生活保護費を70%も激減させる、確実かつ有効な方法!?

「国のお財布は有限」は、事実ではありますけれども?(写真:アフロ)

生活保護世帯・生活保護受給者数は、進行する一方の高齢化に伴い、若干は上下しつつも増大する一方です。

保障される生活の質を損なわずに生活保護費総額を大きく削減する方法は、ないのでしょうか?

答えは「ある!」です。

総額を減らさず現在のままにしておけば、生活保護を利用できるはずなのに利用できない「漏給」状態の方が多数(500万~2000万人と諸説あり)いる問題も、解決へと向かう可能性があります。

まずは、生活保護制度のおさらい

生活保護が利用できる条件とは?

生活保護制度は、生活困窮状態にあるとされる世帯(単身の場合は単身世帯)に対し、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度です。

生活困窮状態にあるかどうかの判断基準を一言でいうと「資産がなく、月々の収入が生活保護基準より少ない」です。

申請時に認められる現金・預貯金は、生活保護が認められた場合の月々の生活費の半分まで。これは資産というより「保護開始までしのぐための手持ち金くらいは認める」という意味合いです。なお、持ち家・自動車などの資産については、引き続いての所持が認められる場合もありますが、本記事では触れません。

本人が働けるなら働くこと・親族がいるなら扶養を求めることなど、「使えるものは使う」ことは要求されますが、保護開始の判断にあたり、「働けるのに働いてない」「金持ちの親類がいるのに扶養してもらってない」は障害になりません(実際には、違法な運用が多いのではありますが)。

「一応病気はない35歳だけど、失業していて手持ち金が100円、3日間食事できてなくてフラフラ、家賃は滞納していて追い出されそうだから生活保護を申請した」

という場面で、「まずは求職活動を」「まず遠隔地の、20年会ってなくて電話番号もわからなくなっている金持ちの親御さんに扶養のお願いを」などと言うことのナンセンスさは言うまでもないでしょう。

ただし保護廃止後には、本当に「働けるのに働かない」ならば問題になりますし、それを理由とした保護打ち切りのペナルティもありえます。また、資産1億円・年収2千万円といった親族がおり、関係が円満なのに扶養しないというようなケースでは、強制力をもって扶養を求め(=仕送りさせ)、保護費をその分だけ減額することもできます。

「ゆりかごから墓場まで」の8つのメニュー

生活保護には、

  • 生活扶助(生活費)
  • 教育扶助(中学までの学用品など、教育にかかわる費用)
  • 住宅扶助(家賃、地代等)
  • 医療扶助
  • 介護扶助(≒介護保険の自費負担分の助成)
  • 出産扶助
  • 生業扶助(就労・営業に必要な経費。高校での修学も含む)
  • 葬祭扶助(≒火葬費)

の8つのメニューが含まれています。

生まれ、育ち、学び、働き、家庭を営み、子どもを産み、病気の治療を受け、介護を受けて死ぬまで、人生のすべてが考慮されています。

この8つのメニューのうち、現金で給付されるのは生活費分の生活扶助だけ。他はすべて現物です。ただし賃貸住宅の家賃については、契約している本人が支払う原則なので、生活扶助とともに現金で世帯主に渡されることが多いのです。

生活保護費は今、どうなっている?

ほぼ半分が医療扶助

生活保護に関する公式統計データ一覧の22表によれば、最新データがある2013年、生活保護費の扶助別内訳は下のグラフの通りでした。

この年、国費負担分の総額は、約3兆6000万円。この約1/3が地方自治体の負担分なので、合計すると5兆円弱。小さな金額ではありません。

生活保護費 扶助別内訳(2013)
生活保護費 扶助別内訳(2013)

ほぼ半分が医療扶助、残る半分近くが生活扶助+住宅扶助となっており、その他の扶助は極めてわずかです。

医療扶助を大幅に減らすことができれば、それだけで生活保護費を激減させることができます。

「生活保護受給者は医療費を無駄に使う」は事実か

読売新聞記者・原昌平さんが、連載「貧困と生活保護」で、医療扶助の内実を詳細に検討されています。

原記者の「医療・福祉のツボ」 貧困と生活保護(30) 医療扶助の最大の課題は、精神科の長期入院

原さんの記事の3ページには、協会けんぽ・国保・後期高齢者医療制度・生活保護で、疾病別・入院/通院別に受療率を比較した表が掲載されており、受療率は概ね、

協会けんぽ<国保<生活保護<後期高齢者医療

となっています。

生活保護世帯の約半数が高齢者世帯(2016年、50%を越えました)であること、障害者世帯・傷病者世帯が概ね30%を占めていることを考えると、生活保護受給者にはそもそも医療ニーズの高い人が多いわけですから、この数字は不思議でもなんでもありません。

