悩ましい2016年参院選、選挙権をどう使う?
2016年参院選は、どのような結果になっても、相当数の人々の「がっかり」を生みそうです。
「がっかり」をなるべく少なく、希望を少しでも多くするために、何ができるでしょうか?
まずは代議制の意味を振り返るところから
いまさらですが、参院議員は国会議員です。
参院選での投票とは、選挙権を持つ人々が「自分たちを代表してほしい」と思う人を国政の場に送り出す行為です。
議員は、少なくとも「自分たち」を反映している必要があります。その反映ぶりは、男女比率、障害者比率、子どもを持つ親の比率(子どもに選挙権はありませんので)などなどの面で、目に見える必要があります。
できれば、現在イマイマの「自分たち」ではなく、近未来、あってほしい姿の「自分たち」であってほしいものです。そうでなくては、「あってほしい姿」を実現する牽引力は不十分にしかなりえません。
たとえば子どもの数が、2015年の1600万人から5年後に1700万人になっていてほしいのであれば、育児中の議員比率は、現在の育児世帯比率と少なくとも同等、できれば5年後に希望が実現した場合の比率であるべきです。
マジョリティの希望は、放っておいても、ある程度は多数決で実現します。しかしマイノリティの希望、特に選挙権も発言力もない子どもなどの希望は、基本的に多数決では実現できません。
多数決を原則とする議会での決定の中で、マイノリティの希望を実現するには、
- 少なくとも人数構成をマイノリティ比率に見合うものにする
- 「多数決」に何らかの留保を設けてマイノリティや政治的弱者(子どもなど)の意見を反映しやすくする
の2点が必要です、が……現在の日本の選挙制度・議会制度では、いずれも実現できていません。
理想に少しでも近い議会の姿とは?
今回の選挙で最も重要なことは、党や候補者を選ぶことではなく、参議院を望ましい「バランス」に近づけるという視点だと考えています。
もちろん「より望ましくない党を選ばない」「より望ましくない候補者を選ばない」という意味では、党や候補者も重要です。
しかし今の日本に最も欠けているのは、時間をかけた熟議であり、フェアな合意形成を時間をかけて行うことであり、数世代後、数百年後までを視野に入れつつ、タイミングを逃さずに「イマイマ」の政策や対策を行っていくことです。
あらゆるリスクや変動に対し、100%の予測や備えはできません。
新しい試行をすれば、失敗もありえます。致命的な失敗はしないように注意しつつ、失敗は失敗として受け止め、次の試行に活かせばよいのです。
参議院の本来の目的は、衆議院よりも、やや中長期的な検討を行うことにあります。中長期的に見れば「この時点では失敗としか言えないね」が必ずあります。
守るべきものは守り、新しい試行も行い、成功は次につなげ、失敗は失敗として受け止めて次に進む政権の連続こそ、私の望むところです。
「◯党政権だから可能」ということはないでしょう。硬直化や腐敗による失敗、未熟さによる失敗は、どのような政権にも起こりえます。それを防止するための「せめてもの」仕組みの一つが、政権交代であったりもします。
とにかく私は、参議院を本来あってほしい姿に少しでも近づけるために、自分の選挙権を使います。
理想に近い議会を実現するバランスとは?
異なる意見がある中で、現状を慎重に把握し、時間をかけて議論し、相互に同意できる部分を大きくしてゆき、誰かが「置き去りにされた」「ないがしろにされた」と言わずに済む政策決定は、どうすれば実現できるのでしょうか?
微妙なパワーバランスによってしか実現しないだろう、と私は考えています。
数字で表せば、理想は、
右:中道:左=30:40:30
といったバランスです。さらに「中道」が議題によって賛成だったり反対だったりして混沌としていればいるほど望ましい、と思っています。理解して納得しなければ賛成も反対もしない人たちが、それだけ議会にいるということですから。
右:中道:左=40:20:40
でもよいのですが、サンドイッチになる中道が大変です。
しかし現状、そこを目指すのが現実的なようです。
工藤泰志さんのご記事「294人の有識者が考える今回の参院選が持つ意味とは~「安倍政権3年半の信任」との回答が最多~」の「今回の参議院選挙で比例区ではどの党に投票するつもりか」から乱暴に計算すると、現時点で投票すべき政党を決めていない方々を除いたパワーバランスは
右:中道:左=43:36:21
となります。自民党にも福祉論の方や人権重視に関心ある方はおられますし、民進党にもいわゆる「タカ派」の方はおられます。それを考慮すると、ちょっと「右、強すぎ」感があります。
ここで、もしも投票すべき政党を決めていない方々、全体の24%にあたる方々のうち、60%が中道に、40%が左に投票されると、全体でのバランスは
右:中道:左=33:42:25
となり、私の考える理想、
「分厚い中道がいて、テーマごとにワイワイガヤガヤグチャグチャして、結果として時間をかけた熟議と納得のもとで物事が決められる」
にだいぶ近くなります。
自分自身の投票行動は?
