東京都知事選、誰に投票しようか決めかねている貴方へ(障害者福祉編)

インフラだけは一流の東京。パラリンピックは無事開催できるんでしょうか?(写真:田村翔/アフロスポーツ)

障害者にとっては、誰が自治体首長になるかは重大

東京都知事のスキャンダルが相次いでいる間も、都政にはこれといった混乱はありませんでした。優秀な都職員がいれば、案外、都知事は誰でも大差ないのかもしれません。

しかし、「都知事、誰でもいい」というわけにはいかないのが障害者福祉です。

これまで利用できていた制度が、ある都知事のもとで利用できなくなったら、社会生活、日常生活、場合によっては生存にも及ぶ問題が発生し、おそらく元には戻りません。

こういうことを「既得権」と言う方もおられます.

しかし、呼吸する・食事する・外に出る・買い物する・仕事に行く といったことに介助や補装具が必要だから、生存生活に必要なものを得る・得ているわけです。それが「既得権」なら、障害者は生きていけなくなります。

そして現在だって「既得権」と言うにはあまりにもチンケ、最低限にも足りていないことが多いのです。

ギリギリのバランスの上に成り立っている生活を切り崩されたら? 

私だって、社会生活も仕事も何もかも諦めて「生活保護しかない」ということになるかもしれません。

そして、その生活保護をこれ以上切り崩させないために

「真綿で首を絞められるように死ぬしかないのかもしれないけど、せめて、黙って死ぬものか」

と叫び

「デモや集会に行く元気があるなら、働けよ」

と冷笑されることになるのかもしれません。

それはそれで、けっこう楽しい人生になるのかもしれません。

でも私は、仕事をして今後の人生を発展させていきたいのです。どの候補者が、最も「役に立つ」ことをしてくれそうでしょうか?

小池氏・鳥越氏・増田氏の公約拝見

けっこう現実味があり期待できる政治的意見「も」表明しているマック赤坂氏に「一回くらいは当選してほしいなあ」と思わなくもないのですが、まずは選挙公報から、小池百合子氏・鳥越俊太郎氏・増田寛也氏の公約をチェックしてみます。

「都知事報酬削減」に、どういう意味が?

小池氏は「都知事報酬の削減」を掲げています。鳥越氏・増田氏は、少なくとも選挙公報には掲げていません。

東京都知事の月給は、約150万円。ボーナスが年間で約700万円なので、年収は2500万円程度になります。使用できる経費等の大きさを考えれば、企業役員なら年収5000万円程度に相当する感じでしょうか。この他に退職金もあります。

金額だけ見れば、「おいしく」見えないこともありません。

しかし、それだけの仕事をしてほしいと期待されているからこその金額です。都知事は24時間365日、都知事であることから降りられません。

次の選挙で当選するかどうかは分かりません。それどころか、いつ何で失脚するかもしれません。不安定さに対する手当も加味されていると考えると、そんなに「おいしい」感じはしません。

都知事の報酬は、あくまで、都知事という仕事と身分に対して適切かどうかと、コストパフォーマンスで計られるべきものでしょう。

それに現在の政治家の多くは、当選しなかったら暮らしていけないような経済状況にあるわけではありません。

しかし都知事報酬をいただかなくても暮らしていける人の「身を切った」は、自分と家族の生活や将来を託して仕事をしている都職員をはじめとする公務員の人数や報酬の削減や、「世の中に支えられている」とされる人々に対する給付の削減へと容易につながります。

公務員は、もう、少なすぎるくらいです。

「都知事報酬削減」という意味不明、むしろ有害な公約を掲げている候補者は、他にも数多く見受けられますが、なんの意味があるというのか、お一人お一人に説明していただきたいです。

「納税者」にヒヤリ、「都民」にハテナ 

鳥越氏は

都政は、都民が汗水たらして働いて収めた税金で成り立っています。(略)「納税者意識」を胸にとめ、都民の負託に応えます。

と述べています。では「納税者」ではないとされる人々はどうなのでしょうか?

