もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】 作:善太夫
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エ・ランテルの中間クラスの宿屋の一室にミスリル級冒険者“深紅と漆黒”の姿があった。
「それにしてもミスリル級では思うように情報が集まりんせんでありんすな。……それに……」
シャルティアがため息をついた。モモンもため息をつく。
“深紅と漆黒”は現在ある問題を抱えていた。
「…………金が無い」
正確にはユグドラシル金貨はうなるほどあるのだが、この世界で使用することを自重しているため、使える金が心許無いのである。ミスリル級冒険者はエ・ランテルでは最上位のランクであり、それなりの金額を稼げるのだが、それ以上の出費が嵩んでいたのだった。
「……いっそセバスに少し自重してもらうのが良いでありんしょうか? よろしければソリュシャンにさり気なく伝えておくでありんすが?」
シャルティアが提案する。セバスとソリュシャンには王都での情報収集の一環で裕福な商人を演じさせていた。現地の魔法を調べるためにマジックアイテムやスクロールを買い漁ることを指示していた。
「……いや、それには及ばん。あれにはそのまま続けさせよ。とはいえ…………」
アインズは机の上に広げられた硬貨に目をやる。数枚の金貨と銀貨、銅貨だ。このうちの大半がセバスの活動資金と消える。
「……まずはアダマンタイト級になるのと金儲け、が必要でありんすね。金と名声になる依頼がどこかに転がってありんしょうなら──」
「──それだ!」
◆
エ・ランテル冒険者組合にミスリル級冒険者が四チーム集められる。“深紅と漆黒”のモモン、“クラルグラ”のイグヴァルジ、“天狼”のベロテ、“虹”のモックナック、各チームのリーダーが揃い、これでエ・ランテルの冒険者の最上位チームが全て揃ったことになる。
彼らが待たされた部屋に三人の男が入ってくる。それぞれ都市長のパナソレイ、魔術師組合長のラケシル、そして冒険者組合長のアインザックだ。互いの紹介が終わるとアインザックが依頼について説明する。
「諸君に集まってもらったのは他でもない。先日のエ・ランテル郊外での野盗『死を撒く剣団』の壊滅についての話は皆も知っていると思う」
一同は戸惑いを覚える。確かあの依頼は金級冒険者を中心としたチームの仕事だったはずだ。たかが野盗退治などミスリル級冒険者の仕事ではない。
彼らの顔に浮かぶ不満げな様子からアインザックの言葉が詰まる。明らかに彼は逡巡していた。
「ぷひー。よいだろう。あとは、わたしからはなそう。……といってもひつようなはんい、までだがね」
都市長は今まで秘匿されていた事実を明らかにする。野盗の裏に特殊工作部隊の暗躍があったことを。そして具体的な依頼についてアインザックからの説明に移る。
「今回の依頼は表向きエ・ランテルからリ・エスティーゼを結ぶ街道の野盗退治だ。依頼者はリ・エスティーゼ王国の商工会、商人の寄付を集めてくれたから懸賞金は総額金貨三千枚だ」
破格の懸賞額にどよめきが起きる。
イグヴァルジが不敵に笑う。
「つまりそれだけ危険な任務、というわけだな?」
アインザックは無言で頷く。
「当初は王都のアダマンタイト級冒険者に依頼すべき内容と判断されたのだが……ちと事情があって“蒼の薔薇”も“朱の雫”も動けないそうだ。同じミスリル級なら以前の彼らの情報があり、かつ、地形が近い我々に依頼した方が良い、というわけだ。勿論皆、受けてくれるだろう?」
皆が頷いて承諾する。と、先程のイグヴァルジは発言を求める。
「ここに集められたミスリル級冒険者の力量についてだが、足手まといはいないのかね? 新顔が混じっているんだが」
イグヴァルジの言葉は“深紅と漆黒”に対する当てこすりなのは明白だった。
「……いや、彼らは必要だ。なにしろ相手にはアンデッド──ヴァンパイアもいるという報告があるのだ」
イグヴァルジは顔色を変える。“深紅と漆黒”の噂は聞いたことがあるが、あり得ないと一笑に付していた。
「……“深紅と漆黒”の二人は皆も噂で知っていと思うが、ズーラーノーンの幹部二名とスケリトルドラゴンを二体倒している。無論、このことは口外しないでくれ」
◆
「ただいま戻りました」
セバスは館に戻る。着飾ったソリュシャンが出迎える。リ・エスティーゼ王国の王都リ・エスティーゼの一等地に建つ、小さいけれども立派な建物がセバスたちの仮の拠点だった。以前も商人が使っていたために住居とは不釣り合いなまでに大きな倉庫があった。
「セバス様。ご首尾は如何でした?」
セバスはコートを脱ぎながら答える。
「順調です。リ・エスティーゼの商工会に参加するほぼ全ての商人から寄付の約束を取り付けられました。更に王家からもわずかながら寄付を頂きました。これでヴァンパイア討伐の報酬は予定より多額になりそうです」
ソリュシャンは悦ぶ。
「お疲れ様で御座いました。ではアインズ様にご報告させていただきます」
「お願いします。ソリュシャン」
◆
「しかし……そうなると少うし制限が必要となりんしょう。……いか程までなら良いでありんすか?」
シャルティアは少し不満がありそうだ。無理もない。同行するミスリル級冒険者を生かしたまま目撃者に仕立て上げ、かつ任務を遂げるには自らの力に制限をかけなくてはならないからだ。
「……そうだな。とりあえず魔法は第三位階まで、スポイトランスはできるだけ使用しない、という線だな」
「……仕方ないでありんすな。ですが……ぷれいやーが相手の場合は全力を使わせていただきたく存じありんす」
アインズは頷く。そのときは二人して全力で攻撃しなくてはならないだろう。
「ところで……首尾はどうなっている?」
シャルティアは妖艷に微笑んだ。
「以前にデミウルゴスが捕縛した野盗の中の一人、これが一番強いようでありんしたから、私自らの下僕にいたしんした。で、後は漆黒聖典やらの強者らしき二名の合計三名を既に用意んしんす。彼らには既に相手を殺さぬ程度に暴れさせておりんすが……」
シャルティアはここで言葉を止める。
「敵役にはちいと弱すぎせんでありんすか?」
アインズは悩む。この世界はユグドラシル基準では計れない。なにしろ『王国最強』ガゼフがデスナイトと互角に過ぎないのだから。
「……まあ良い。今回はナザリックのシモベは使わずに済ませたい。それに──」
アインズは嗤う。
「今回はあくまでもスレイン法国の仕業なのだからな」
シャルティアはふと思い出したかのように口を開く。
「そういえば報告が遅れんしたが、以前にエ・ランテル外れで対戦した首謀者の死体、なにかに使えるかもしれないと思いんして回収してありんす。アウラの偽りのナザリックにオレオールの結界を張りんし部屋に他の眠らせた漆黒聖典やらと一緒にしてありんす」
「そうか。──アウラのあれはもう出来上がっているのか?」
シャルティアは昨日、偽りのナザリックを訪れた際のことを思い返す。
「アウラはまだまだと言っていたでありんすが、ほぼ完成してありんすな」
アインズは頷く。
「うむ。では頃合だな。吸血鬼討伐前に一旦偽りのナザリックに行く。シャルティア、お前も同行しろ」
「仰せのままにありんす」