以上の観点から、私自身は、今回の参院選で、
選挙区(東京都):自分が「中道」と思えて、当落線上にいる候補者の誰か
比例区:弱小であったり議席を失ったりしかねない、テーマによって中道だったり左だったりする政党のうちどれか(誰か)
という選択をしようと思っています。
比例区の
「弱小であったり議席を失ったりしかねない、テーマによって中道だったり左だったりする政党」
というのは、さまざまなマイノリティの声を本気で国政に持って行くことは、そういった政党にしか期待できないからです。大きな政党だと、マイノリティに特に対策しなくても、一定の得票が可能です。自分たちの命運とともにマイノリティの命運を担ってくれることは、そういう政党には期待できません。
人に対する人気投票なら、「この人に投票したい」と思える自民党の候補者もいます。
逆に、「中道だし、当落微妙だけど、この人に入れるのはどうかなあ」と思う(現)野党の候補者もいます。
でも、今回はとにかく「少しでもマシなバランス」のための投票をしたいと考えています。
個別テーマ・個別政党の主張は、敢えて考えない
個別の政治的課題・個別の政党については、私は「あえて考えない」ということにしています。
どういう政権が成立するかより、「悪くならない政治」「少しでもよくなる政治」の継続が大事だと思っています。
しかし、「なぜこれを問題にしないのか?」と疑問に思われそうなことがらについて、少しは述べておきます。
政権交代の是非
可能性があるとすれば、民進党連立政権でしょうか? 以前の民主党政権の反省を活かし、「維新」出身者も活かし、前回よりはずっと巧くやれる期待が持てそうです。
その時、財務・経産・文教などの重要ポストの副大臣や閣僚補佐に、共産党からの起用も考えられてよいところかもしれません。
「永遠の野党」とされる共産党ですが、共産党の議員は、官僚とけっこう上手にコミュニケーションして物事を動かせるのではないかと見ています。「自党の主張を通すには力不足すぎるけれども」というポジションで、どう行動するか、何がどう出来るか。本当に「反対するだけ」で終わるのか、それとも「反対」以外の意義を政権や官僚に認識される機会になるのか。見てみたいです。
私は現在、自民党を支持していませんが、自民党の全体・全議員に対して不支持というわけではありません。子ども政策や障害者福祉を含めた福祉政策を、泥臭さ、現実味の裏打ちつきで語る方、実行できそうな方も少なからずいらっしゃいます。現在の状況下では、その方々はなかなか主流になれませんが、現実味・実行力という意味では自民党は「ダントツ」でしょう。
中道も左も極左も含めて「なんだかだいって、日本に自民党があってよかった」と言える数十年先があったらいいなあ、と思っていますし、不可能ではないだろうと思います。
そういう将来を実現させることも考えて、私は今回の投票での選択をします。
安保は? 国防は?
「政権がどこであろうが現象が変わるわけではない」という視点から、あまり問題にしていません。
たとえば、もしも共産党政権が実現したとして、「じゃ、そういうわけで、明日から自衛隊廃止ね」と言えるでしょうか? 実行できるでしょうか? 無理でしょう。一定の国防が必要という状況が消滅するわけではないし、災害時、自衛隊に代わりうる存在は、現在の日本にはありません。
逆に、軍備増強大賛成の超タカ派政権が成立したら、どうでしょうか? かえって周辺の国々を刺激して、ちょっとやそっとの軍備増強では追いつかない破滅的な結果を招くかもしれません。
私の考える理想は、
「見た目はハト、外交とソフトパワーを重視してガチ勝負に持ち込まない、床の間の掛け軸をめくったら怖いタカがいるけど、出番がないのが一番」
といったものです。どのみち、日本の政治の都合のために、国際社会が動いているわけではありません。
原発政策は?
「現在となっては、選挙の争点でありえない」というのが私の考えです。
設置や再稼働にかかわる意思決定の方法・結果の是非、原発自体の安全性がどうなのか、福嶋第一原発事故後のさまざまな問題が現状どうなのかはともかく、現在、多数の原発が日本に存在してしまっています。
明日「全部なくす」と決めても、原発の姿でなくなるまでに数十年が必要です。さらにその後は、廃棄物とのお付き合いが続きます。
どのような政権が成立しようが、このことは変わりません。
また、原発の是非と無関係に、日本があるかぎりエネルギー政策は必要です。
このようなことを考えると、推進であれ反対であれ、原発を過剰に争点化したり、エネルギー政策と原発を過剰に結びつけたりしている政党や候補者は「ちょっとね」です。
(追記)改憲は?
