生活保護を受給していた容疑者
相模原市の障害者施設で19人が犠牲となった殺傷事件のU容疑者は、生活保護を受給していたとのことです。
なお、本記事では、容疑者の氏名はイニシャルとします。
この出来事の意義や背景を考えるにあたり、容疑者の実名を掲載する必要はないと思います。
生活保護の目的の一つは、治安悪化の防止
神奈川県警は、経済的困窮が事件の背景にあった可能性も考慮して捜査しているようです。
この記事とは別に「借金があった」という報道もあります。
自己責任であれなんであれ、経済的困窮は人を精神的に追い詰めます。
生活保護を含め、社会保障の役割は、人を「追い詰められる」「やけっぱち」という状態にしないことにあります。
このことについてご関心をお持ちの方は、過去の拙記事、お時間のない方は3ページ~4ページだけでもご一読ください。
ダイヤモンド・オンライン 『生活保護のリアル 政策ウォッチ編』第70回外国人の生活保護受給は是か非か 最高裁判決を読み解く「共同体」というキーワード
福祉事務所の保護開始判断は妥当
福祉事務所を訪れたU容疑者は、即日、保護開始となり、保護費のうち生活費の日割り分を受け取っています。
生活費だけなのは、住まいが一応はあったためでしょう。
預貯金がなく、失業しており、手持ち金もないU容疑者に対して、急迫性を認めて即刻保護開始とした福祉事務所の対応は、まったく妥当であったと思われます。
直後の保護打ち切り、これでよかったのか?
しかし、U容疑者の生活保護は、3月末の一週間だけで打ち切られています。
停止(中止)だったのか廃止(打ち切り)だったのかまでは、報道では分かりませんが。
生活保護の「他法他施策優先」「補足性の原理」からいって、この対応も妥当ではあります。少なくとも、法的なツッコミどころはなさそうです。
しかし、生活保護の対象でなくなるということは、国民健康保険証がなければ医療も受けられないということです。もちろん失業給付も、手続きをして実際に振り込まれたことを確認できるまでは、「収入が得られることになった」は見通しに過ぎないはずです。
失業給付が受け取れて「医療費も含めて生活保護なしで生活していけそうだ」と明確になるまで、生活保護を継続していてもよかったはずです。
もちろん「補足性の原理」により、もし失業給付が生活保護基準を上回るようであれば、上回る分は差し引かれ、生活保護以上の生活ができるわけではありません。
そこまで、生活保護とケースワークの継続が行われており、その後も相談など地域の支援にU容疑者をつなぐことが可能であれば、その後の成り行きは異なったのではないでしょうか。
また、借金があったのなら、債務整理も必要であったはずです。就労自活ができていない状態で債務整理を行うなら、事実上、生活保護を利用しつつ行う以外の選択肢はありません。借金を福祉事務所が把握していたかどうかが気になるところです。
いずれにしても、打ち切りは拙速にすぎる感を否めません。
後記:
福祉事務所は、失業給付を受け取るのを待って生活保護を打ち切っていたようです。
精神科病院にいるはずのソーシャルワーカーは?
U容疑者は、精神科病院に措置入院していました。その精神科病院には、精神障害専門のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)が必ずいるはずです。
入院期間は2週間。スタッフと顔なじみになったり信頼関係を作ったりするには短すぎます。
しかも、そもそも「措置入院」という形で、強制的に隔離され閉じ込められているわけです。
スタッフを信頼するどころか、怨念と怒りで一杯になるのが、人間として普通でしょう。
ソーシャルワーカーが退院後の地域生活を支援することは、望ましいのではありますが、本人にとっては
「強制入院させられた先のソーシャルワーカーに”ストーキング”されてたまるか」
です。
「何かヤバいことをやらかしそうなので、精神科病院にとりあえず閉じ込めとく」
の是非や有効性は、犯罪の発生を防ぐためにも、その後の社会的問題化を防ぐためにも、大いに再考される必要があります。