平日の昼間に外にいることができる私は、しばしば「生活保護の障害者」と間違われ、コーヒーショップなどの近くの席から

「私達が汗水たらして働いて納税しているのに、障害者だからって、都営住宅のバリアフリーの部屋にタダで住んで、生活保護でのうのうと暮らして」

といった当てこすりをぶつけられることが結構あります。

私は天引きで納税していた被雇用者時代がけっこう長いし、フリーになってからも納税出来る年はしているのに、そんなことを言われるわけで、「働いた時期があって納税した時期があっても、見た目が障害者だからってこんなに言われ放題なんだったら、働かなきゃよかった、納税しなきゃよかった、ってことになるんじゃないですか?」と怒鳴り返したくなりますが、そんなことをしたら自分が問題を起こしたことになるので、「まあまあ、どうどうどうどう」と自分をなだめるしかありません。話がそれました。

小池氏・増田氏は、「納税者」という用語は使用していません。小池氏は「都民(への信頼・のため)」、増田氏は「都民感覚」という用語を使用しています。

「『納税者』という言葉を使うと『貧乏人差別のつもりがあるのか』と解釈されかねない」

と頭を働かせた起草者が「納税者」を避けたのかもしれません。

では「都民」ならいいのでしょうか? 全東京都民に共通する何らかの感覚が存在するわけではありません。ヒヤリとはしませんが、「はてなんだ?」です。

障害者への言及は? 就労できればそれでいいの?

鳥越氏は言及ゼロです。

あえて言えば、小見出しの「人権・平和・憲法を守る東京を」が、まあ関係あるかな? です。

障害者に関係がありそうな記述は

「誰もが、いつまでも社会参加できる健康長寿の東京を目指します」

「格差のない社会をつくり、仕事と家庭の両立を支援します」

という感じです。そもそも疾患を持っていて障害者福祉を必要としている難病患者たちや、そもそも後期高齢者医療制度が健常者より10年早く65歳で適用されるため必要な医療も受けられなくなりかねない障害者たちは、念頭におかれていない感じを受けます。ヒヤリ、ガクガクブルブル。

増田氏も、ほぼ言及ゼロです。

「『子育て』や『介護福祉』、『女性の活躍の場』の充実に率先して取り組み」

「不安がなく、安心して生活できる環境・社会の実現を目指します」

とありますが、

「障害者は? 中途障害者になった人は? 女性かつ障害者で複合的な困難を抱えて差別に遭いやすい人たちは?」

と突っ込みたくなります。そういう人たちの「不安がなく、安心して生活できる環境・社会」は、イメージされていないのでしょうか?

この点では、小池氏が孤軍奮闘しており、一応は記述が存在します。

「ダイバーシティー:女性も、男性も、子どもも、シニアも、障がい者(原文ママ)も、生き生き生活できる、活躍できる都市・東京」

という節に

「高齢者、障がい者の働き場の確保」

とあります。もしも仕事と稼ぎの総量が変わらないのならば、高齢者・障害者に「働き場」、つまり就労によって(あるいは、就労+基礎年金で)生活保護基準以上の収入が得られる職場を確保すると、その人数の分だけ、若い人の仕事がなくなることになります。中卒や高卒で働きながら困難に直面している若い方々、あるいは何らかの事情で教育を受けられない状況に陥った若い方々、なんとか大学を卒業して社会に出たものの順調にいかなかった方々にこそ、優先的にそういう仕事を確保したほうがよいのではないかと私は思うのですが、どうでしょうか?

働く権利は、誰にとっても重要です。働く権利を行使できる機会は、誰でも得られるようになっているべきです。しかし、社会経験豊富な65歳の健常者・職業経験はないけれども人間長くやってきた「年の功」はある45歳の障害者にとっての就労機会の意味は、

「安定した居場所も十分な学力もなく、『人間力』も不足しているまま、社会に出なくてはならなくなった」

という15歳や18歳や22歳にとっての同じ機会の重みに比べれば、むしろ若い方々にこそ優先されるべきものではないでしょうか?

正直なところ、「この人なら」といえる候補が見つかりません。

パラリンピックについては?

泣いても笑っても4年後にやってくる2020年、その年に予定されているパラリンピックについては、どうでしょうか?

小池氏は「五輪(東京オリンピック・パラリンピック)関連予算運営の適正化」を揚げています。

鳥越氏は「できるだけコンパクトでシンプルな2020オリンピック・パラリンピックを実現して、東京の可能性や魅力を世界にアピールします」ということです。

共通しているのは「あまりお金はかけずに」ということです。

増田氏は

「全国民に協力を要請し、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を成功に導くとともに、その先も成長を続ける持続可能型社会」

