もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】 作:善太夫
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エ・ランテルに戻ってきたブリタたちは冒険者組合に報告を終え、酒場に集まる。郊外の野盗の砦を急襲、拐われていた女たちの解放、更には野盗の黒幕の謎の部隊との交戦、それらの成果に誰もが高揚していた。
任務に投入されたのは七人構成の部隊が二つ。十四人全員が無事に戻ってこられたのは実に幸運だった。これは謎の部隊が交戦直後に姿を消したことも大きい。
これで私もいつかは──
いつしかミスリル級冒険者に──それがブリタの夢だった。今回の事件で一段、夢への階段を登ることができたに違いない。
「私らの幸運に!」
ブリタの音頭に冒険者たちは一斉にジョッキを突き上げた。
◆
「どうしたものか……」
冒険者組合の奥の部屋では冒険者組合長のアインザック、都市長のパナソレイ、魔術師組合長のラケシルの三人が同じ様に眉間に皺を寄せて悩んでいた。
彼らの目下の悩み事はエ・ランテル郊外の野盗の砦から回収されたいくつかの文書、更に冒険者が交戦した際に残された謎の部隊の物的証拠のいくつかについてだ。
「どう思うかね?」
パナソレイは二人に意見を求める。
「間違いない。これだけの魔法装備、やはりスレイン法国の部隊のもの、だろうな」
ラケシルが断言する。砦から押収した文書は曖昧なものだったがこれで確定したと考えて良さそうだ。
「捕らえた野盗からの証言は無理なようだ。なんらかの精神作用魔法で回復させるのは無理らしい」
アインザックの言葉にラケシルが付け加える。
「……言うまでもないが、法国のやつらなら可能だろうな」
パナソレイはエ・ランテルを預かる都市長としての結論を出す。
「……王都へは私から報告する。尚、この件は極秘にしておこう。事は外交問題だからな。……さて──」
パナソレイは緊張を解く。
「ぷひー。でわ、たのむぞ」
◆
王宮で開かれた御前会議は紛糾し、結論が出ないまま国王の退出により終了した。第二王子のザナックはレエブン候と部屋を出る所で呼び止められた。
「お兄様、よろしいでしょうか? 大切なお話がありますので後程私の部屋にお越しいただけませんでしょうか?」
ザナックは思わずレエブン候と顔を見合わせる。
「そうですわね。よろしければレエブン候もご一緒に如何です?」
「とっても美味しい紅茶が手にはいりましてよ」
◆
「で、なんの用だ?」
しびれを切らしてザナックが切り出す。部屋に招いてからずっとラナーは紅茶の話しかしていない。しかし彼女がザナックたちを呼んだのは明らかに別の目的があるはずだ。
両手で口元に運んでいたティーカップをテーブルに置くとラナーは姿勢を正す。
「お兄様は現在の我国をどうご覧になられますか?」
ラナーの正視にザナックはしどろもどろになる。
「……うん? どうと言われてもな……まあ、好ましくはないな。うん」
ラナーは断言する。
「このままでは王国は三年と経たずに滅びますわ。だから──」
ラナーは続けた。
「お父様には引退していただこうと考えていますの」
ザナックは言葉を失った。確かに自分もそのことを考えたことは正直ある。しかし、時期尚早として胸の奥に仕舞っていて、口に出したことは無い。だからこそラナーの言葉は自らの秘部をさらけ出されたようで恐ろしかった。
「──で、父上を引退させてどうする?」
ザナックの声は掠れていた。
「お兄様に王位についていただきます」
ラナーの言葉でザナックは理解した。これは同盟だ。兄のバルブロは第一王子として優位にいる。それをラナーと自分が手を組んで引っくり返そうというのである。
「──お前への報酬は?」
大切なことだ。これをキチンとしておかないと同盟は組めない。ラナーは首をかしげ、しばし思案した。
「特にございませんわ。ただ──
クライムとはラナーの護衛の若者で、ある日ラナーが拾ってきた経緯がある。
同盟は成立した。
◆
「姐さん、カルネ村が見えてきましたぜ」
入り口を通り抜けて広場に馬車を乗り進める。と、何やら人集りができていた。
エンリは顔見知りの村人に訊ねるとなんでも村に修道女が新しく来ているという。
「アインズ様の紹介で聖ナザリック教会のルプスレギナ様がいらっしゃってくださったのですよ。村人に無償で治療を行なってくださってね、真に有り難い」
エンリはアインズの気遣いに感謝するのだった。
(ゴウン様が下さったアイテム、どうしたら良いかしら? 機会があればルプスレギナ様にも相談してみようかな?)
◆
「うむ。とりあえず父上に後継者を指名してもらう……これは同意する。根回しにはレエブン候に頼むとしよう。……しかし反対派をどうするか?」
この問題は今まで何度もザナックが悩んできたことだ。だが、ラナーはあっさりと解決策を提示する。
「それに今回の事件を利用します。まず、スレイン法国の策謀を世に明らかにして糾弾する檄文を出しましょう。以前彼らと交戦した戦士長にも一役買ってもらいます。そして、彼らと密約していたとして、反対派の力を削ぎます。とはいっても反対派貴族の手足となっている犯罪組織や悪徳商人を徹底的に排除すれば良いでしょうね」
ザナックは残った問題を口にする。
「……だが妹よ。国内に波風を立てるのはまずいのではないのか? 帝国が黙ってはいまい」
帝国とはずっと戦争状態が続いている。今でこそ小競合いをするだけだが、状況次第ではどうなるかわからない。
「帝国とは停戦協定を結びましょう」
ザナックもレエブン候も無理だ、と叫びそうになる──が、ラナーは言いはなった。
「私がバハルス帝国に行き、ジルクニフ皇帝を説得します」