もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
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◆cap06 フールーダとカルネ村自警団のエンリ

 バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスはその日、忙しかった。

 

「さて……どうしますかな? 陛下」

 

 帝国最強の大魔法詠唱者(マジックキャスター)三重魔法詠唱者(トライアッド)」フールーダ・パラダインが髭をしごきながら側に寄る。

 

「スレイン法国はおそらく周辺国家の中でも最強。まともに戦っては勝ち目は無いでしょうな」

 

 フールーダの言葉に対してジルクニフは不敵に笑う。

 

「わかっている。爺は私がそんな無能だと思うか? まあ、このまま何も意思表示しないわけにもいくまい? 法国にはたまに躾が必要であろう」

 

 ジルクニフとフールーダは笑いあった。

 

 しかし、フールーダの目はジルクニフの瞳の奥に揺らめく怒りを見逃さなかった。首から下げたいびつな木彫りの人形を思わず握りしめる。

 

 このアイテムは村娘が首から下げていた物だった──何らかのマジックアイテムなのは間違いない。だか、結局何もわからなかった。

 

 こうして身につけておくのは危険があるとも思ったが、敢えてそうしているのには理由があった。他に置いておく方がかえって危険なのだという判断。それにフールーダには自信があった。なにしろ自分を越える魔法詠唱者(マジックキャスター)の存在など考えられなかった。

 

「あの娘はどうした? エンリとかいったか……」

 

「──はっ、陛下。かの者は単なる村娘と思われたため、既に帰しました」

 

 屹立したままで“不動”ナザミ・エネックが答える。彼は帝国が誇る四騎士の一人で、今回のスレイン法国への行軍の指揮官だ。

 

「ふむ……そうか。それにしても……ゴウン殿、だったな。どう思う?」

 

 ジルクニフの問いかけにフールーダが答える。ナザミは口を結び、彫像のように屹立の姿勢を保つ。

 

「……一度是非とも手合わせしたいものですな。この歳まで生き永らえていて、なかなか強敵といえる人物に出会えませんでしてな。かの十三英雄の一人、ベルスー・カウラウならば──」

 

「──爺。昔話ならばここではやめてくれないか? 私が知りたいのはアインズ・ウール・ゴウンという人物の力量についてだ」

 

 ジルクニフは苛立っていた。フールーダは無意識に木彫りの人形を触りながら答える。

 

「……なんとも言えませんな。仮面をつけた胡散臭い魔法詠唱者(マジックキャスター)であるとしか……たしか王国にもそんな人物がおりましたが……まあ、私と良い勝負ができるとは思えませんな」

 

 ジルクニフは頷いた。

 

「さて……それでは、出陣だ。今回はあくまでもスレイン法国の奸計を世に示し、我がバハルス帝国の正義を示す戦いだ。故の私自らの親征だ。兵士に徹底させよ」

 

 

 

 

 

 

 カルネ村への帰路。『荷物』が無くなった荷馬車とアインズからの任務という大役を無事に終えたエンリの心は軽かった。

 

「…………疲れた」

 

 アインズからの依頼はまず、バハルス帝国に『荷物』を届けること、その際に『カルネ村自警団』を名乗ること、そして最後の依頼は──

 

 アインズは自らエンリの首にひもがついた木彫りの人形をかけた。

 

「よいかね? スレイン法国で誰かこの木彫りの人形に興味を示す人物がいたらこの人形をさりげなく渡すのだ。あくまでもさりげなくだ。……そうだな、これは幸運のお守りとして私がお前に持たせたことにしよう。心配するな。誰も興味を示さなかったらそれはそれで良い。…………だが、少し勿体ないな。そうだ、城内に落としていけ。そうすれば誰かが拾うだろう。ふむ。良い釣りができれば良いな」

 

 エンリが木彫りの人形を渡した相手はフールーダとかいうバハルス帝国の偉い魔術師だった。アインズ様の期待に応えられたら良いな、そう思った。カルネ村への帰路は心が軽かった。

 

 帰ったら荷馬車を綺麗に洗わなくてはならない。ンフィーが良い魔法を知っていれば良いのだけれど……

 

 エンリはなんとなく今回の出来事で父母の無念が少しだけ晴れたかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

「カルネ村自警団? 別に陛下に報告するまでもあるまい。陳情なら係の者に聞き取らせろ」

 

 バジウッドは思わず苛立つ。たかが農民の陳情に付き合わされるのは御免だった。ただでさえ昨夜いささか飲み過ぎて若干の二日酔なのだ。

 

 しかし次の瞬間、彼の酔いは吹っ飛ぶ。

 

「それが……荷馬車で来ているのですが……村を襲って返り討ちにした我が軍の兵士の死体を乗せているのだそうです」

 

 

 

 

 

 

 事は重大だった。それは首席宮廷魔術師のフールーダが自ら事情聴取に赴いたことからもわかる。

 

 兵士の一人がフールーダに耳打ちする。あの兵士の死体は全て帝国の人間のものではなかった。しかし、装備は全て帝国のもの。フールーダは呪文を唱える。すると鎧や兜に小さな文字が浮かび上がる。それはいわば製造日や支給先などのデータを意味するもので、以前に消息不明になった部隊のものだとわかった。つまりは偽装工作──どうやらエンリという娘の話は正しいようだ。

 

 フールーダはエンリがいる部屋に入る。

 

「私はこのバハルス帝国で首席宮廷魔術師の位置にいるフールーダという。兵士から話は聞いた。よってカルネ村で起きた事はもう話さなくても良い。聞きたいのはその村を救ったという魔術師についてじゃ──アイン──」

 

「──アインズ・ウール・ゴウン様です」

 

 エンリの瞳には怯えの色が濃くなる。

 

「……むう。そのアインズ──ゴウン殿の主張の通りお主の村を襲った者は我ら帝国の者ではない。おそらくは法国じゃな」

 

 フールーダは防具の流出経路からスレイン法国が首謀者と確信していたがわざとぼやかす。

 

「ゴウン殿とはどんな人物かな?」

 

 エンリはアインズについて話す。全てあらかじめアインズから指示された内容を。

 

 ふと、フールーダはエンリの胸もとの粗末な木彫りの人形に目を止める。彼のタレントはそれがなかなかのマジックアイテムだと見抜いていた。

 

 エンリはフールーダに木彫りの人形を見せた。そして演技をする。バハルス帝国までの道中で何度も練習してきた。エンリの演技は完璧だった。








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