶことが可能です。
そういう大学にはしばしば、学力その他の能力には問題がないけれども、経済的な理由で、そこでしか学べない学生が来ます。
そういう大学にアルバイトなどの求人を出すのは、その事情を知っている企業であることが多いので、ブラックではない仕事が見つかる可能性も高いです。
場合によっては、卒業後はそのまま、その企業の正社員として勤務し続けることも可能です。すると「シューカツ」も不要になります。
また、大学院などへの進学も可能です。
夜間部・通信制できちんと学び、卒業にこぎつけるには、本人の強い意志と努力が必要です。
それを評価し、「そういう学生こそ欲しい」と望み、さまざまな経済的支援を用意する大学院、探せばたくさんあります。
まだまだ日本、捨てたものではありません。
このお母さんが、息子さんが、すべての親御さんとお子さんたちが、希望へのステップを見つけ、たどりつかれますように。
後記
もちろん、生活保護での大学進学に対する今や意味不明な制約の数々をなくし、「生活保護で学ぶ」の範囲を拡大する制度改革は必要です。
今春の進学には、制度改革を待っていたら間に合いませんが、将来的には、「生活保護とは?」「最低生活保障の役割は?」から教育との関係を考えなおし、大学進学も含めた制度改革が必要不可欠でしょう。