を目指すということです。経済成長を継続させるために、それなりにお金はかけるということでしょう。

では、日本の誰がパラリンピックに出るのでしょうか? それなりの競技経験と訓練を経た日本の障害者です。

パラリンピックの選手は、いきなり降って湧くわけではない

いずれの候補も、パラリンピック選手の育成・障害者スポーツの活性化に関しては、特に述べていません。

パラリンピック選手になれる人が現れるためには、障害者スポーツ全体の活性化が必要なのですが、未だに日本の障害者スポーツ像って

「健常者のサービス提供サイドが『やらせてあげる』『やる気出させてあげる』」

という雰囲気が根強いんです。42歳で中途障害を抱えるまではスポーツ中年だった私、もう、ほんっと、こういう雰囲気がイヤなんですが、そういう話はさておき、都知事選と障害者スポーツに話を戻します。

障害者スポーツは、まず、水泳のようにコストがかからない種目については、阻害要因をなくすことが重要です。それだけでも、障害者スポーツ人口は増えるでしょう。阻害要因には、たとえば

「プールは危険だから、移動支援のヘルパーはプールに障害者を連れて行ってはいけない」

といった運用(一部自治体に、こういうバカみたいな運用が結構あるんです)があります。

さらに、一般的に競技スポーツは費用がかかります。障害者スポーツは、種目によりますが健常者の3-5倍に及ぶこともあります。障害者が、障害によって健常者の3-5倍稼げることは通常はありません。何らかの公費助成がなければ、競技になじみ、さらに高みに登ろうとする選手を増やすことは困難でしょう。私自身、スキーが大好きだったのですけれど、日本では障害者スキーはあまりにも高くつくので断念しています。

障害によって、障害者は数多くの機会から遠ざけられています。スポーツも例外ではないわけです。このことは、障害者の人権が健常者以上に侵害されていることの現れでもあります。

パラリンピックのせいで、精神障害者が酷い目に遭いませんかねえ?

オリンピック・パラリンピックのような国家的大規模イベントが予定されると、長く障害者として生きてきた精神障害者たちは戦々恐々ガクガクブルブル、です。なぜなら、すぐ「大事な時なんだから、隔離して閉じ込めておけ」という話に発展するからです。

「都民」「一人一人」(小池氏)・「都民」「だれもが」「すべての人」(鳥越氏)・「都民」(増田氏)には、精神障害者・精神疾患者など、イベントがなくても排除されがちな人々も、含まれているんでしょうか?

各候補者の皆様、あなたは障害者の生活を「悪く」しないと約束してください

東京都は独自に障害者福祉に取り組み、数多くの施策を現実化し、あるいは過去に現実となったものを維持しています。

たとえば、慢性疾患に対する「自立支援医療(厚労省ページ)」のうち精神疾患に対し、東京都は独自に、「ワーキングプア」状態の人々が自費負担をせずに通院できるようにしています。

精神通院医療に係る東京都医療費助成制度

東京都では、社会保険加入者、後期高齢者医療制度加入者又は国民健康保険組合加入者で、区市町村民税非課税世帯(低所得1又は低所得2)の方について、自立支援医療(精神通院医療)に係る自己負担額分を助成する制度を実施しています(介護保険法による訪問看護に要する費用に関する自己負担額は除く。)。

出典:東京都保健福祉局:障害者:自立支援医療

「お金がなくて通院と服薬が途切れたので病気が悪化してヤバいことに」という事例は結構ありますし、「通院の時くらいしか外に出ず他人と会話しない」という患者さんもいます。

「自己負担がない」ということは、お金があろうがなかろうが通院でき、最低限度ながら他人との接触ができ、もちろん治療も服薬も得られるということに直結します。

また障害者の住宅についても、東京都は「一人一ヶ月あたり約10万円」と、突出して手厚い助成を行っています。

「ただしグループホームに限る」というところが、残念ではあります。通常のアパートやマンションに暮らすことに対して改修も含めた助成が行われるのであれば、生活費は障害年金と若干の就労で賄えることになるため、「生活保護しかない」という事態に直面する障害者は激減するでしょう。

ネットカフェ難民など不安定な「住」という困難を抱えた方々にも拡大する形で、より充実が望まれるところです。

誰も選びたくないけれど、「都知事、誰でもいい」とはいえない

東京都には現在も、「丸障」と呼ばれる障害者向け医療費助成制度があります。

この制度は、石原慎太郎都政下で、いったん消滅しそうになりました。

対象者が少ない制度は、簡単に「政争の具」とされ、意外と簡単に消滅します。

「都知事なんて、いなくてもいいんでしょ」とか言っていると、障害者の次に、誰が生活生存の危機に直面するかわかりません。

少なくとも障害者福祉に関して、どの候補者も決め手になることを言っていない原状ですが、「もしかしたら将来の自分を助ける」と考えて熟慮のうえ投票に臨まれる方が、お一人でも増えますように。