もしもシャルティア・ブラッドフォールンがポンコツでなかったら……【完結】   作:善太夫
<< 前の話 次の話 >>

6 / 25
◆cap05 カイレの死

 スレイン法国は揺れていた。土の巫女姫の突然の爆死に始まり陽光聖典の消滅、そして漆黒聖典の壊滅とカイレの行方不明。カイレの行方不明はスレイン法国の至宝『ケイ・セケ・コゥク』の行方不明でもあった。

 

 スレイン法国の最奥──最高神官長会議が行われる部屋では恒例の掃除が行われていた。掃除をする神官長は皆、一様に暗い顔で押し黙っていた。そしてそれは会議が始まってからも続いた。

 

「……今日もまた人間たる我々の命があったことを神に感謝いたします」

 

 重い空気を破り、最高神官長が祈りの言葉を述べる。

 

「感謝いたし──」

 

 神官長たちが口にした瞬間にいきなり扉が開けられた。

 

「大変です! カイレ様が! カイレ様がお戻りになりました!」

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林の側に延々と続く街道を一台の荷馬車が走っていた。馬車を操るのはまだ少女──カルネ村のエンリである。

 

「姐さん、このペースなら明日にはアーウィンタールに着きますね」

 

 ゴブリンの隊長(ジュゲム)が声をかける。エンリは無言だ。不安もある。

 

 運転しながらもついつい荷台を気にしてしまう。荷台にはアインズからの依頼の『荷物』がある。

 

 荷台にはカイジャリたちも乗っているが、よく平気なものだ。エンリは最初にアインズから『荷物』を見せられたときのことを思い出し、思わず吐きそうになる。

 

(我慢しなきゃ。これもカルネ村を守るため。ゴブリンさんたちのためにも、きっとなる)

 

 エンリは歯を食いしばり馬車を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国の中央に高くそびえ立つ議事堂の前に彼女(カイレ)は立っていた。何故か首に輪にしたロープを巻きつけ、足には重りの鉄球がついた枷をしていた。重りを引き摺ってきたような跡が城外に延々と延びていた。

 

 無表情に強張った顔でずっと口の中で何やら呟いている。神官長の中でも若いレイモンが近づいて耳を近付けてみる──と、レイモンは顔色を変えあわてて胸もとで十字を切る。彼が耳にしたのは神への呪詛の言葉であった。

 

 突然カイレの身体が痙攣をするかのように震え出す。震えはだんだん大きくなり、不意に止まる。そして見守る神官長たちを舐め回すかのように見、腹の底から絞り出すかのような声を出した。それはカイレのものとは到底思えないものだった。

 

「聞け! 法国守護たる愚か者共よ! 汝らは無辜の民を謀略により殺害した! 汝らは権謀を用いて王国と帝国とを争いせしめた! 汝らは人類の救い手を標榜しながら野盗を操り私欲を(ほしいまま)にした! これらの罪は今、白日のもと、明らかとなった! これより大いなる天罰により、汝らは滅ぶべし! 我は自らの命にて購わん! 汝ら我に続け!」

 

 そう叫ぶとナイフを両手で持ち、自らの心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

 

「なんとおそろしい……」

 

 神官長たちは目の前で起きた事が信じられずにいた。遠巻きにいる者たちの不気味なまでの静けさがかえってこの場で起こった事態の重要さを思い返させるのだった。

 

「しかし『ケイ・セケ・コゥク』が戻ってきたのは不幸中の幸い……」

 

 光の神官長イヴォンがため息をつく。それに対してレイモンが首を振る。

 

「……『ケイ・セケ・コゥク』は使えません。ただの衣服と何ら変わらないものになっています」

 

「……そんな馬鹿な? その……すり替えられたのではないかね?」

 

 レイモンもその可能性は考えた。可能性が全く無いとは言えないが、偽物の可能性は低いだろう。何故なら|これだけの生地を作り出す技術《・・・・・・・・・・・・・・》が我々にはないからだ。ふと、レイモンは一つの可能性に行き当たる。もしかしたら使用できる回数には限りがあったのではないのか? 彼の知る限り過去に『ケイ・セケ・コゥク』が使用されたのは数回しかない。だとすれば充分にあり得る話だ。

 

 ここでレイモンは部下に呼ばれて中座する。六色聖典を束ねる彼は多忙であった。

 

「いったい何が起きている? さっぱりわからん」

 

 最高神官長が思わず喚く。

 

「……これは神が我々を滅ぼそうということかもしれん。しかし……最後の野盗がどうのとはなんじゃ?」

 

 ジネディーヌの疑問に誰も答えられなかった。

 

「……カイレの復活はどうしましょうか? 復活させれば何かしら敵に関する情報が得られますし、なにより貴重な戦力が──」

 

 唯一の女性、ベレニスの言葉を最高神官長は止める。

 

「事態が明らかになるまでは考えるべきではない。カイレのあの様子、お主も見たであろう? 民衆の不安が増す事態は避けるべきだろうな」

 

 最高神官長の主張はもっともだった。誰もが押し黙り、気まずい沈黙が続く。

 

 そんな重い空気を変えたのは戻ってきたレイモンだった。彼はいきなり口を開く。

 

「──皆さんに残念な報告があります」

 

 レイモンの唇は微かに震えていた。

 

「これ以上残念なことなど無いじゃろう?」

 

 レイモンは首を振る。

 

「帝国が……バハルス帝国が……我々、スレイン法国に対し宣戦布告をしてきました」

 

 スレイン法国の崩壊が、始まった。








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。