医療扶助の大きさが問題だというとき、

「生活保護でタダだからといって不要な医療まで欲しがる」

というイメージを煽るような報道が行なわれることもあります。そういう患者さんが「全くいない」とは言いませんが、データで見る限り、「生活保護でタダだから無駄遣いしてやれ」という患者さんが医療扶助を圧迫している事実は浮かび上がってきません。

生活保護で突出して多い、精神科入院

しかし精神科入院に関しては、「生活保護だから多い」という事実がデータから浮かび上がってきます。長期入院の末に生活保護になったのか、生活保護だから長期入院になったのかは不明ですが。

「生活保護だから長期入院」というのは、入院が長引くとアパートを解約され、家財道具も処分されてしまうからです。精神疾患を持ち、精神科から退院してくる生活保護の方が、ゼロから住まい探しをするのは難事業です。

原さんの記事によれば、入院患者のうち精神科入院患者は、

協会けんぽ   0.4 %

国保      3.6 %

後期高齢者医療 5.0 %

生活保護   23.7 %

となっています。

生活保護での精神科入院のコストは?

無視できないのはコストの問題です。

精神科入院では、1ヶ月あたり、約48万円が必要になります。

地域生活の場合、基本的に生活扶助と住宅扶助で済みます。東京都の単身者なら約13万円です。医療ニーズを含めても1ヶ月あたり20万円程度と考えられます(原昌平さんの試算。筆者も同意です)。

生活保護費の概ね半分が医療扶助、うち入院が約56%、入院のうち43%が精神科です(原昌平さん記事による)。

つまり、医療扶助のうち、0.56×0.43×100=24% が、精神科入院にかかわる費用なのです。

2013年の費用実績でいえば、約4000億円に達します。

精神科入院患者の90%が地域生活に移行し、月あたりのコストが48万円から20万円となったとすれば、必要な費用は1900億円となります。これだけで、医療扶助のうち約2100億円、約13%が削減できるのです。

「医療扶助の無駄使い」を問題にするなら、金額で最も大きく、なくしたときのポジティブなインパクトが大きいものから問題にしてほしいものです。「生活保護の患者が湿布薬をたくさん欲しがる」「生活保護の患者がジェネリック医薬品を嫌がる」といったことを問題にしている場合ではないと思います。

「他法他施策優先」は、なぜ徹底されないのか?

生活保護には「他法他施策優先」という原則があります。「最後のセーフティネット」である生活保護では、他に利用できる制度があれば利用するのが原則です。

生活保護法が現在の形になった1950年、国民皆保険制度は、まだ成立していませんでした。国民皆保険制度の成立は、11年後の1961年です。この時、タテマエからいえば、生活保護の医療扶助は、保険料免除・自己負担0割で国民健保に組み入れられ統一されるべきだったはずです。

しかし生活保護を必要とする人々には、結核患者など医療ニーズの高い人が多く、国民健保にとっても大きな負担となることから、統一は実現しませんでした。

2005年にも検討されましたが、高齢化が進む中では、なおさら負担増が深刻な問題となり、地方自治体の激しい拒絶により、やはり実現しませんでした。

厚労省がしなくていいことは別の省庁に

生活保護は、人生のすべてに関わる制度として構想されましたが、現在となっては無理も感じられます。

なぜ厚労省が、文科省や国交省をさしおいて、教育や住宅のことを考えなければならないのでしょうか? 

餅は餅屋。生活保護の方々を含め、低所得層の住宅については、「国交省に任せた!」で良いのではないでしょうか?

もし、生活保護の住宅扶助が国交省マターとなるのであれば、生活保護費から住宅扶助費のほとんどが消えます。

費用と実施までが移管されるかどうかは分かりませんが、この動きは実際に始まっています

生活保護費は、どこまで削減できるのか?

生活保護の医療扶助は国民健保へ、住宅扶助は国交省へ、教育扶助は文科省へ、費用・実施ともども移管されたら、生活保護費の国費負担は、このグラフのようになります。

生活保護費 扶助別内訳(2013年、移管できるものは移管)
生活保護費 扶助別内訳(2013年、移管できるものは移管)

金額で、もともとの33%まで削減されることになります。

残ったのは、主に生活扶助。介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助も残っていますが、もともとグラフ化したら見えないほど微々たるものです。生業扶助は、もう少し使ってよいのではないかと思いますけど。

「漏給」という大問題も解決できるかも

さて、厚労省さん。

このまま、費用に比例して、厚労省の権限が減るのは困りますよね?

ならば、保護費総額はそのままにして、捕捉率を増やしてはいかがでしょうか。

生活扶助だけなら、単純計算で、今の3倍の人数に生活保護を提供できることになります。

漏給という日本の大問題、かなり解決するのではないですか?