イキオイによって、または「戦勝国から押し付けられた憲法」というウソを言い続けることによって、あるいは有名無実にされている既成事実を作っての改憲には、反対です。
「どうしても改憲」の理由として、納得できる説明を聞いたことはありません。
もしも改憲が必要であるとして、現在は、時間をかけた事実の共有・熟議・合意形成を、ゼロに近いところから始めなくてはならない状況かと思われます。
財政は? 教育は? 保育は? 科学研究は? 医療は? 福祉は? 介護は?
いずれも、中長期的な国のありかたに関わる話です。
「どれかを犠牲にして、どれかを守る」という議論を展開することは、「削減」「赤字国債が問題」を前提にするなら致し方ないところです。
しかし今、たとえば「少子化対策のために高齢者から削って家族相互扶養を強化」を実行すると、現役世代の介護などの負荷が高まり、少子化対策にならないかもしれません。
今後数十年は、人口構成によるコストと赤字国債は「当面しかたない」と割り切り、しかし300年500年計画で確実に赤字国債を減らしていけるように具体的な計画を立て、出産・育児・教育のコストを減らしつつ、現役世代からの介護コストも減らしつつ、つまり高齢者福祉は大きく削減せず……ということが可能ならベストだろう、と思っています。
一つの解決として、「高齢者を減らす」という方向性は考えられます。
しかし、現役世代や子ども世代に対し、どのような影響が及ぶでしょうか。
人心の荒廃の影響は、数十年後に現れ、取り返しがつきません。若い時期・幼少期を戦時中に過ごした人々が、どのような親になり、どのような高齢者になったかに考えをめぐらせるたび、「生きられない」状況や過酷な選択を簡単に実現してはならないと思います。
現在の現役世代や子供世代から、人としての心や生きる気力を奪わないためにも、慎重の上にも慎重が求められるところです。
とはいえ、「国の財布」が無限ではないことは事実です。どこかには、負担してもらわなくてはなりません。今、負担していない、負担したくない、負担から逃げようと思えば逃げられなくもない方々に。貧者の一灯のチマチマした寄せ集めではなく、ドカンと一発……。
今回の選挙で実現されてほしいのは、冷静に現実的に「乗り切ろう」とする意志、考えるだけでしんどい荷物を持ち続ける意志です。
日本という国の意志でも、政党や政権の意志でもありません。
日本社会に、「現在の日本の数多くの課題」というしんどい荷物を持ち続け、政党や政権がどうなろうが政策として引き継ぎ続ける意志があれば、このしんどい荷物は、案外持ち続けられるでしょう。100年後、200年後、300年後、軽くして次世代に渡すこともできるでしょう。
問題にする唯一の課題は、生活保護
生活保護制度は、現在の日本で機能している唯一の最低所得保障です。
低所得層の消費を冷え込ませないために消費税を上げないこと、あるいは「給付金」という形で低所得層中心に「バラ撒く」ことは、景気対策として有効と考えられています。低所得層こそ、今、目の前のお金の増えた減ったに敏感にならざるを得ず、増えても貯められずに使い、減れば使わず、ということになりますから。
同じ理由で、生活保護は拡大・充実こそ、景気の下支えに有効です。
折しも、イギリスのEU離脱で世界経済が揺さぶられています。外からも中からも、いつも「いろいろある」のが正常な経済の姿です。
ちょっとやそっとのことで国全体の経済状況が揺さぶられないために、低所得層向けの給付は重要な意味を持っています。
個人の自立への努力・個人のパワーを増強することにより、100年くらい後、生活保護が「必要とされず、利用されない制度になった」という将来は、ありうるかもしれません。でも現在ただいまの状況下では、生活保護を必要とする人に利用してもらって、その次世代・さらに次世代の状況を少しずつ向上させることは、間違いなく有効、かつ将来を期待できる経済政策の一つです。これ以上に有効有益そうな何かは、思い浮かびません。
生活保護の縮小や利用抑制を考えている政党や候補者に対しては、経済政策という面から、私は「うーん、ちょっと」と考えてしまいます。
今回の参院選にあたって、私は、以上のように考えました。
まだ、具体的な政党や候補者を決めるところまでは考えていません。その内容はYahoo!ニュースに書くべきことでもありません。
いずれにしても、もう少しよく考えて、投票に行きたいと思っています。
お読みになった皆様お一人お一人が、ご自分なりに悔いのない判断と選択のもと、参院選で投票を行われますよう願います。