単なる「付け替え」ではない、ポジティブな可能性も

「別の役所の別の負担に付け替えて、”削減”とは?」とお怒りの方もおられるでしょう。

確かに、「ただの付け替えだ」と言われても仕方ありません。

でも、「付け替え」の思考実験をするついでに、考えてみてほしいのです。

高い医療ニーズを持つ低所得層の医療を、ワーキングプア・生活保護・要保護状態・低年金・無年金で分断することに、意味はあるでしょうか? 誰もが医療にアクセスでき、誰もの健康が底上げされるべきではないでしょうか? 国民健保で統一することは、やはり必要なのではないでしょうか? 

生活保護を利用しておらず、保険料を支払えない人々、無料低額医療しか利用できない人々が医療にアクセスできる状況は、限りなく「保険料なし・自己負担なし」に近づかざるを得ないはずです。そのような医療と支援に再編し、生活保護でもそうでなくても、とにかく医療にアクセスできるようにすべきではないでしょうか?

住宅も教育も同じです。

自分たちだけの力で、健康で文化的な住・健康で文化的といえる教育を含む生活にたどり着くのは難しい人々・その周辺の人々に対し、住宅と教育の専門家集団が、誰も取りこぼさない政策によって全員を底上げするのが、本来の姿ではないでしょうか。

私は、今年2017年に予定されているという生活保護法再改正に対しては、戦々恐々としています。

でも、生活保護がこのままでいいのかどうか、やはり疑問と問題意識を持っています。

「生活保護の」「生活保護だから」を、必要とするあらゆる人・必要とするかもしれないあらゆる人に拡大する方向で、ときどき、生活保護を見直す必要は、あるだろうと考えています。

後記

FBコメントに見られる典型的な理解不足にお答えしておきます。

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日本人と結婚していたけれど離別・死別した場合、日本の「定住者」資格が得られることがあります。その場合は生活保護の対象にもなります。日本人の配偶者だった人が配偶者を失ったとき、引き続き日本への定住を認めること・生活保護も含め生存生活にかかわる権利を日本人同様に保障することは、むしろ「しない」ことの弊害が大きいのです。

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年金は生活保護よりずっと後に出来た制度です。生活保護制度が出来た当初、年金は「ない」が前提でした。その後も、国民年金は生活を保障できる水準には達していません。その場合は、生活保護を併用し、年金との差額を受給することが可能です。

「生活保護」に関する公的統計データ一覧に出ている最新のデータ(2011年)によれば(同ページの15表)、同年、全生活保護世帯(約180万世帯)のうち、約147万世帯が、年金・手当を受給していました。うち、高齢に伴う年金そのもの・そうである可能性が高いものを受給していた世帯は、約55万世帯でした。同年の高齢者世帯は、約64万世帯でしたから、生活保護の高齢者の87%は低年金世帯、「年金生活者(生活保護を併用)」と見るべき世帯だったということになります。

この方々は真面目に働き、年金保険料を納めつづけ、なんとか年金受給資格を満たしたものの生活が成り立たない水準であったから、生活保護を利用しているのです。

「生活保護はイヤだ」と思っていても、ちょっとした病気の一つで、生活保護以外の選択肢はなくなります。

やむなく生活保護を併用し始めたら、今度は「生活保護だから」と差別の対象となり、自らも年金生活者でありながら、「年金より生活保護の方が高いなんて不公平だ」という憤懣を浴びせられることになるわけです。この状況こそが、理不尽極まるのではないでしょうか?

なお繰り返しになりますが、生活保護費は年金・手当に「プラス」されるわけではなく、生活保護法に定められている補足性の原理により、保護基準との差額が給付されます。その世帯が使えるお金は、保護基準より多くなるわけではありません。

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緊急性がないのだったら「医療券を持って、診察時間内に来てください」でいいんです。

しかし医療に関わる方なら、夜間に「眠れない」と医療機関を訪れる方に対しては、日常のメンタルヘルスに何か問題がある可能性を考えていただきたいですね。不安、焦燥などで、夜、住まいにいられないのでしょうから。そして夜は、不安や焦燥が増しがちな時間帯です。

まずは本人の話を聞き、本人承諾のもと、地域の保健師さんや保健センターとのつながりを作る必要がありそうな場面です。

福祉事務所に情報を提供すれば、担当ケースワーカーがキーパーソンであるはずなので、そこらへんの連携はお願いできるはずなんですが……福祉事務所やケースワーカーさんの当たりハズレが大きすぎるので、確実な方法とはいえません。

少なくとも、何らかの困惑を抱えて来ている生活保護の方その人を責めるべき場面ではないかと。